器より大きな才は出ぬ

虎野離人

第1話 ギフトとランク

  何でこんなことになってんだ。


そんなことを思いながら、桐山葵は、相対する敵の電撃から縦横無尽に逃げていた。


 こんな仕打ちを受けている理由は、三日前にさかのぼることになる。


 一年だけの集会のある日。桐山は、ものすごく疲れた顔で立っていた。


「どうしたんだ」


「どうしたもこうしたもない。金城は、どうしてそんな疲れてないんだよ」


 桐山の隣いた金城海斗からの心配をそのまま違う意味で心配してみた。


「ここに集まったのは、どうせ三日後のあれのことだからね」


「はぁ、その行事すらだるいことこの上ないな」


 雑談をしている間に一つ結びにした黒髪を靡かせ壇上の中心に歩いてきた女がいた。


 彼女は、一年生にしてこの学校の生徒会長に就任した化け物である。生徒会長は、学園の一番の強者がなるものらしい。中高一貫教育であるこの学園であったため高校入学前から確定していたらしいが。


 さすが、『氷結の剣姫』と呼ばれるだけはあるのだろう。


 しかし、そんな完璧な人間である彼女の最大の汚点と言えば、桐山葵と幼馴染ということ他ならないのである。


 はぁ、氷華のお出ましか。


 そんなことを桐山は思っていた。そんなことを知る由もなく彼女はそこにあるマイクに口元を近づけていた。


「生徒会長の海藤氷華だ。この集会は、三日後に開催される新入生東西対抗戦のことだ。種目を誠に勝手ながら私が決めた。全員生徒手帳を開いてくれ」


 科学の発展なのか、電子生徒手帳となっているそれをポケットから取り出し開いてみた。


すると、そこには自分が出るであろう競技とメンバーが書かれていた。


 摸擬戦


海藤氷華、桐山葵、金城海斗、清水未来、鈴川千秋


「おい、この競技って・・・」


「まさか、僕もこの競技なんだね」


「待て待て待て。俺らにこれは荷が重すぎるだろ」


 二人は、こそこそとしゃべった。そんな時、周りを見渡し、全員が見ているのを確認したのか会長が話し始めた。


「何か不服申し立てがあるか。ある者は挙手してくれ」


 その言葉にざわつくはじめ、一人の手が上がった。


「なんで、ランクゴールドの俺が摸擬戦にでれねぇんだよ」


 ゴリラのような風貌の男が苛立ち気味に言った。


「まずは、メンバーを見てもらう。とりあえず、摸擬戦に出ることになってるメンバーは、壇上に上がってもらう」


 桐山と金城、ほか二名は、すぐに壇上に上がり並んだ。


「で、そいつらのランクは、何なんだ」


 挑発的な態度を取って来る、相手には目くじらを立てる会長ではなかった。


「私は、皆が知っての通りダイヤだ。後はブロンズ、シルバー、ゴールドが一人ずつ。そしてラン外が一人だ」


「なっ、ラン外だと。ふざけんじゃねぇ。ギフトを持たない無能力者が何で摸擬戦に出るんだ」


 ラン外。それは、ギフトを持たない無能力者である。そもそも、『ギフト』というのは、人間が持つ異能のことである。人類の脳は、実際数十パーセントしか使われておらず、後の九十パーセントにどんなことが秘められているかは解明されていなかった。しかし、それが解明されつつある今日では、その残り数十パーセントを機能させることのできる人たちが現れた。最初は、少なかったが、今は、なかなか大勢の人間が持つようになった。それでも、二十パーセントがいいところである。まぁ、神の恩恵つまり、『ギフト』と呼ばれるようになったのだ。


そして、それを強さによって分類させている。上から、ダイヤ、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、ランク外の順番である。


 そして、この摸擬戦という競技は一対一で行われる故にギフトの力が最重要視されるものである。


「ならば、ここにいるラン外、金城海斗を試してみるか」


 会長の口から思わぬ言葉がでた。


「会長がそういうなら僕は試されてもいいよ」


「てめぇ、ラン外がふざけてるのか。ゴールドの俺に勝てるわけないだろ」


 なぜだろう、金城もやる気を出したせいで、二人の間に火花が見えてしまってるように思える。


「全員中央を開けろ」


 会長の一言で、全員が、端に動き出した。中央にはさながらリングの様になっていた。


「ちょっと待て、氷華。ここで、そんなことしていいのか。けが人が出るかもしれねぇだろ」


「葵、心配するな。大丈夫だ」


 止めようと試みた俺を大丈夫の一言で一蹴した。


「さぁ、中央に行きたまえ」


 言われるがまま、先ほどのゴリラと金城は、大きなスペースのできた中央に行った。


 それを確認すると、氷華は指をパチンと鳴らした。


すると、二人を取り囲むように氷の壁ができた。ちゃんと中も観れる仕様となっていた。


これが、『氷結』とかなんとか言われる所以でもある。


 大気中の水蒸気を意のままに一瞬で凍らすことができる。結局のところなんでも凍らすことができる。化け物である。


「もう始めてもいいのかな」


「ああ、初めてかまわない」


 会長の一言が放たれた瞬間、金城はゴリラに向かって走り出し一気に間合いを詰める。


「ふん、死ね」


 金城がいざ間合いを詰めた瞬間金城に向かって炎が噴き出した。それは、あのゴリラの口から放たれたものだった。


 炎とともに煙も出たせいで、金城の姿は周りから見えなくなった。


 さすがゴールドだけはある。なかなかの火力をあの短時間で出して見せた。


 周りも一層ざわつきが大きくなっている。


 すると、煙の中から人影が見えた。


「ちっ、死んでねぇのか」


 ゴリラは、その影がちゃんと確認される、前に第二撃を与えた。


「ふん、これで終わったな」


「そうかもね。でも、残念」


「なぁつ」


 煙が晴れてきて見えたのは、ゴリラの背後にいきなり金城が現れていた。


 瞬く間に、首元に金城は、回し蹴りをお見舞いした。ゴリラは、そのまま倒れてしまった。


「そこまで」


 会長が言い放った言葉とともに氷の壁が消えていった。


周りは、ゴールドがラン外に負けたこの事実にざわついている。


 会長と葵は、金城のもとに近づいた。近くには、燃えカスに近くなった制服が落ちていた。


「金城君も考えたな。まさか、床を破壊して出た木の板に自分の服をつけて人影に見せたのか。私には思いつかないな」


「僕が勝つにはこういうことしないといけないからね」


 こいつ無能力者って嘘だろ。いや、それよりなぜあの氷の壁溶けねぇんだよ。そっちの方が驚きだ。


葵は出そうになったいろいろな言葉を深く呑み込んだ。


「さぁ、これで分かったか。ほかに何かある者はいるか」


 先ほどの無言とは打って変わって無言になる。


「では、解散」


 会長の一言でぞろぞろと生徒は体育館を出て行った。

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