第21話

「セクターが捕虜にしていた人達を解放したようだ」大井戸は先ほどまで通話していたスマホをポケットにしまいながら告げる。


「本当ですか?」一郎は少し微笑む。レオの表情はあまり変わらなかった。あの騒動からなんとか戻った二人に、大井戸は謝罪した。少なからず、反感を持つ者達がいることは把握していたが、まさかエクスから降りた直後の二人を狙って誘拐する者がいるなど予測していなかったのと、レオ達の力を過信し過ぎていたというのが本音であった。


「結構な数の女性達が捕虜になっていたんだが、正直、政府は諦めていたんだが……」短期的に、複数の女性が拉致され生存は絶望的というのが政府の見解であった。


「奴ら、どういうつもりなんだろうか?」大井戸は思案するように腕組をして首をかしげる。


「でも、何にしろ良かったじゃないですか。解放された人達はどうするんですか?」


「ああ、今、救助の車両を向かわせているそうだ」


「そうですか、良かったですね」一郎は安堵のため息を一つついた。



南達、捕らわれていた少女達は突然解放された。喜ぶ者、嬉しくて抱き合う者、逆に泣き崩れる者、それは千差万別であった。


「一体、どうして……」南には意味が解らなかった。セクターという異星人は、彼女達に危害を加える訳でもなく、食事も十分に与えてくれたし、決められた区域内での限定的な自由も与えられた。ただ、定期的に身体検査のように体を調べられるのは少し苦痛であった。あと、右の手の甲に黒い文字のような印を刻まれた。痛みは無かったが、何度洗ってもそれは消すことが出来なかった。


「ねえ、あれ車かしら?」一人の少女が遠くを指差した。


頑丈そうな車両を先頭に、数台のバスが走って来るのが見えた。どうやら、彼女達を救出にきた車両のようであった。


少女達は助けを乞うように大きく両手をふった。そして、彼女達を見つけた車両は停車した。


「君達は、地球人だな?」車両から降りてきた、迷彩服の男性二人が銃を構えている。


「そ、そうです。私達、宇宙人に捕まっていたんですが、突然この場所で降ろされて……」年長の少女が説明する。


「そうか……、皆さんが解放された事は、宇宙人からの通信で連絡されてきたようです。しかし、本当に皆さんご無事で良かったですね。さあ、順番にバスに乗り込んで下さい。安全な場所にご案内いたします」迷彩服の男達は、銃を肩にかけると、少女達をバスに誘導した。


その一群の中で、南も安堵した。宇宙人の捕虜になった時、二度と戻れる事はないだろうと何処かで覚悟していた。そして、無性に一郎に会いたいという気持ちが彼女の胸の鼓動を少し早くさせた。




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