153 第50話 Dの悲劇 11 【700年前の惨劇10】
~人物紹介~
【裁判長】
氏名:メグネラ・アインバフ
性別:女性
年齢:42歳
職業:政務官
出世欲旺盛な法務参政官。
【代言人】
氏名:ビバン・ゲベネロール
年齢:54歳
職業:代言士(弁護士)
退任間近の国選代言人。
孫二人。
【国王】
氏名:???
年齢:52歳
職業:コルト王国国王
【魔女】
氏名:パーラ・ヌース
年齢:250歳
種族:魔女
【ラミア族の女】
氏名:ラミナス
年齢:1000歳以上
種族:ラミア族
職業:ラミア遺跡の守護者
この時代の【ラミアの森】と【ラミアの祠】を守護する金髪のラミア族。
レイミアとミヤビの母。
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「ふははは! 悪は完全に滅びた。これよりコルト王国は輝きを取り戻すであろうぞ!」
国王はダゴンの首を高々と持ち上げ、魔法拡声を使い声高々に勝鬨をあげた!
観衆もそれに呼応するように歓声を上げる!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「ついにリットール地方を全て取り返したぞ!」
「ざまあ見やがれ。やっぱり悪は滅ぶものなんだ!」
「コルト王国万歳! 国王陛下万歳!」
コロッセオの熱気は最高潮。止まることは無くどんどん過熱していく!
「ぐっふっふっ。いいぞ。敗戦のガス抜きもうまく行って愚民共の心を鷲摑みできたわ。これならもう少し税を搾り取っても大丈夫じゃろ。流石はワシじゃな」
国王はここまで思い通りに進めたことに満面の笑みを浮かべて自我自尊し、民からさらなる税を絞ろうなどと悪どいことを妄想した。
その脇では――
「いつまでも未練がましく肉体にしがみついていないで、さっさと出てきなさいな。往生際が肝心ですわよ。さあさあカモーン♪」
上機嫌の魔女パーラ・ヌースが、国王が振り回しているダゴンの首から霊魂が抜け出してくるのを待ち構えている。
また裁判員席付近でも――
「裁判長。国王陛下も国民も大満足ですな」
「代言人。ご苦労様でした」
「いやいや裁判長も見事なお裁きでしたぞ。これで昇進に向けて大きくポイントを稼ぎましたな!」
「ほほほ。まあそれほどでも……でもこれだけ注目されている裁判です。気合も入りましたよ。そう言えば代言人はこれが最後のお仕事だそうですね。勇退に華を添えられてよかったですわ」
「ははは。そうなんですよ。最後にいい仕事が回って来ましたわ。これからは法律相談でも受けながら孫とノンビリ過ごしますよ」
「ふふふ、今日の仕事はお孫さんに自慢できますわね」
「はははは!」
「ふふふふ♪」
裁判長と代言人は、大仕事をやり遂げた事に満足してお互いを称え合った。
このコロッセオに集った者は誰もが公開裁判と公開処刑に満足した。
たった今遅れて来た一人を除いて。
『まったく人族の多様な面には驚かされますね。まさかここまで醜悪な一面を持っていたとは』
魔法拡声された国王の声よりも、観衆の大歓声よりも、さらに大きな女性の声がビリビリとコロッセオに響いた。
いや違う。脳内に直接響いたのだ。
「な、なんじゃ! 今のは一体誰の声じゃ!?」
最高の気分に水を差され、国王は表情険しく辺りを見回した。
観衆もザワザワと騒めき、声の主を特定しようとした。
しかし声の発生源など全くわからない。
そんな中、魔女パーラ・ヌースが空を指さした。
「陛下、あそこですわ!」
「なにい、いったい何処じゃ!」
国王はパーラ・ヌースの指さした空を探した。
ところが指さした上空から何かが振って来た。
「なんじゃアレは!?」
空から降って来たもの。それは1000体を超える人間サイズの石像!
ドスン! グシャッ!
「ぎゃああああああああ!!!」
「わあああああああああ!!!」
「ひえええええええええ!!!」
「ぎゃんっ! あびゅっ!!!」
突然降って来た石像群にコロッセオは大パニックに陥った。
しかも石像は裁判員席付近に特に集中して落ちて来た。
「きゃあああ! 私には輝かしい未来が! 将来が……ぎゃん!」
「ひええええ! ワシも孫と悠悠自適なセカンドライフを……べぎゃっ!」
裁判長と代言人にも石像が脳天に直撃し、血と脳漿をぶちまけて即死した。
一方、国王はパーラ・ヌースが咄嗟に張った結界のおかげで難を逃れた。
「いいい一体何事じゃ!?」
「陛下、これは石像ではございませんわ!」
「なにい、しかしこれはどう見ても……いや待てよ」
降って来た石像らしき物体をよくよく見れば、全てコルト王国正規軍精鋭騎士隊のように見える。
『石像に在らず。これらはコルト王国が私に差し向けた兵にございます。突如【ラミアの森】に進軍しようとしてきましたので、やむを得ず石化しました』
またしても女の声が響く。
しかし今度は誰もが声の発生源を特定できた。
上空から【下半身が蛇の女】が一人ゆっくりと降りて来たのだ。
その姿を見た魔女パーラ・ヌースの顔色が一瞬で凍りついた。
「陛下、あの女は【ラミアの森】の守護者。ラミア族のラミナスですわ」
「なんじゃと!?」
パーラ・ヌースの言った通り。この蛇女の正体はラミア族のラミナス。
彼女は【ラミアの森】に侵攻しようとしてきたコルト王国軍を全て石化させて撃退。
その石化した王国兵を念動力で引っ提げて乗り込んで来たのだ。
コロッセオに降り立ったラミナスは、追放竜族達の遺体を目の当たりにして舌打ちした。
ラミナスは【ラミアの森】に辿り着いた追放竜族の僅かな一群の嘆願により、ダゴン達の救出(王国と交渉)を目論んでいたのだが間に合わなかったのである。
『来るのが遅かったようですね。コルト王国軍が攻め込んで来たせいで余計な時間を…… っ』
ラミナスは国王が片手にぶら下げているダゴンの首に気が付いた。
『その首をこちらに。
首を刎ねられて間もないダゴン。そのダゴンの首と断頭台に転がっていた胴体をラミナスは念動力で取り上げ時間停滞の魔法をかけた。
『我が名はラミア族のラミナス。コルト王国の国王とはどなたですか? 訊ねたい事があります』
「国王はワシじゃ。蛇の魔物め、一体何の用じゃ!」
『あなたがコルトの王? てっきり処刑人かと思いましたわ。私が守護している【ラミアの森】は何が有ろうとも不可侵領域であったはず。今更約束事を反故にするのですか? それ相応の御覚悟は御有りなのですね?』
「ふふん。そんな何代も前に交わした約束などワシの知った事ではないわ!」
『では侵略および戦争の意思有りと見て宜しいのですね?』
「問答無用じゃ。衛兵、あの蛇女を殺せ!」
国王の命令により、コロッセオ内を警備していた百人余りの衛兵が、一斉にラミナスに襲いかかった。
「いいぞ衛兵、やっちまえ!」
「そんな蛇女の一匹や二匹、大した事はねぇ!」
場内の観衆もラミナスに剣を向ける衛兵を応援し始めた。
だがその衛兵達に対してラミナスの目が妖しく輝き始める!
「
ラミナス目から危険な眼光が拡散放射、瞬間!
ベキベキベキベキ!
「ぎゃあああああああああああ!」
「身体が石に!」
「助けて!助け……」
魔力耐性の弱い普通の人族なら、いとも簡単に集団石化させてしまう。
国王が放った衛兵達も一瞬で石化してしまい全滅してしまった。
「ふっ、なかなかやるではないか」
「だが我らにチャチな石化は通用せぬぞ」
続いて現れたのはセレナを魅了した8人の召喚勇者達!
流石に勇者と呼ぶだけの事はあるのかラミナスの放つ【
「妖怪変化め。成敗してくれるわ!」
「貴様も魅了漬けにしてくれようぞ!」
「「「「
ギパァ!
8人分の
だがしかし、ラミナスには全く効果が無い!
『ぬるい魅了ですね。私が真の魅了というものを教えて差し上げましょう。
グパァ!
今度はラミナスの目が妖しく輝き、爬虫類的な瞳から危険なオーラが放たれた!
「「「「「「「「「 ! 」」」」」」」」
魅了を使えるのは召喚勇者だけではない。バンパイア、インキュバス、サキュバス、好色の英雄など、このティラム世界には様々な魅了を使える種族がいる。そしてこのラミア族も魅了を使える種族だ。
まさかの魅了攻撃を逆に食らい、召喚勇者達はラミナスの魅了下に置かれた。意識は完全に飛ばされ感情が一切なくなり無表情になった。
『さあ愚かなコルト王国の召喚勇者達よ。殺し合いなさい!』
ラミナスの命令に忠実に従い、召喚勇者達は次々と同士討ちを始めその数を減らす。彼らは数分もしないうちに全滅した。
またラミナスが発し始めた魔怒気のせいで、観衆は金縛りにあい動けなくなってしまった。
今コロッセオで動けるのはパーラ・ヌースと国王だけだ。
「ひええええええ! パーラ殿、なんとかしてくれい!」
「むむむ無茶言わないでください! 相手は異世界の女神をルーツに持つ蛇女ですよ! その能力は女神と同種とまで言われているのです。その中でもラミナスは
「なんじゃと! そのような強力な種族なのか! どうりで先王達が手を出さなかったハズじゃわい!」
「(このボンクラ国王! あんたがそんなだから国が傾いてんのよ!)」
パーラ・ヌースは心中毒づきながら必死で防御結界を張り続けた。
やがて突然魔怒気が治まった。
衛兵達はすでに全滅しており、戦える者はパーラ・ヌースを除きこの場には皆無。
コロッセオの外から異変に気付いた騎士団が急行しているが間に合いそうにない。
「ふぅ」
状況が落ち着いたところでラミナスは国王に語り掛けた。
『国王にもう一度だけ問いましょう。私と戦う意思がおありか? もしあるなら私は陛下の民を一夜にして全て奪い、明日の朝には全ての権力をこの手に握り、明日の昼には陛下の愛する民の手によって陛下を断頭台に送って差し上げましょう。さあ返事をお聞かせください』
どうやらラミナスには元々戦う意思は無かったようだ。
ただ自分と戦えばただでは済まないと釘を刺したかったのと、捉われた追放竜族解放の交渉に来ただけらしい。
「(陛下、ここは何卒穏便に!)」
「(わわわ、わかっておる!)あー、ラミナスと言ったか。こちらに戦う意思は無い。【ラミアの森】での紛争は悲しい行き違いによるものじゃ。であるから早々に立ち去るがよい。」
国王はパーラヌースの後ろに隠れながら震える声で追い返そうとした。
『いいでしょう。彼ら追放竜族の亡骸を頂いても宜しいか?』
「すすす、好きにするがよい」
『それでは…… ああそうだ陛下』
「ななな、なんじゃ?」
『ラミア族と人族、種族は違えどこれからも良き隣人でありたいものですね』
ラミナスは最後に強く釘を刺して、追放竜族達の遺体を引き攣れ空の彼方へと去って行った。
「た、助かった……」
パーラ・ヌースは結界を解きその場にへたり込んだ。
「何が助かったじゃ。民の前でどえらい恥をかかされたわ! あの蛇女め、絶対に許さんぞ!」
「陛下、国家がラミア族と関わって良い事など一つもありませんわ。それよりもう一つの件を進めませんか?」
「もう一つの件? おお、そうじゃったな!」
国王は気持ちを切り替え、近くにいた宰相に大石棺に向かうための準備を指示した。
パーラ・ヌースもコロッセオの近くに場所を取り、大石棺近くに通ずる亜空間ゲートの構築に入った。
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