第22話

「南!」一郎はセクターに解放されたという女性達の中に、友人である南を見つけて驚きを隠せなかった。


「一郎くん!?」唐突に声をかけられて、南

も同様に驚きを全身で表した。一郎は、彼女の元に駆け寄っていく。そのあとをゆっくりとレオも追随した。


「南もアイツらに捕まっていたのか!」一郎は突然の再会に歓喜したように彼女の両肩を掴んで問いかけた。


「ええ、でも私達も急に解放されて……何がなんだか……」南も全ては知らない様子であった。


「なにもされなかったのか?」


「ええ、なんだか体を調べられたりはしたけど、きちんと食事もさせてくれたし、酷いこともされなかったわ」南は一郎の顔を見て安心したのかニコリと微笑んだ。


「そうか……、良かった」一郎はホッと胸を撫で下ろす。


「ところで……、私の両親がどうなったか知らない?」南は両親と一緒のところを一人だけ拉致された状態で、その後、二人がどうなったのかは知らなかった。


「ごめん……、それは解らない」正直言うと、南がセクターに拐われていた事すら知らなかったのだ。


「そう……、あと中野君は元気なのかしら。また、三人で集まりたいね」南は自分の親の行方が解らなくて不安な事を隠すように笑った。


「中野……は……」一郎の言葉がたどたどしくなった。その様子を南は怪訝そうに見つめる。


「どうしたの?中野君がどうかしたの」


「死んだ……」言葉を口にした途端、目頭が熱くなってきた。それを誤魔化すように視線を地面に落とした。


「死んだ……って、またまた冗談でしょ?それ洒落になってないよ」南はぎこちない笑い顔で、一郎の右腕を軽く叩いた。


「……」一郎は無言でうつむいたままであった。


「本当なの……、冗談じゃないの……」彼女の笑顔が崩れていく。


「ああ、中野はセクターに……、殺されたんだ」一郎は下を向いたままである。


「そんな……」南は大粒の涙を浮かべると一郎の胸に飛び込んで嗚咽を漏らした。一郎は優しく彼女の体を包み込むように抱くと頭をゆっくりと撫でた。


少し離れた場所で二人のやり取りを見ていたレオは、今まで感じたことの無い胸のモヤモヤに襲われていた。


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