第8話 裏世界からの連絡


 もうカーリアとの約束から5ヶ月が経つ。

 アオイ達の状況はエビルズ・アイで見ている限り、順調に進んでいる様に見えるが空振りばっかりじゃ。

 今は南の山にあるダンジョンに入っているところじゃろう。

 当たりじゃとよいが・・・

 このままでは約束の半年が経ってしまう。

 う~む・・・

 流石にワシもちと焦り始めておるぞ。

 一番の問題はこのカーリアとの約束をアオイ達が知らんということじゃ。

 勿論ミドリコを早く助け出すために急いでおるのはわかるが、どうやらその焦りが判断を鈍らせておるように見える。

 これで一体いくつ目のダンジョンに入ったことか。

 レベルは格段に上がっておるようじゃが、エビルズ・アイではステータスまでは見ることが出来ん。

 おそらくキサラムとバシルーは今の魔王達と同じくらいのレベルにはなったおるじゃろうが・・・

 そうそう。

 レベルと言えばシロクが凄いことになってしまったのじゃ。

 この前カーリアが来たときワシが誤って魔力を多く発散させてしまった為、シロクが死にかけてしまったじゃろう?

 あの時は本当に申し訳ないことをしたが、それが原因でシロクは新たなスキルを覚えたのじゃ。

 死を垣間見た時の得た新たなる力。

 聞こえは良いが・・・

 ・・・あの魔力量じゃったからの。

 スキル『魔力吸引』ではキャパオーバーを起こしてしまった為、自己防衛として備わったのじゃろう。

 そのスキルの名は『魔力変換』。

 自ら魔力を吸引しなければならない魔力吸引と違って、魔力変換は自動吸収なのじゃ。

 しかも吸収した魔力は自らのエネルギーに変え、食事を摂らなくてもいいようにすることもできるし、消費した魔力を補ったり自己強化に使えたり、更には経験値に変換することもできる。

 今までの『魔力吸引』ではエネルギーに変えることしか出来ず、この経験値に変換するということが出来んかったのじゃ。

 この前のワシの魔力に当てられた時、その膨大な魔力をエネルギーに変えるだけでは収まらんかったのじゃろう。

 その為の自己防衛本能でスキル『魔力変換』を覚えたとみて間違いない。

 つまり・・・

 あの時、シロクはワシから受けた魔力を経験値に変えたのじゃ。

 それがどういうことかわかるじゃろ?

 10%以下の魔力しか解放しておらんかったが・・・

 この10%じゃぞ?

 シロクのスキルがあったから耐えられたのじゃ。

 しかしもしあのまま放出し続けていたらスキルがあっても耐えられんかったじゃろう。

 そしてもし、シロクではなくアオイ以外の誰かじゃったら・・・

 考えただけでもゾッとするわい。

 ・・・気を付けねばな。

 というわけでシロクのレベルは今や20000を越えておる。

 今の魔王達とて束になっても敵わんじゃろうな。

 辛い目に合わせてしまったが、その分ただでは起きんかった訳じゃ。

 流石ワシの従魔じゃ。

 これからも末長く大切にしていくぞ。

 まあそれはともかく・・・

 そろそろ昼じゃな。

 ワシは家から庭に出るとテーブルと椅子を二脚用意する。

 何故二脚かって?

 シロクも呼ぶからじゃ。

 ここ最近、食事時には二人で過ごしておるからの。

 勿論シロクは快く応えてくれる。

 有り難いことじゃ。

 しかもワシの意を汲んで人の姿で来てくれるのじゃ。

 出来た従魔じゃろう?

 どれ、早速呼ぼうかのう。

 ワシは念話でシロクと連絡をとる。

 すると少しして庭にやってくるシロク。

 いつものように人の姿になっておる。

 既に座っておるワシの対角にシロクを座らせ、早速昼食を異空間収納から出した。

 そしてテーブルの上に並べる。

 うむ、壮観じゃな。

 今並んでおる生姜焼定食とシーザーサラダとコブサラダ、そして春雨たまごスープとかぼちゃの煮付け、でアオイの料理の手持ちが無くなる。

 つまり在庫切れじゃ。

 今晩からは自炊をせんとの。

 まあアオイが来る前まではそれが当たり前じゃったからな。

 また元に戻るだけなのじゃが・・・

 やはり難しいかのう。

 アオイのいた世界の料理を知ってしまったらこっちの世界の料理など・・・

 いや、まあ旨いのもあるがの。

 ん?

 ・・・そうじゃ。

 今までアオイの料理を沢山食してきたのじゃ。

 大体の味はワシの舌が覚えておる。

 いっそ、真似して作ってみるか。

 勿論調味料が全然違うから全く同じに作れはせんじゃろうが、何となく似せることは出来るかもしれん。

 よし、今晩にでも試してみよう。

 じゃが、まずはその前に・・・

 昼食をいただくとするかの。

 ワシは一口生姜焼の肉を噛みちぎる。

 モグモグ・・・

 うむ!

 旨い!

 やはりアオイの出す料理は最高じゃな!

 こりゃあこれと同じものを作るのは骨が折れるぞ?

 どれ、もう一口。

 うむうむ♪

 旨い旨い♪

 お?

 シロクも上機嫌で食べておるわ。

 ここ最近はアオイの料理を節約しておったからの。

 ワシの手作り料理もそれなりに満足して食べてくれてはいたが、やはりアオイの料理は別格らしい。

 まあそりゃそうじゃよな。

 根本的に調味料が違うのじゃから。

 全く中毒性の高い料理達じゃよ。

 それからワシとシロクはしっかり味わいながらアオイの料理を胃袋に落としていった。

 ハァ・・・

 幸せじゃな🖤

 食事が充実しておるということが、これ程の幸福だとはの。

 アオイの料理を食べる度に思い知るわい。


 ・・・


 ・・・

 

 ゆったりとした中、昼食後の時間は穏やかに過ぎていく。

 フゥ・・・

 このまま昼寝でもしようかの。

 ワシ達はリビングに戻ると、シロクに人の姿から魔獣の姿に変わってもらう。

 よし!

 準備は出来た。

 早速昼寝タイムじゃ。

 ワシはとりあえず床に座り、横たわるシロクに背中を預ける。

 フム。

 相変わらず最高の毛並みじゃ。

 このままモフモフさ加減。

 ゴワゴワしているでもなく、かといって湿りすぎておる訳でもない。

 思わず顔を付けてしまいたくなるこのモフモフ・・・

 ああ・・・

 このまま眠ってしまいそうじゃ。

 いや、もう寝るか。


 ・・・


 ・・・


 ん?

 何じゃ?

 異空間収納の中で反応があるのう。

 もしや・・・

 取り敢えず出すか。

 ワシは異空間収納の中からその反応のあるものを取り出す。

 やはりか。

 思った通り、それはアオイに渡した宝石の対になる魔道具じゃった。

 四角い箱の中に通話用の魔石が入っており、表面に付いているボタンを押すと宝石の持ち物との通話ができるのじゃ。

 勿論ワシが開発したものじゃぞ?

 どうじゃ!

 凄いじゃろ!

 まあそれはさておき・・・

 アオイから連絡があるということは強敵が現れたということかのう。

 どれ、早速話してみるか。

 ワシは魔道具のボタンを押した。

「おお、アオイや。久しぶりじゃのう。」

 あまり緊張感のない声で話すワシ。

 本当は直ぐにでも用件を聞いて駆けつけたいが、こちらが焦ってしまっては会話にならんと思ったからじゃ。

 ここはワシの方が冷静になっておらんとのう。

 でないと・・・

「主様ぁ!助けて下さいぃ!」

 思った通り慌てふためいておるわ。

 しかし久しぶりに聞いたアオイの声。

 思わずウルッとしてしまうが、今はそれどころではない。

 声色からして、どうやらかなりマズイ状況にあるらしい。

「落ち着けアオイ。何があった。」

 ワシはアオイに状況説明を求める。

 それ次第で準備するものもあるかもしれん。

 まあ戦闘ならば力でゴリ押しすればいいだけなのじゃが。

 問題があるとすればカーリアとの約束じゃ。

 う~む。

 上手く立ち回らんといかんかもしれんのう。

 色々考えなくてはならんのじゃが・・・

 どうにも向こうは時間が惜しいらしい。

 アオイは焦るばかりで詳しく状況を説明することが出来ないでおる。

「お願いしますぅ!早く来てくださいぃ!私のぉ力ではぁどうしようもないんですぅ!もう時間がぁ・・・ああぁ!主様ぁ!助けて下さいぃ!」

 どうやら本当にマズイらしいの。

 仕方ない・・・

 急ぐか。

「アオイや。わかった。直ぐ行くでの。待っておれ。」

 魔道具の魔力を切り、ワシはリビングから庭に出る。

 どれ、行くとするかの。

「シロクや、留守を頼んだぞ。」

「・・・・・・はい。」

 ワシの頼みに返事を返してくれるシロク。

 うむ。

 先程の会話を近くで聞いていたからの。

 こやつもアオイ達が心配なのじゃろう。

 ・・・

 任せておけ。

 ワシが行けば粗方のことは解決できる。

 しかしカーリアとの約束で、戦闘協力は出来んがの。

 うむ・・・

 まあ何とかするしかないの。

 戦闘は参加せんでも出来ることは沢山ある。

 全員無事に帰還させるんじゃ。

 それ以外考えておらん。

 ワシはそうしっかりと強い意思を胸に刻むと、裏世界に通じる穴を何もない空間に開けた。

 まだミドリコが見つかったかどうかもわからんが、一先ずアオイ達を助けねば。

 ・・・

 待っておれ。

 アオイ、キサラム、キロイ、バシルー。

 直ぐにそっちに行くからの。

 

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