お助けします、運命の王子様!
ありの みえ@療養中
プロローグ
……どうしてこうなった。
私、レティシア・フィリップ・フェリシテ・イニ・ヴィレットは真摯な心で過去のおこないを振り返ってみるが、心当たりはない。
惚けているのでも、責任転嫁をしているつもりもないのだが、本当に謎だ。
……学園に入学するのは、まあ仕方がないとして。
ルーナティ王国では、魔法を使う才能を持った子どもは貴族も平民も、農民でさえも区別なく、十二歳から十五歳までの四年間を王立マリウス学園に通うよう義務づけられている。
これに逆らうことはできず、入学を拒否すれば対象者の家へと兵が『迎えに』行く。
そんな乱暴な――と思うかもしれないが、これは必要なことだ。
魔法といった制御の難しい力を持った人間を、ろくな教育も与えずに野放しにすることなどできない。
それこそ、本人と周囲の安全のために必要な措置である。
入学を拒否した者への対応は少々乱暴かもしれないが、彼らを放置した場合に発生する未来の危険に比べれば可愛らしいものだ。
彼らを放置することは、火の危険性を理解していない子どもに松明を持たせ、油と藁の詰まった納屋へと閉じ込めるようなものである。
実際にそんなことをすれば、一時間もしないうちに火事がおこり、子どもも周囲も燃え尽きることだろう。
――こういった事情により、私が王立マリウス学園へ通うことは生後まもなくから決まっていたことだったが。
今は大きく開かれた学園の門を見つめ、その中央に立つ少年の姿に、頬が引きつりそうになる。
少年の名前はフィンセント・マリウス・ヴィクトール・イヒエス・イチ・ヴァールス・ルーナティ。
非常に長い名前なのは、彼がこのルーナティ王国の王子だからだ。
私の名前も長いが、王族ほど長くはない。
王族の名前には母親が正妃か側妃か、母親の実家領地の名前までつくので、余計に長くなるのだ。
そしてこの名前の長い王子。
私の婚約者である。
……破棄か解消する予定だけどね。
私が人生の目標として掲げる事柄に対し、王子という身分を背負った婚約者は必要ない。
むしろ、邪魔である。
そう幼い頃から両親に訴え、なんだったら相手方の親(つまり国王様!)にもやんわりと伝えているのだが、なかなかこの婚約が解消される様子はなかった。
ならば、と外堀から崩そうと貴族同士の集まりであるお茶会や園遊会といった場に連れ出されるたびに『粗相』をしたり、同年代の女の子に婚約者の座を譲りたい、と迫ったりとしているのだが、こちらも成果はさっぱりだ。
粗相にいたっては、故意にひっくり返したポットのお茶に毒が仕込まれていたり、
おかげで誤解でしかないのだが淑女の鏡たる完璧令嬢などとあだ名され、王子の婚約者の座を押し付ける予定だった令嬢からは「自分など王子の婚約者に相応しくない」と辞退からの敵前逃亡(違)をされてしまった。
とりあえず、本当に淑女の鏡だなどと呼ばれるような人物であれば、親の決めた婚約には逆らわないし、相手方の親に婚約解消を訴えもしないだろう。
彼女たちには、まずそのあたりに気付いてほしい。
私などより、よほど彼女たちの方が『王子の婚約者』に相応しいはずだ。
「レティシア、伝統ある王立マリウス学園への入学おめでとう」
「ありがとうございます」
近づいてくるな。
出迎えなど不要、という本音を飲み込んで、恐れ多くも門の外まで私を迎えに出てきたフィンセントに微笑む。
燃えるような赤毛が白い(改造)制服によく映えているが、生徒の規範になるべき王族なのだから、制服は改造しないでほしい。
他の生徒と差をつけたいのなら、制服の見た目を変えるのではなく、品質で勝負していただきたかった。
「レティシア嬢、もう貴女の教室は確認しましたか?」
「レティシア様、学園の第二訓練場は素晴らしいですよ!」
「レティ、さっさと荷物を置いて第一訓練場で手合わせしようぜ!」
フィンセントの後ろから(王子の言葉を遮るように)話しかけてくるのは、ざっくりと宰相の息子コルラード、魔法師団長の息子アウレリアノ、騎士団長の息子ランベールである。
彼らも白い(改造)制服を着ているが、これはフィンセントが自分の派閥として着せているのか、己の髪の色を目立たせようとしてかは、おそらく後者だ。
彼らは王子と未来の側近という関係ながら、それぞれが恋敵である。
ありがたくないことに、なぜか全員が私狙いだ。
……昔から、自分でも「ちょっとどうなの?」ってぐらいの塩対応しかしてないと思うんだけど。
なぜか彼らが私を諦めてくれる様子はない。
腐っても王子の婚約者という肩書きはあるのだが、その婚約がなにかの間違いで解消された際には是非、と彼らの家から婚約の申し込みが来ていた。
起こるかどうかもわからない婚約解消を狙ってフリーでいるよりも、今のうちに将来有望な令嬢に予約を入れておいた方がいいと思うのだが。
……これが『逆ハーレム』か。
情況だけを見れば、いわゆる『逆ハーレム』だろう。
一人の少女に対し、四人の少年が言い寄っている。
うち一人は婚約者なので、婚約者のいる少女に、婚約者がいると承知で他の三人は言い寄っているのだ。
……全然、まったく、これっぽっちも嬉しくない。
むしろ、煩わしい。
男女が逆転すれば嬉しいのかもしれないが、少なくとも私は今のこの情況を歓迎してはいない。
女の子にとって、一定以上の好意を持っている異性以外からの好意など、恐怖でしかないのだ。
そして、その『一定以上の好意』は、婚約者であるフィンセントにすらも抱いてはいない。
私のすべての好意は――
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