【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】

ショーイチ

第一章 転落からの復活

001 第一話 バークの追放と異変




「おいバーク、お前はクビだ。今までご苦労だったな」



冒険者ギルドの飲食ブースで、一級冒険者パーティー《一番星ファーストスター》のリーダーである俺・ケンツは、薄ら笑いを浮かべながら、青紫色の頭髪が映えるイケメンポーターのバークにパーティーからの解雇を言い渡した。


俺の周りには他の仲間3人が並んでいる。



「…………え?」



ふふふ……突然のことに、バークは困惑しているようだ。



「ケンツさん、これはどう言うことですか?出て行くことには吝かやぶさかではありませんが、納得のいく理由を聞かせて頂きませんと」


「そりゃぁ、お前のイケメン面が気に入らな……うぉっほん!お前は大した戦力……というか全く戦力にならない。パーティーをクビになるのにこれ以上明確な理由があるか?」



しかし俺の説明を聞いてバークは首をコテリと傾ける。



「いや、そりゃ当然でしょう?俺はポーター(雑用荷物持ち)として雇われていますし。勝手に戦いに参加したら余計混乱するだけでしょう?皆さんも同じ意見ですか?」



そう言ってバークは他の三人に意見を問うてみた。





「ねぇ、バークさんの言う通りよ。ポーターが戦闘の役に立たないからって解雇するのは間違っているわ」



バークの野郎を擁護したのは栗色のショートカットが映える美しい女性。〈武闘家〉にして〈治癒士〉でもある俺の愛すべき幼馴染のシャロンだ。


〈一番星〉は彼女と二人で立ち上げたのが始まりで、今や我が国リットールが認める実力ナンバーワンのパーティーにまで育った!


ちなみに俺自身も、リットールが加入しているアドレア連邦において、今季アドレア連邦認定勇者に最も近い男として大注目されているのだ。



「シャロン、なんでバークの肩を持つんだ?……まさか俺を裏切ってバークとデキているんじゃないだろうな!?」



―じいいいいいいいいいいいい(凝視)



「邪推はやめてよ!バークさん与えられた仕事はキチンとやっているじゃない!解雇するのなんておかしいよ!」



だから、一番の理由はシャロン、お前がいつバークのイケメン面に誑かされて、寝取られやしないかと気が気じゃなねーんだよ!察しろよコンチクショウ!


いつも澄ましちゃいるが、バークこいつは間違いなくシャロンに気が有るぞ!


俺の目は誤魔化されねえ!





「ん~、アタイは別にバークを解雇してもいいと思うよ」



バーク解雇に賛成してくれたのは青髪の美少女で魔術師のキリス。そうか、お前は分かってくれたか!だよな!イケメンは俺だけで十分だよな!



「その代わりバークはアタイが個人的に雇うからね!バークは私の大切な観賞用のイケメンなんだから!」



観賞用のイケメンってなんだー!ま、まあバークとキリスはまだ男女の仲ではないらしいな。キリスは大切な将来的ハーレム要員なんだ。誰にも渡さん!



「個人的に雇うなんて許さん!パーティー内の風紀が乱れるだろう!」



ブーブーとキリスが親指を下にして抗議するが無視だ。





「いや、風紀を乱してるのはリーダーでしょ?いつも私達をいやらしい目で見ているのを気が付かないとでも思って?」



金緑髪(グリーンプラチナ)が眩い美人戦士のキュイまでもが、俺に反抗的な態度をとりやがる。


お前ら何を言っているんだ?将来的ハーレム要員として観察しているだけだろう、いやらしい目で見て何が悪い!




パーティーメンバーの否定的な意見は大紛糾に発展し、収集が付かなくなりそうになった。


が――



「皆さん落ち着いて下さい。わかりました、僕は言われた通りに抜けますから。丁度ポーターから冒険者へ転職しようかと考えていたトコロなんですよ。そういうわけなので先輩方、次からは冒険者仲間として宜しくお願いしますね」



バークの野郎はこれ以上長居は無用とばかりに一礼すると、退職金も要求せずに出て行きやがった。


まあ最初から払うつもりは無かったけどな。





「ちょっと酷いじゃない、よくもアタイの観賞用イケメン男を!」


「ケンツ君サイテー。自分より顔がいいからって追い出すとかセッコイ!」



キリスとキュイは、せめて別れの挨拶くらいしてくると言って、バークの野郎を追って出て行った。


そして俺とシャロンだけになった。





「なあ、おまえはバークに別れの挨拶をしなくていいのか?」


「だって行けばケンツの機嫌が悪くなるのミエミエじゃない。お願いだからパーティーの空気を乱すのはこれで最後にしてよね」



シャロンは不服そうに言ったものの、バークを追いかけようとはしなかった。



「わかったよ、お前だけは俺の特別なんだからずっと一緒にいてくれな?」


「今更離れられるわけないでしょ?この腐れ縁!」



シャロンは文句を言いながらも俺に寄りかかって来た。


なんだかんだ言ってシャロンだけは本気で本当に俺の特別なのだ。


 



*





異変はバークが去った翌日から現れた。



「ちくしょう、なんでこんなに手間取るんだ!?」



俺達はそれまで楽勝で倒して来た魔獣相手に大苦戦していた。



「魔法剣サンダーブレイク破壊の雷斬!」



俺がアドレア連邦認定勇者に最も近い男と言われる所以(ゆえん)、超破壊的な雷撃系の魔力を剣に乗せて放つ大技〈サンダーブレイク破壊の雷斬〉を、ベヒーモスの亜種であるレッサーベヒーモスに向けて放った!



― ガラガラどかーん



どこか間延びした感じの雷を乗せた俺のサンダーブレイク破壊の雷斬は、レッサーベヒーモスに小さな傷を負わせる程度の威力でしかなかった。



「バ、バカな!?」



信じられない事態に俺は戦うことを忘れ、口をポカン開けて固まった。





「何やってんの!邪魔!どいて! 爆裂魔法エクスプロージョン!」



キリス必殺の大魔法 爆裂魔法エクスプロージョンが炸裂!



― ぼかーん



確かに爆裂魔法エクスプロージョンは炸裂した……が、威力が小さい。



「うそ、なんで!?」



キリスは冒険者ギルドで1級魔術師として嘘偽りなく登録されているのだ。


しかしキリスの魔法の威力は、どうにか三級魔術師にかかる程度でしかない。




さらにキュイも……


怒号撃滅波どごうげきめつは!」


巨大な戦斧から放たれる怒号撃滅波!



― しーん…



が、出ない。何も出ない。


それどころかキュイは巨大な戦斧を持て余しフラフラしている。



「こんなバカな!?」



キュイは混乱し狼狽えるが、レッサーベヒーモスが狼狽するキュイを見逃すわけがない。



― ブモー!


― どん



「ぎゃあ!」



逆にレッサーベヒーモスから致命傷を受けた。





「キュイさん、しっかり!ヒール!!」



シャロンは慌ててキュイにヒールをかける。


キラキラと銀色の粒子がキュイを覆い、パックリと開いた傷を癒そうとする……


しかしキュイの傷はなかなか塞がらない!?



「なんで?いつもならこの程度の怪我なんて一発で治るのに!?」



シャロンはヒールを4回重ね掛けし、ようやくキュイの傷は動ける程度には癒えた。



― ブモー!



レッサーベヒーモスは、今度はシャロンを狙った。


シャロンは辛うじてレッサーベヒーモスを躱したが――



「おかしい、身体がイメージ通りに動かない!?」



それでもシャロンはレッサーベヒーモスに突撃!



「はああああああああああ!ツェイ!」


― ボシュッ!ゾスッ!


― ブキャアアアアアアアア!!!



なんとシャロンは素手でレッサーベヒーモスの両眼球を破壊した!



「今よ、みんな逃げて!」


「「「「おおおお!?」」」」



視覚を失い無作為に暴れ回るレッサーベヒーモス!


やがて勝手に谷川に落ちて流されてしまった。



「はぁ、はぁ、畜生あんな格下魔獣に……いったいどうなってやがる!?」



俺達は、格下の魔獣相手に、久々に惨敗の苦さを味わったのだった。



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