016 第七話 激突!ケンツvsバーク R1 02



「ケンツさん、どうかしましたか?」




俺の大声を聞きつけ、ケイトが事情を聞きに来た。



「どうしたもこうしたもねえよ!なんで俺の試験官がバークなんだ!こんなもんチェンジだ!」


「ケンツさん、大きな声を出さないで下さい。……ちょっとこちらへどうぞ」



そう言ってケイトは俺を少し離れた所に誘導した。



「なあケイト、おまえが組んだワケじゃないんだろ?頼むからバークはやめてくれ」


「いいえ、ケンツさん。バークさんをあてがったのは私です」


「そうだろう?だからバークは……今なんつった?」



俺は聞き間違いじゃないかと自分の耳を疑った。


誰にでも公平なケイトが、そんな嫌がらせみたいなことするワケねぇ!


しかし信じられない事に、俺の聞き間違いではなかったようだ。



「ですからケンツさんの試験官にバークさんを選んだのは私です」


「て、てめえ!一体どういう了見だ!今すぐ試験官を変えやがれ!」



俺は激昂してケイトを責めたが、ケイトは責められる事は承知の上だったらしい。



「じゃあ試験官がバロンさんやブルーノさんでもいいんですか?」


「な、なんだって?なんであの二人なんだよ!それならまだバークの方が全然マシだぜ!」



ケイトのやつ、何言ってやがんだ?なんでそんな選択肢しかないんだよ!?


ケイトは「ふぅー…」と溜息をついてから説明を始めた。



「いないんですよ」


「は?」


「だからいないんです」


「何がだよ、わけわかんねーこと……」


「ケンツさんの試験官に対応できる人は、この三人しかうちのギルドにはいないんです」


「!?」



あ!


そこまで言われて俺はようやく気が付いた。


そういうことか!



「二級魔法剣士の昇級試験を受けるとなると、試験官は必然的に二級以上の魔法剣士もしくは類似するジョブを持つ者となります。それに該当するのはこの三人になる訳です」


「なんてこったい!」



確かにバロンとブルーノが試験官じゃ、どんな成績を収めても絶対に不合格にするだろう。


その点バークなら、俺が一方的に嫌っているだけの話だ。


何よりヤツなら公平な試験官をこなすだろうよ。


しかし、だが、むぅ……



「ケンツさん、何をゴネてるの?」



いつの間にか、俺を心配?してアリサが傍に来ていた。



「アリサさん、試験官のバークという方なのですが、実は……」



ケイトは俺とバークの因縁を説明した。


「ああ、あの人がケンツさんの想い人を囲っている人なんですか、それでゴネていると……」


「ゴネてるって……まあ、そうなんだよ、だから試験官変えて欲しいって頼んだんだ。でも、ロクなヤツがいなくてよぅ」


「はぁ……ケンツさん、バークさんでいいじゃないですか?なにか負い目でも感じているんですか?」


「バカ言え、俺に負い目なんてあるわけ……」



い、いや、いっぱいあり過ぎる!あり過ぎて面(つら)を合わすのも苦痛だぜ!



「負い目とかじゃなく、俺はあいつが嫌いなんだよ!」



そう、負い目じゃねぇ!俺はバークが嫌いだから試験官を変えてほしんだ!



「そうですか、私は人様の色恋沙汰を気にしている余裕は無いので正直どうでもいいです。でもケンツさん、そうやってバークさんから逃げ回っているうちは、シャロンさんを取り戻すのは無理だと思いますよ?」



うぐっ、ハッキリいいやがるな。


わかっているよ、いつかはバークと対決しなけりゃいけないってことくらいな。


しかしそれは今日じゃ無いはずだ!もっと力を付けてだな……


あと逃げてねーし……



「ケンツさん、もしかしてもっと力を付けてからとか思っていません?こんなチャンスを棒に振って逃げるような人が、力を付けられるワケないですよ」



カッチーン!


また逃げるっていいやがった!


逃げるだと?この俺が?


チャンスを棒に振る?


力を付けられるワケがない?



はあああああああああああああ!!!???



「て、てめぇ!アリサ!いくらなんでも今のは我慢ならねぇ!逃げるってどういう意味だ!」


「そのままの意味ですよ、確かにケンツさんはバークさんが嫌いだから試験官を変えて欲しいというのも有るんでしょうけど、それ以上にバークさんと格付けされてしまうのが怖いんじゃないですか?かつてパーティーのポーターだったバークさん相手に『やっぱり俺の方が弱かった』って認めたくないんでしょう?」


「なっ…………!?」



俺はアリサに心の奥底をザクリとほじかえされた気がした。


そうか、それだよ!俺が本能的にバークを避ける理由って!


俺、自分がバークより弱いって認めるのが嫌だったんだ、怖かったんだ……


バークの力を認めたくなかったんだ……


だからずっとバークを避けてたんだ……


いや、もちろんそれだけじゃねーけどさ……



「今回はケンツさんにとってチャンスだっていいましたよね?この試験試合はバークさんとケンツさんの力量差を生(なま)で体験できるんですよ?相手との力量差が判れば、それを目指して頑張れるでしょ?」


「いやアリサ、バークより俺の方が強い可能性だって……」


「その可能性が無くて逃げていたからゴミみたいに……じゃない、ゴミになってずっと燻っていたんでしょ?」



おい、言い直した方が酷くなってるぞ!



「防御結界の張られたギルドの昇級試験――こんな安全な状況で真剣勝負できるって言うのに……本当にいいんですか?このチャンスを逃しても?」


「ケンツさん、どうされますか?ケンツさんがどうしてもイヤでしたら別の冒険者ギルドへの紹介状を書きますので、そちらで受ける事も出来ますが……」


「う……むぅ……」



情けねーなー。アリサとケイトにここまで言われ、ここまで気遣ってもらって、ようやく気付かされるとは……


がなりたてて、体裁つくろうとして……実際のところは肝心の俺自身がイモを引いていたんだなぁ。


よーし、やってやろうじゃないの!バークがいかほどのモノか勝負してやるぜ!





それにしてもアリサって気が強いって言うか、なんか言い方に刺があるよなぁ。


黙ってりゃ癒し系の美少女なのに……



生理かな?





「それでは昇級試験試合を始めます。第一試合ケンツさん前へ出て下さい」



おっと、いきなり俺だったか。


よーし、勝負だバーク!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る