第4話です 不思議ちゃん?真面目ちゃん?

 私の危惧していた、あんなことやこんなことは起こりませんでした。

 陰湿な嫌がらせを受けることもありません。

 トイレに連れ込まれて、頭から水をかけられることもありません。


「○○って○○だよね~」「ああ、わかる~、」みたいな陰口を言われることもありません。

 平穏な高校生活を送れるようで何よりです。

 危うく入学から数週間ほどで目をつけられるところでした。


「いや、すーちゃんは自分で思っている以上にみんなから目ーつけられてるんで」


 とふーちゃん。

 

「やっぱり目立ち過ぎましたかね……」


「いや、そうじゃなくて、すーちゃんは中学のころから目立ってるんよ。綺麗だし。それに同じ中学の出身の子も多いし、すーちゃんのことを知らない子の方が少ないって」


「中学のころ私それほど目立つことしていましたっけ?」


「うん……まあ、色々目立ってるよ。自覚なし?」


 それほど目立つことをした覚えがないのですが……。

 ふーちゃんとの会話がひと通り終わると、私は借りた本を返すために図書室に向かうことにしました。


「どこ行くん?」


「借りた本を返しに図書室へ」


「ああ、うちも一緒に付いて行っていい? 図書室の中ちゃんと見たことないんだよね~。おすすめの本があったら教えてよ」


「良いですよ。おすすめの本なら沢山ありますが、やはり自分が読みたい本を読む方がモチベーションが上がると思います。一緒に探しましょう」


 私はふーちゃんと図書室に向かいました。

 長い廊下を抜けて、南棟の一番奥が図書室になっています。

 中に入ってすぐに受付があるので、図書委員に借りた本を返して、新たな本を探しに冒険に出ます。


 どういう冒険をしましょうか。

 ドラゴンや魔法なんかがあるファンタジーの世界とか、近未来の世界とか、吸血鬼や幽霊、ゾンビなんかが出てくる怖い世界もいいでね。

 エッセイや旅行記で知らない場所を旅した気分に浸るのも捨てがたい。


 やはり王道のクラシックな古典にすべきでしょうか……?

 はたまた教養書などで知識の幅を広げるべきか……。

 どちらかというと優柔不断な方ですから、パッと決められません。


 そんな具合にあっちへふらふら、こっちへふらふら本棚の間を歩き回っていると、「私を呼んでいる気がして、その方角に進んで行くと、この本がまるで光ったように目についたんです」とふーちゃんにこの本を選んだ理由を説明しました。


「すーちゃん……。とうとう不思議ちゃんの域に達したか~……。これで不思議ちゃん属性好きも取り込めるな」


「違いますよ。気がした、と言っただけです。本当に声が聞こえて、光が見えた訳ではありません……」


 私は身振り手振りバタバタと、誤解を解くために必死に抗議しました。


「はいはい。わかってるって。すーちゃんは不思議ちゃんだけど霊感ないもんね。中学のころ友達と本当に出るっていう心霊スポットに行ったとき、うちと他の子たちが悪寒がするとか、気分を悪くしたけど、すーちゃん一人だけけろっとしてたもんな」


「あれ、本当だったんですか……? 私はてっきりみんなが私を驚かすために芝居をうっているものだとばかり……。何だか今ごろになって悪寒が……」


 ホラー映画とか小説、漫画は読めますが、怖いのは嫌いです。

 ですが怖いものに惹かれます。

 怖いもの見たさで頭から毛布をかぶりながら、真夏の怖い話とかよく見てしまいます……。


 幽霊とか超常現象とか信じていないように見えるでしょうけれど、そんなことはありません。


 私は魂などを信じていないので、人間の魂が幽霊になったという皆が思い描く『幽霊』は信じていませんが、妖怪系の魑魅魍魎はいたら面白いなと思っています。

 

 不思議な力が引き起こす超常現象はあるかもしれませんし、宇宙生命体だっていたら面白いです。

 テレビでまことしやかに放送されるホラー企画や、未確認飛行物体目撃情報は見ていてワクワクするじゃないですか。

 そういうのを科学的な視点から放送して欲しいものですね。


「ふーちゃんは何を借りたのですか?」


「ラノベ」


 ふーちゃんはいわゆるライトノベルというジャンルの小説を、表紙が見えるようにして私に見せてくれました。

 かわいい女の子の絵が描かれていて、表紙買いをしてしまいそうです。

 何でもライトノベルの一巻は内容よりも表紙が勝負なのだと聞きます。


 二巻目からは作者の力量で、一巻はイラストレーターの絵。

 表紙の絵が良ければ手に取ってもらえる確率も上がりますが、二巻目からは面白さが要求されるからです。


 そして移り変わりも激しく、すぐに消える作品も多々あるそうです。

 ラノベ作家より、普通に文芸賞を取って、文芸作家で頑張る方がまだ生き残る可能性があるのかもしれません。


 そういうと文芸作家を軽視しているように聞こえてしまいますね……。

 決して文芸作家を軽視している訳ではありません。

 どちらも大変な世界だと言いたいだけです。


 しかもです、今の時代は紙の本は殆ど売れませんから、出版社も大変なのだとか。

 好きな物語を書いて、食べていけるのならそれは幸せなことですが、そんなのごく一握りの人たちだけですよね。

 はぁ~……シビアな業界ですね……。


「どうしてその本を選んだのですか?」


「この絵の子が呼んでいたからさ」


「どっちが不思議ちゃんですか……」


 まあ、わかっていただけたと思いますが、とにかく表紙が勝負みたいですね。

 ちなみに私はタイトル買いをしてしまうことがよくあります。

 海外の邦訳のタイトルには、名タイトルが多い気がします。

 中でもSFの邦訳はとんでもなく、センスがいいですよね。

 

「今日、これから時間空いてる?」


「私ですか?」


「他に誰がいるんよ?」


「ふーちゃんのとなりにいる彼女に訊いているものと」


「うちのとなり……」


 ふーちゃんは体をびくつかせながら右側をゆっくり見た。


「誰もいないじゃん……。驚かせんといて……」


「いえ、いますよ。私が」


 私は自分を指さした。


「あ、そう……確かにとなりだわな……。で、どう?」


「空いていますが、陸上の練習はいいんですか?」


 私の通う高校は運動部が結構強いという話です。

 何でもスポーツ推薦で選手を集めているのだとか。

 どれだけ運動部が強かろうと、運動神経のない私には関係のない話なのですが。


「今日はいいの。最近遊んでないし、一緒に遊んで帰ろうよ。高校生は寄り道して帰るもんなんやで」


 私は居間でせんべいをボリボリ食べてくつろいでいた、母の顔が浮かびました。

 親が寄り道して帰れと推奨してくれているのです。

 たまには遊んで帰りましょう。


 家に帰ってもせんべいを食べるくらいしかすることはありませんし。

 ボリボリボリボリ。

 ズズズズ。


「それでは、寄り道して帰りましょうか」


「おう」


 私とふーちゃんはあっちへふらふらこっちへふらふら、道端に生える道草のように風に揺られながら寄り道することにし、久しぶりに青春を謳歌しました――。

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