第51話 またかよ…

「どお?似合ってる?」

 今は誕生会当日の昼過ぎ。あと数時間したら誕生会が始まるので俺は『カンティーク』で最終調整を行い完成した正装を自分の部屋の中で着ていた。

 ハッツェンとマリエルの前でクルリと一周する。新しい服と言うのはそれだけでテンションが上がってしまうのだ。


「お似合いですよアル様」

「ええ、とっても。若様お似合いです」


 ハッツェンとマリエルが褒めてくれる。

 ハッツェンは少し目を潤めていた。心からの賛辞だということが伝わってくる。


 俺がやらかしてしまった超高級店爆買ばくがい事件から既に四日が経過していた。

 あの日リア姉との買い物の後、恐る恐る屋敷に戻ったのだが父上には何も言われなかった。

 リア姉と俺が爆買いしてしまった事を知らないはずがないので「流石ヴァンティエール辺境伯家、財力ざいりょく桁違けたちがいだ。」と一人納得していると静かに近づいてきた家宰かさいのバーナードに「511万です。以後お気を付けて」と意味深なことを言われた。ごめんなさい、反省しています。

 ちなみに王都別邸に着いた初日に使用人を代表して出迎えてくれた執事服の老人がバーナードだ。


 他にも出来事はあった。

 一つは王都観光をもう一度やり直したということだ。

 王都に着いた翌日の観光はあまりいい思い出がなかったのでそのため俺が「もう一度行くか?」と言ったところ「行きます!」とグンターとイーヴォとは違ってまだ一度しか王都で遊んでいなかったルーリーが良い返事をしたので行くことになった。

 俺のポケットマネーからグンターには少し立派な木剣をルーリーには大きめの人形を、セレクトゥに残っている子供たちへのお土産を買ったので既に俺の財布はすっからかんだ。

 イーヴォは既にリア姉に寄木細工よせぎざいくを買ってもらっていたので我慢してもらった。


 買い物の途中で思ったのだがルーリーは少し明るくなった気がする。王都観光を提案した際の返事もそうだし、話しかけてもどもることが少なくなっているし、「私なんか・・・」という雰囲気もなくなった。ルーリー本人の頑張りももちろんあるのだろうが、ばあちゃんが関係していることは間違いない。うちの家族やっぱすげぇな。


 また暗記事項あんきじこうを全て覚えてしまった俺はひまだったので料理のレシピ提供もした。


 パーティ会場にはビュッフェ形式で食事が至る所に配置される。

 国王陛下おじい様がお越しになるということでヴァンティエール家お抱えの料理人たちはパーティ会場が王都に変更される前から気合を入れて料理を選定したり開発したりしていたのでかなりの数の料理を提案したのだがほぼ却下された。仕方ない、今回3種類だけでも採用されたことに感謝しよう。


 その3種類とはエッグベネディクト、エスカルゴ、タルトタタンだ。統一性はほとんどない。しいて挙げるのならば名前がカッコいい?そんなとこだ。

 本当は唐揚げとかエビフライトとかハンバーグを出したかったのだけど速攻で料理長のゴッツェルにボツを食らった。

 理由は簡単、見た目が良くないから。想像してみてほしい、煌びやかなドレスコードに身を包んだ貴人たちが唐揚げをぱくついているところを

 ―――な?似合わねぇだろ?

 逆に言えば貴人のパーティーにふさわしい見た目と味、主役のメニューを邪魔しなさそうなものなら大丈夫というわけだ。

 エッグベネディクトはクアーリャ小型の鳥の魔物の卵を使い小型化してお洒落に、エスカルゴは珍味とされているシュネッケカタツムリの魔物幼体ようたいを使い物珍ものめずらしさを、タルトタタンはナップルという果実を使って鮮やかさを、とこんな風にアレンジすることで貴族のパーティにふさわしい見た目にした。

 ちなみにアレンジの発想自体は俺がしたのだが実際に料理を開発したのは腕に自信があるものの信用という面でまだ足りないものがありパーティーの料理開発・調理から外されていた若手の料理人たちだ。

  俺は料理人でも何でもないので彼らに力を借りる(暇つぶし)、若手の料理人たちは信用がない分をアルテュールという信用でおぎなう。

「ウィンウィンじゃないか」と話しかけたところもろ手を挙げて賛同してくれた。

 構想自体は俺の頭で済ませていたため全くのゼロからではないのだが数日でパーティーに出せるレベルの完成度に料理を引き上げた彼らの腕は本物だろう。若手のこれからが楽しみだ

 料理人たちには「どこでこのような知識を?」と聞かれたので「本だ」と言っておいた。本最強説をここに提唱しよう。


 数日前の出来事にトリップしていると外から「アル~、入るわよ~」と聞こえてくると同時にリア姉が襲来する。その後ろから「お嬢様、お静かに―――失礼いたします。」と注意しながら綺麗なお辞儀じぎをして入ってくるアグニータが。


(変わらないなぁ。)

 色々大人になったところもあるけれど根は全く変わらないリア姉は青色のドレスを身に纏っていた。スカートの部分はふわっと広がっており逆さまにした薔薇ばらのようだ。


「リア姉、綺麗だよ。」


 率直な感想をありのまま伝える。一度店の方でも見たのだがその時は綺麗すぎて言葉にすることができずリア姉をいじけさせてしまった。同じ失敗を二度はしないのだ。


「ありがとう、アル。あなたも似合っているわよ。」


 昔みたいにカーッとなって逃げだす可愛い姉上を見れないのが残念だが、少しだけ頬を赤く染めているので良しとしよう。おそらく俺も赤くなっているだろうが…。


 しばらく無言で照れ合っているとアグニータが「お嬢様ご用件を」とリア姉に言う。

 言われたリア姉はというと「あ、そうだったわ。」と何かを思い出したようなリアクションをとっていた。なんだろう。


「アル、開始時間が少し早まったわ。あと4時間ほどあったのだけどおじい様が少し早めてしまったらしいの。すでに参加者たちが来始めているわ、いつでも会場に入れるように準備しておいて。」

「またやったの?おじい様」

「ええ。」


 おじい様また我慢ができなくなって予定を早めてしまったらしい。国王陛下よりも遅くに到着することは絶対にやってはいけないことだ。遅れてくること=陛下をお待たせすることになるからな。

 なので参加する貴族たちは大急ぎでうちにやってくる。となると必然的ひつぜんてきに俺たちも予定していた時間より早く行動しないといけない。


「ハッツェン、グンター達と一緒に子供部屋にいてくれるかい?」

「分かりました。」


 非常に残念だがハッツェン及びグンター達はパーティに出ることができないので部屋で待機となってしまう。俺と一緒に行動できるのはマリエルだ。


「マリエル、すぐに会場に入れるよう準備してくれ。」

「畏まりました。」


 指示をてきぱきと飛ばしながら数日前に会ったおじい様をおもう。


 ―――やってくれたな…。と




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