会長が闇落ちするはなし
ソーニャ///スターチス
第1話 失踪
「それでは会長、お先に失礼いたします」
「ええ、お疲れ様」
扉が閉まり、室内は私だけ。
運動部の掛け声がかすかに聞こえる。
窓から差し込んでくる夕日が少し目に障る・・・
チェックが終わった書類の束を整えて書類棚に手を伸ばす。
「トロピカル部ー、ファイオー、ファイオー!」ファイオー!!!」マチナサイヨー!!!」
手が止まる。
立ち上がって窓の外を見ると、あの子が楽しそうに走っている。
笑顔で・・・
遠ざかっていく影を窓越しに見つめる。
カーテンを掴んでいる手が白くなっている事に気が付く。
私は今どんな顔をしているのだろう?
どうでもいいことのはずなのに、どうでもいいことなのに。
カーテンを閉めて、生徒会室を出る。
部活動の生徒以外はもう教室に残っていないようだ。
静かな廊下、自分の足音だけが響くのは心地がいい。
「あすか先輩! 速く走るコツとかある?」
「まなつはフォームも悪くないから今の調子で体を鍛えれば大丈夫なんじゃないか?」
聞きた・・・聞きたくない声、反射的に柱に身を隠す。
とりとめのない会話をしながら、あの子は仲間と一緒に部室へ戻っていく
なぜ隠れたのだろう?
モヤモヤとした何かが胸の上にせり出してくるような感触。
私は学校を後にした
日が沈む前の海
人影はまばらで、気持ちが落ち込んだ時はよくここで日が沈むのを眺める。
水平線に堕ちていく日の光が赤く赤く染まるのを見るのが好きだ。
今更どうしてあの子は部活なんかに、まるで私への・・・
心のざわめきがあふれ出しそうになる。
砂浜で膝を抱えてぎゅっと目を閉じる。
波の音だけが私の中に響いている。
こうしている間は、私は私でなくていい。
そっと目を開けると日は沈み切って星がいくつかまたたいていた。
そろそろ帰ろう。
ぺチャリ、ぺチャリ
「いやはや、多少の残業は覚悟の上で地上に出てみれば、こんなにも簡単に見つかるとは、流石は後回しの魔女様」
「誰!?」
海から声が聞こえた・・・あれは!?
「失礼、私バトラーと申します。後回しの魔女様に使える執事でございます」
暗がりのなか蠢く二つの瞳と大きく突き出した筒のような口、声を出そうとしたけれど体が竦んで動く事さえできない。
これは紛れもなく化け物・・・
「いかがされました? 説明は後ほどゆっくり致しますので、まずは一緒に来ていただきましょう」
一緒に? どこへ・・・
「そうそう、あなたへプレゼントがあります。これを使えば人間でも私共の住み家へご一緒出来るとか」
黒い、怪しい光を称えた何かを持って私に近づいてくる・・・二本足ですらない。
黒い、黒い何かが近づいてくる、わたしの目の前に・・・
あすか・・・
混乱する頭の中にふとあの子の顔がよぎり、私の意識はそこで途切れた
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