049 第十九話 誘導拉致!?バロンとブルーノ 03


◆某路地裏 バロン&ブルーノ&シャロン



「ははははは、シャロンさん、もう一度言うけど現実を見ましょうや」

「ケンツがバークにフルボッコにされてからまだ四日だぜ?その間にどれだけの力が付いたって言うのさ」



「うぐっ……」



シャロン自身、凄く気になっている点を突かれ、言葉に詰まってしまった。






確かにケンツは無限魔法貯蔵ソーサリーストックなんてレアなスキルを手に入れた。


バロンとブルーノは、ケンツが無限魔法貯蔵ソーサリーストックなんてチートスキルを手に入れたことは知らなかった。


茂みの影から覗き見していたときは、すでに特訓(?)が終わった後だったのだ。


知っていれば、バロンとブルーノは別のアクションを起こした事だろう。


そして無限魔法貯蔵ソーサリーストックを使えば、使い方次第ではバークを圧倒することも可能かもしれない。


しかし、それはそれ。


だからと言ってケンツそのものの力が向上したわけではない。


所詮、無限魔法貯蔵ソーサリーストックは借り物の力。


ケンツとバークが出場登録すると思われる【魔法剣の部】では、残念ながらレギュレーション違反となり使えば反則負けとなる。


アリサから譲り受けた多くの強力な魔法は、武闘大会では使うことが出来ないのだ。



「……」


「へへへ、ようやく現実を認識したみてーだな、だが安心してくれ。」

「さっきも言ったように俺達はシャロンさんの味方だ」


「ようはバークの傘から外れることが出来ればいいんだろう?」

「俺達なら余裕で対処できるぜ」


「え、どうやって!?」



バロンの口からバークの傘から外れる=バークパーティーから抜けられると聞いてシャロンは大きく目を見開いた。



「シャロンさん、ベラから聞いたんだがバークにパーティー退会不受理届を出されたせいで、ヤツのパーティーを抜けられないんだってな?俺達がギルドに口利きしてやるよ。 レロ」


「ギルド長とケイト以外は俺達の支配下も同然なんだ。ベラに頼んで不受理届を破棄させてやる。そうすりゃケンツはバークと勝負しなくて済むぜ。つまりケンツが死なずに済む。 レロレロ」



美味しい話だ。


本当ならケンツの危ない事をさせなくとも、シャロンは自由の身になれる!


しかし、美味しい話には必ず裏があるものだ。



「見返りは? 無料ただってわけじゃないんでしょう??」



バロンとブルーノは、目でシャロンをいやらしく舐ったあと条件を言った。



「なあ、俺達がずっとシャロンさんに気が合った事、気が付いてんだろ?」

「だから、ちょっとだけでいいから想いを遂げさせて欲しいんだよなぁ」


「想い?」


「「今夜一晩だけ俺達の女になるのさ!」」


「っ…………!?」


「たった一晩、俺達と枕をともにするんだ」

「それだけで全てがうまくいく……どうだ?」


「どうだ……じゃありません!絶対にお断りよ!」



まるで話にならない。もう二度とケンツ以外に身体を許すなんて絶対に御免だ!


シャロンは険しい顔で二人の間を強引にすり抜けようとする。


しかし両腕を掴まれ通して貰えなかった。



「おっとっと、そう慌てるなよ」

「なあ、冷静になれよ。たった一晩俺達と付き合うだけで、ケンツの命は守られるんだ レロレロ」



「その後はケンツとのバラ色の生活が待っているんだぜ コロコロ」

「意地張るのもいいが、今のままじゃ永久にケンツを失う事になるぜ。ヤツは必ずバークに殺される! レロン」



飴玉?を舐めながらバロンとブルーノはシャロンに迫る!



ケンツを失う、ケンツが殺される……


この言葉はシャロンの心を深く抉った。


シャロンの心が微妙に揺れる。



「ケンツが……ケンツが殺される……そんなの……殺されるくらいなら……失うくらいなら……私の身体くらい……」


「そうそう、何を優先するのかわかるよな。これはケンツを助けるための尊い犠牲さ。 レロン」


「シャロンさんの愛が試されているんだぜ。俺達の条件を飲むことがケンツへの愛の証になるんだ コロコロ」



自分の身体とケンツの命、優先するのは……比べるまでも無い、それはもちろんケンツの命!



「ケンツ……わたし……」



シャロンの首がカクンと折れた。



「おう、ようやく理解したみてーだな」

「それじゃ早速行くか。ホテルはもう予約してあるぜ」



バロンとブルーノはニヤリとほくそ笑み、シャロンを拉致ろうと両脇を抱えた。



「(へへへ、ようやくこの女を思いっきり抱くことができるぜ)」

「(後は媚薬使ってをたっぷり快楽漬けにしてやる。愛情なんて後から湧いて来るぜ)」

「「(いひひひひひひひ)」」


“確実にシャロンを寝取れる!”バロンとブルーノは自信をもって確信した。


しかし――



「いやっ!」



― ドゴッ!ベキッ!



「ふぐっ!?」

「ぎえっ!?」



突如バロンとブルーノを振りほどき、シャロンの裏拳がバロンとブルーノの顔面を捉える!



― ブバッ! コロン、コロコロ……



二人して鼻を潰され大出血!


同時にしゃぶっていた飴玉が口からこぼれ落ちた。



「ぶぐぅぅぅ……て、てめえ何しやがる!」

「がぶぼぉぉ……ひ、人の親切を仇で返しやがって!」



鼻を押さえて激高するバロンとブルーノ!



「あ、危ない……一瞬とは言え流されそうになってしまった。あなた達、催眠術でも使えるの!? 」


「「 こ、こいつ!? 」」



実はこの時、バロンとブルーノは誘導アイテム【囁きドロップ】を口にしながらシャロンを誘っていたのだ。


洗脳や魅了とは違うので、気持ちをしっかりと持てば抗うことが出来る。


シャロンの「もうケンツを裏切りたくない」と言う気持ちが、バロンとブルーノの卑怯なトラップを破ったのだ!



― ビュビュッ、バッ!



シャロンは二人に対して戦闘態勢を取った!



「絶対にケンツを裏切らない!私とケンツの仲を裂く者は、誰であろうと叩き潰す!」



― コオオオオオオオオオオオオオオ……



シャロンは深く呼吸をして静かにそして激しく闘気を高める!



「こ、このアマ!もういい、まだるっこしいマネはやめだ。さっさと攫うぞ!」

「おう、最初からそうすりゃ良かったぜ。思いっきり裏拳なんぞかましやがって!」



鼻血をダバダバと垂れ流しながらバロンとブルーノも怒気を高めた!


その時――



「その意気です!こんな輩の口車なんか絶対に乗っちゃダメですよ!」

「シャロン無事か!バロン、ブルーノ、俺のシャロンに手を掛けようとしやがって!」


「「だ、誰だ!」」



突然どこからか男女の声が聞こえて、バロンとブルーノは周囲をキョロキョロと見回す。


しかし誰もいない。


だがシャロンは頭上を見あげて驚いた。



「ケンツ!アリサさん!」



なんとシャロンの視線の先には、空に浮かぶケンツとアリサがいたのだ!


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