107 第四十話 武闘大会前夜 01(22/04/20改)
◆ギルド裏の多目的広場(訓練場所)
Sideケンツ
「だあああああああああああああああ!!!!!」
― さらり、ベキッ!
「へぶっ!」
俺はユリウスに向かって渾身の一撃を与えようとしたが、あっさりと躱され逆に剣の腹で頭頂部に一撃食らわされてしまった。
「いやーケンツ、随分と強くなったよなぁ」
ユリウスはウンウンと頷いて感心したのち小休止に入った。
「ひ、人に一撃食らわしておいて感心されても嬉しくないぜ!おお痛てぇ……」
俺はジンワリと目に涙を溜めて、怨嗟の目をユリウスに向けた。
ギャラリーしているアリサとミヤビがクスクス……いや、ニヤニヤしている。
こいつら性格の悪さがにじみ出てやがるぜ。
なまじ可愛い分、余計に腹が立つ。
「ケンツ、大丈夫かな……」
それに比べて心配そうな顔をするシャロン。
今日はシャロンも来ている。
やっぱり
くー!シャロン大好きだぜ!愛してるぜ!
「でもさ、ケンツさんの実力をバークさんに見られたのはマズかったわね」
「そうだな、あれを見てバークはケンツのことを
「ぐううううう……でもそれは仕方が無いぜ…………」
アリサとユリウスの指摘。でもあの時は俺に他の選択肢は無かったぜ。
召喚勇者との最後の戦いで、バークは俺の必死覚悟の戦う姿を見た。
『必死』と一言には言うけれど、それは『必ず死ぬことが決定している』無茶ぶりだってことだ。
あれは俺の限界を遥かに超えた力だ。
あんな戦い方は二度とやるべきじゃねーぜ。
使い続ければ必ず死んじゃう技だかんな。全くシャレになっていない。
今度使えばシャロンがいきなり未亡人になっちまうぜ。
もう使う事は無いだろうけど……だけどバークに見られたのは、やっぱりマズかったなぁ。
俺を含めた皆の共通見解は、自滅しない程度の身体強化勝負では僅かにバークに軍配があがり、縮地を織り交ぜて互角と見ている。
「必死ですって!?召喚勇者との勝負、ケンツはそんな危ない事をしていたんですか?」
シャロンが顔を曇らせ訊いた。
シャロンはその時死んでいた。だから俺がどんな戦いを演じていたのかを知らない。
もしかしたら霊体となって見ていたかもしれないが、だとしても覚えてはいないようだ。
「そうなんだよ、こいつ最後は死ぬつもりみたいだったからな」
「そんな……どうして……」
「シャロンさんの仇討ちだったから。そして生きていてもシャロンさんとは添い遂げられないから。最後に自分も朽ちてシャロンさんと一緒に冥界へ……でしょ?」
「まあな……」
おいユリウス、アリサ、そんなこと暴露するなよ。シャロンが動揺してるじゃねーか。
「ああ、ケンツ!ケンツぅ!!」
― ガバッ!
おおう、感極まって、いきなりシャロンに抱きつかれちまったぜ!
しかもギュウッ!って思いっきり!
張りがあって柔らけえ絶妙なオッパイが押し付けられる!
甘い香りも鼻腔を擽る!
こ、これはたまらん!
ユリウス、アリサ、前言撤回、おまえらグッジョブ!
「ケンツお願い。もう二度とこんな危ない戦いをしないで!自分を大切にして」
「それ以前にもう絶対にシャロンを失うような失態はしない。だから危ない戦いなんてしようが無いぜ!もしヤバイと思ったら迷わずシャロンを抱えてトンズラする!シャロンと一緒になれる事だけを優先するぜ」
「ケンツ……」
目と目が合い、お互い磁石のように自然と唇と唇が吸い寄せられ……
「はいはい、そこまで。色ボケはバークさんとの勝負が終わってからにしてね」
キスする前にアリサにグイと割りこまれ引き離された。
なんでぇ、アリサのバーカ!
「えっと話を戻すが、ケンツは限界を超えた戦いをバークに見られた」
「バークさんは当然限界を超えたケンツさんを想定して力を付けてくるわね」
「ま、まあそうだろうな」
ユリウスとアリサのごもっとも見解。
「という事は、今のままではケンツさんの惨敗は必至ですね♪」
「うっ……」
なぜか嬉しそうな現人神ミヤビ。
「でもあの戦いで収穫もあったわ。真の限界を見る事が出来たし」
「限界突破時の限界稼働時間、具体的な身体へのダメージもわかったしな」
「何よりケンツさんは限界時の戦いを体験できた。これで秘技獲得の最適な強化プログラムが組めますね」
「最適な強化プログラム!?」
それって死んじゃうギリギリのポイントを見極められたってことだろ?
なんかすっごく嫌な予感がする……
「良かったなケンツ、限界時のおまえを見た感じでは、まだ肉体的伸びしろがあるぞ」
「徹底的にイジメ抜いて素の力を増強してあげるわ」
「肉体の方はいいとして、問題は魔力ですね。ですがケンツさんは本当に運がいい。ぬふふふ……」
ユリウス、アリサ、ミヤビはニチャリと糸を引くような笑みを浮かべた。
三人のただならぬ邪悪な笑みを見て、心配そうにシャロンが寄り添する。
「ケ、ケンツ……この人達本当に大丈夫なの?」
「し、心配するな、ガチでやばそうなら二人でトンズラするぜ……」
そんな怯える俺達を無視して、アリサは説明を始めた。
「ケンツさんは魔法剣士にしては、魔力量はかなり多い方です。ですがこれから教える対バーク戦の秘技では少々足りません。それは理解していますよね?」
「やはり今の魔力量では難しいのか?」
「絶対に無理とは言いませんが、戦闘時間が短くなります。本当は勇者や聖女並の魔力量が欲しいところですが、さすがにそれは現実的ではありません。とはいえ、せめて今の倍くらいは欲しいのです。なのでケンツさんの体内魔力タンクを無理やりこじ広げて容量を増やさないと……」
魔力タンクを無理やりこじ広げる!?
「ちょっと待て、体内の魔力タンクを広げるとか、高位の仙人や亜神がいないと無理だろ!しかも倍とか、身体が爆発するか激痛に耐えられず発狂死するぞ!?」
しかしアリサはニッコリと笑みを浮かべて説明する。
「何を言っているんです?ミヤビさんがいるじゃないですか!彼女は現人神であり亜神を目指す者ですよ。魔力タンクを広げる技くらい出来るでしょ(多分)。それに失敗して身体が爆発しても、五分以内なら大丈夫ですって!むしろ清々しく爆発しましょう!」
このゴリサ、なに言ってやがる!
体内の魔力量すなわち魔力タンクの容量は、本来鍛えて拡張できるものじゃねえ。
成長に合わせてそれに見合う分だけ増えはしても、他人の手で人為的に拡張とか自然の摂理に反する。
そこまでやったら改造人間の域だぜ!
「確かに他人の手で拡張されたというのであれば改造人間ですけどね」
「私はキッカケを与えるだけで、拡張するのはケンツさん自身の訓練ですよ」
「俺自身?本当か?本当なんだな?」
「本当ですよ」
ふむ。じゃあこれは訓練の内か。
あ、でもよう……
「アリサ、これ死んだりしないよな?」
「……死にません」
「おい、今なんか間が開いたろ……」
「気のせい気のせい」
「……なぁ、もしおまえの
「何てことを言うんですか!こんな危ない事させるわけなないでしょう!万が一の事があったらどうするんですか!」
アリサはクワッっと目を見開いて咆えた!
このアマ……
― プルプル……
見ろ、横で聞いていたシャロンが泣きそうになってるじゃねーか!
「それとおまえ自身のヒールをもう少しなんとかしたいな」
「せめてシャロンさん並の効果は欲しいよね」
「ケンツさん、なんとかりそう?」
「昔、シャロンがヒール効果向上の特訓するのを見てたからな。あの通りにやれば多少は……」
「じゃあケンツ、私が特訓の補佐をするわ!」
シャロンは目を輝かせて特訓補佐に名乗り出たが、俺はそれを断った。
「それはダメだ。バークとの決着がつくまでは直接の肩入れはするべきじゃ無いぜ」
「あっ……そうね、ごめんなさい。自分の立場を忘れてたわ」
シャロンはションボリと俯いてしまった。
「なあに、俺にはシャロンが来てくれるだけで特訓の励みなっているんだ。だからそんな顔しなくていいぜ」
「ケンツ……」
またしてもシャロンと目と目が合い、俺達は自然と顔が近づき……
「はいはい、そこまで!すぐ変な空気を出すのやめてよね!」
俺とシャロンの甘々になりかけた空気は、またしてもアリサに強制終了させられた。
くそう、アリサめ、欲求不満が溜まってやがんな。
「よし、それじゃ特訓再開するか」
「徹底的にギッタギタに……いえ、鍛えてあげるわ」
「うふ、うふふふふふ……」
「お、おう。お手柔らかに頼むぜ……」
俺の特訓は地獄の三番底へと移行したのだった。
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22/04/20 部分改稿しました。
改稿内容 ケンツとシャロンの度を越えたイチャイチャぶり。
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