第10話「共闘」

――翌日


「ん? なんだ?」


 蓮はふとテレビに映るタワー攻略者募集という文字が気になりキーボードを叩く手を止めテレビへと姿勢を正した。


『この度、タワー10階層攻略のため、各地域のタワーにてエリアボス戦に挑むホルダーの皆様を募ります!』


『3人以上のパーティーを組みご応募下さい』


 そこには国の機関からの告知が流れていた。


「前に葵が言ってたやつか……」


 何故このような運びになったかというと1組のパーティーが10階層まで辿り着いたのが始まりだ。


 10階層の部屋に入ると次に進む階段は無い。


 そして円形の部屋中央にある碑には『100の同じ志を持つものと共に各地へ散り、同じ時を刻み挑め』という内容の文が書かれていたらしい。


 推察するに2つの条件を満たした上でこの部屋に入るとという事だろう。


 1つは100人以上のパーティーを組みこの部屋に入ること。


 2つ目は『各地へ散り同じ時』とある事から3年前に出現したタワー複数、もしくは全てから時間を合わせて10階層へ入場する事。


 これを公表した機関は各地へ情報を伝達し、機関配属のホルダーに関わらず、野良ホルダーを含めた大規模な募集がなされた。


 今テレビで流れているのが正にそうだ。


 これまで到達したことの無い10階層以上の探索が進むかもしれないということもあり、躍起になって募集を始めている。


 すると何ともご都合主義な事に葵から電話が掛かってきた。


「蓮!あれ本当だったんだね!……で、どうする?」


「いきなりだな!どうするってホルダー募集の事か?」


 葵の唐突な問いに戸惑った。


 危険も伴うが、期間的にはまだ先ということもあり蓮は答えに詰まった。


 本来なら現状レベルも足りて無いし断るべきだ。


 しかし、好奇心がそれを邪魔している。


 実際、今タワーに入っていて危険を感じることもあるが帰還用のアイテムのせいでその感覚が鈍っているのかもしれない。


 そしてもう一つ、純粋な気持ちが込み上げてきた。


 (試したい。自分を。どこまでやれるのか。これまで散々ゴミだ、無能だと呼ばれたこの力がどこまで通用するのか。)


 蓮は一呼吸つくと口を開いた。


「やってみようか。俺も10階層より上の階には興味あるしな。その代わり決行時期の1ヶ月後までなるべくレベルを上げて挑もう」


「そうこなくっちゃ! それなら早速応募してレベル上げしよう! あ、でも3人以上だから後1人誘わないとだね」


「そーだな。ちょっと声掛けてみるよ」


 そう告げると電話を切った。


 (――とはいえ、1人しかいないのだが……あまり気乗りはしないな)


「あー、もしもし?  百合ゆり、今大丈夫か?」


「うん、どうしたの急に? お兄ちゃんから電話してくるなんて珍しいね」


「あ、前の事ならちゃんと反省してますよ〜」


「あ、いや、前あんな事言っておいて何なんだが10階層の大規模パーティーの話は知ってるか?」


「ついさっきテレビで流れてたから知ってるけどどーしたの?」


「あれに一緒に行ってくれないか? もう1人は大学の同級生がいるんだが、後1人足りなくてな」


 百合は一瞬戸惑ったようでスマホを落としてしまいスピーカーからガタッと音がした。


「大丈夫か?」


「まさかお兄ちゃんからそんな誘いが来るなんて思わなかったから驚いちゃった」


「行っても良いなら行くよ! お兄ちゃんほっとくと危ないからね」


 ……


 こっちのセリフでもあるんだがと思ったが行ってくれるならと思い言葉を呑んだ。


 それに百合が10階層に勝手に挑むのも防げたと考えれば良かったと思う。


◇◇


 10階層の話をしてから程なくして三人の予定がちょうど空いたのでこの日はタワーに集まった。


 葵と百合は俺が二人の話をするくらいで、実際に会ったことは一度も無かった。


 正直、女性同士の関係というものには慣れていないので上手くやっていけるかは不安である。


 「お兄ちゃーん!……それと葵さんですよね。よろしくお願いします」


 「吉川 葵です。よろしくね。百合ちゃん!」


 (よしっ。別に二人とも気まずい感じもしてないし多分大丈夫だろ!)


 三人はタワーに入る前に荷物の確認、特にエスプカードの所持については念入りに確認してタワーへ入っていった。


 タワー入場から1時間程経過して三人はタワー4階層で戦闘をしている。


 のだが……


「蓮! 横から来てるよ!」


「お兄ちゃん! 横!」


「……分かった!はあっ!」


……


「百合ちゃん、私が言った後にもう一回同じこと言わなくて良いよ?」


「私はお兄ちゃんが心配だから言ってるだけですけど? それなら葵さんが言わなければいいんじゃないんですか?」


「分かったから……二人とも落ち着いてくれ」


 二人はこんな時だけ口を揃えて「落ち着いてる!」と言われ、蓮は何も言い返せず素直に謝った。


 何故謝っているのかも分からないがここは謝っておくのが正解と頭の中で何かがそう告げている。


 二人は少し前からこの調子の為、「最早、俺に攻撃を仕掛けてくるな敵よ」と心の中で連呼していた。


 俺としてはどちらからも心配されて非常にありがたい話なのだが、このピリピリ感が耐え難い。


 常に監視されているかのような重圧がのしかかる。


 (タワー入る前の平穏を返してくれぇぇぇぇぇぇ……)



 二人のバトルを見守りながらも、それとは裏腹に三人での戦闘は時間が経つごとに練度が上がっていった。


 以外にも口ではモンスターとの戦闘以上の激しいバトルが行われている葵と百合の連携は最初に比べて格段に向上していた。


 (やはり女性というものはよく分からない)


 蓮は今回の探索において女性の扱いの難しさについてよく知ることになった。


「お、レベルが上がった」


「おめでとー」


「三人での連携もスキルの確認も大体出来たし今日はこれぐらいにしておこうか」


「そうだね! けどまだレベルは足りてないし、またタワー来てレベル上げだなぁ」


「また近いうち行こうね! ゆ・り・ちゃんも!」


「葵さんがそんなに行きたいなら行ってあ・げ・ま・す・よ!」


 (あ、この流れまだ続いてたんだ……)


 蓮は改めて女性を敵に回さないと心に誓った。


 そして三人はタワーを後にした。


 この後もタワーへは何度も挑み、三人のレベルは30目前まできていた。


 そしてパーティー結成から1か月が経ち10階層攻略の決行時期がやってきた。


 自分たちが住んでいる地域から一番近いタワー入口には100人を超えるホルダーが集まっていた。


 その中に三人の姿もあった。

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