109 第四十話 武闘大会前夜 03



◆某ホテル


Sideバーク


「今夜のバーク……凄く激しい……」

「こんなの身体が持たないよ……まるで獣のよう……」


長く激しい営みが終わり、大きなベッドの上で、ゼーゼーと息も絶え絶えなキュイとキリス。


そのキュイとキリスを両脇にはべらすバーク。


いつものような優しく愛のある営みとは全く違い、今宵のバークは荒々しい獣のようだ。


まるで無限に湧き出る“欲”を吐き出すかのように、キュイとキリスを何度も昇りつめさせた。


しかしどれだけ吐き出しても、バークの昂りは一向に収まる気配は無い。



「二人ともごめん。なんだか気持ちが昂ってしまったんだ。痛く無かったかい?」



バークはキュイとキリスを傷つけてはいないかと今更ながら心配した。



「うん……大丈夫……」

「だけど……少し休ませて……」



グッタリとしながらも、二人はバークがいまだ気持ちが昂っている事に気付いていた。



「明日いよいよケンツと決着を付けるんだもん」

「気持ちが昂るのは当然よ。だけど…………」


「だけど?」


「だけどバーク。本当にケンツと戦ってシャロンを奪うの?」

「ねえ、私達の言った事、よく考えてくれた?」


「うん、あれから時間をかけて考えてみたんだ。それで決心したよ」


「ほんとに?」

「よかった!」



キュイとキリスは、きっとバークはシャロンを諦めると思っていた。


前に訊いたとき、バークの表情に辛そうな色が浮かんでいたのだ。


それはシャロンとの決別に踏み切れず、想い悩み苦しむ悲しい色。


このままバークがシャロンを奪ったとしても、誰も幸せになれない事はキュイもキリスも、そしてバーク自身も感じていたはずだ。


だから決心したと聞いて、きっとバークは身を引く――そう思った。


なぜなら今のバークの表情には辛そうな色は皆無だったからだ。


キュイとキリスはバークが決心したとことに、顔を見合わせ安堵の表情を浮かべかけた。


しかしその表情はすぐナリを潜めてしまう。



「やはりシャロンさんは僕の元に来るべきだ。その為にケンツさんを全力で叩く!」


「え!?」

「なんで!?」



キュイとキリスは驚いて上半身を起こした。


それに合わせるかのようにバークも胸を起こす。その胸には黒き魔石が怪しく黒彩を放っていた。



「僕は知ってしまったんだ。ケンツさんではシャロンさんを幸せにできない事を。それどころかシャロンさんがケンツさんと一緒になれば、必ず不幸のどん底に堕ちてしまう。


そんな事にならないよう、なんとしてもシャロンさんを救わないと。その為には僕がケンツさんからシャロンさんを奪うしかないんだ!」


「ケンツとシャロンが一緒になれば、必ず不幸のどん底に堕ちる?」

「どうしてそんなこと思うの?バーク、なんだか変よ」


「声が聞こえたんだ」


「「 声? 」」


「人々に役割を告げ、間違った選択の危うさを警告する声さ。選択を間違えれば誰も幸せになれない」



まるでカルト宗教にはまっている信者のように熱弁を始めるバーク。


そんなバークをポカンと見つめるキュイとキリス。



「だから僕が退くという誤った選択はあり得ない。ヒロインのシャロンさんを、たかが咬ませ犬のケンツさんに任せるのは絶対にダメだ!僕だけが、主人公メインマンの僕だけがシャロンさんを幸せに導けるし、きっと最後には全ての人々が幸せになれる!」



キュイとキリスはバークの熱弁に戸惑った。



主人公メインマン?噛ませ犬?ヒロイン?」

「ねえバーク、どうしちゃったの?」


「戸惑う気持ちはわかる。僕だって最初は受け入れることが出来なかった。でも、全て本当の事なんだ。だから主人公メインマンは絶対に逃げちゃダメなんだ。二人とも僕を信じて欲しい!」


「バークの言うことなら信じたいよ。でも……」

「これは流石に……」



その時、バークの胸にある黒魔石が怪しく黒彩を放ち揺らいだ。



― ギュイイイイイイイイイン……



「うっ……」

「今のはなに……」



キュイとキリスはふいに眩暈に襲われ振らついた。


その二人にバークは腕を回し、力強く抱き寄せ囁く。



「キュイとキリスには分かって欲しい」


「待ってバーク!」

「少し落ち着いて!」



― ギュイイイイイイイイイン……



「僕を信じて。必ずケンツさんを倒しシャロンさんを奪う。そして必ずみんなを幸せにする!」


「ダメだよ!」

「そんなの誰も幸せには……」



― ギュイイイイイイイイイン……



「ヒロインは主人公メインマンの元にいてこそ幸せになれるんだ。咬ませ犬にヒロインを幸せにすることなど出来ない』


「バーク、現実を見て!」

「ここは小説の中じゃなくて現実なのよ!」



― ギュイイイイイイイイイン……



「『聞いてくれ。キュイとキリスだってヒロインなんだ。だから僕の元にきて幸せだったろ?君達が受けた幸せをシャロンさんにも与えたいんだ!』」


「私達もヒロイン!?」

「私達が受けた幸せをシャロンにも!?」



― ギュイイイイイイイイイン……



「『三人ともおまえ達は僕と一緒にいることで我に隷属することで大きな邪竜の幸せを得ることが寵愛を受けることが出来るんだ!出来るのだ!』」


「バークと一緒にいれば……」

「みんな幸せになれる……」



― ギュイイイイイイイイイン……

― ギュイイイイイイイイイン……

― ギュイイイイイイイイイン……



バークとアパーカレスの意思がシンクロし、発した言葉はキュイとキリスの脳髄深くまで浸透する。


もうバークの発した言葉は全て正しいとしか感じない。


バークを否定することは出来ない。



「わかった。やはりシャロンも一緒でなきゃダメだんだね!」

「私達、バークを応援するから。ケンツなんかやっつけちゃえ!」


「ありがとう、キュイとキリスなら分かってもらえると信じていたよ!皆で幸せになろうな!」



― ギュウッ



「きゃっ!バークぅ……」

「いきなり……んくっ……」



キュイとキリスの理解(?)を得られバークは喜ぶ。


そして三人はそのまま夜の営みを再開した。



『(バークよ。欲の本能に忠実になれ!そして我に身を委ねるがよい。その時こそ……)』




欲のままにキュイとキリスの肉体を貪るバーク。


強引で自分本位なバークの重なりに、バークの欲に対する激しい渇望に、邪竜アパーカレスの思念は満足する。


その晩、バーク、キュイ、キリスは、翌日の武闘大会など関係ないかのように、欲するがまま激しくも蛇の如く濃厚に絡み合い、その営みを陽光が部屋を照らす朝まで続けたのだった。




三人の召喚勇者の魔力を糧にした邪竜アパーカレス。その力は確実に増大していた。

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