君との思い出

明日野もこ

第1話

明日のことはわからない。

僕もその1人で明日を思い描くことより今,目の前にあることを片付けるのに一生懸命になる。

「明日,世界が変わっていたらどうする?」

君は僕にそう言い放った。僕は戸惑うことしかできず,返事はろくにできなかった。

「うーん。変わらないと思う…」

「本当にそう思う?私はいつだって世界は変わっていると思う。ただ,私たちが気づかないくらい少しずつだから,いつ変わってもおかしくないと思うんだ」

「そっか…だからなに?」

「それは言わないで。だからってそれ以上何にもないんだけど…」

「じゃあ,聞くなよ」

「ごめんなさい。なんとなく気になって」

「そんなことより…」

僕はその後違う話を続けた。

それから,少しして君はどこかに消えた。僕は,その日から君を探している。どんなに探しても君は見つからない。

僕は君がこの時どう思っていたのだろう?と会話を思い出しては,考えてしまうのだ。

君と別れてからもう数年も経った。あれから僕は君以外の人とたくさん話して『君だったら,なんていうのかな』なんていつも考えてしまう。

「なに陰気くさい顔してるの?」

そう言ったのは,幼馴染で今付き合っている佳奈だった。佳奈は君とも友達だったよね。

「そんな顔していた?ちょっと考え事していて。で,なんの話だっけ?」

「だから…もういい。ところでなに考えていたの?」

「なんでもないって…気にしないで」

「なんで,教えてくれないの?祐飛はいつも,どこか遠い場所を見ていて,何考えてるかわからないんだよ。だから,私が隣にいていいのかなって不安になるの」

「ごめん。わかった言うよ。結菜のこと思い出していたんだ。佳奈は覚えている?」

「ごめん…誰それ。私知らないんだけど…」

「えっ?どういうこと。ほら子どもの頃毎日のように一緒にいたよ。僕ら」

「そんな人いなかったよ。えっなんか怖いんだけど…」

「そうだっけ…そんなはずないんだけどな」

「だったら,アルバムとか見てみようよ。久しぶりにいいと思わない?」

「そうだね。そうすればいい」

それから1週間経って僕らはアルバムを見ていた。

「ほら,どこにも結菜って子いなくない」

「そんなはずないって」

「じゃあどこにいるの?私わからないんだけど…」

僕は必死に君を探したけど,君はいなかった。

君は何者だったの?そんな疑問を抱えながら僕はその日眠りについた。

「ねぇこっちきて。四葉のクローバー見つけたよ」

「どこにあったの?」

「えっと…そこにあったよ。いいでしょ。これで願い叶えてもらうんだ」

「なんの願いを叶えるの?」

「そんなの決まってるよ。祐飛といつまでも一緒にいること」

「そうなの…じゃあ僕たちはいつでも一緒だね」

「うん」

「でも…君はどこに行ったの?」

「何言ってるの?私はここにいるよ」

僕はそれを聞いて安心して次の言葉を出そうとした時にはもういなかった。

「結菜…どこにいるんだよ…ゆい…な」

僕はそこで目が覚めた。

結菜と四葉のクローバーを探しに行った夢だった。こんな約束したのになんで?君は消えたの?

「最近元気ないね。結菜って子がいないってわかったから?」

「そんなんじゃない。ただ,いない訳ないって信じている僕がいるんだ」

「わかるよ。ずっと覚えていたんだもんね。でもね,祐飛はそれを受け入れないといけないんだよ」

「そうだね。佳奈のいう通りだ」

僕は佳奈にはそう言ったけども,それからもどうしても結菜のことを考えてしまっていた。

そんなある日,僕は懐かしの公園へと来ていた。結菜のことを思い出すためにである。

『あっ,これでよく遊んだ。懐かしい…』

そんな余韻に浸っていると,暑さのせいか意識が朦朧としてきた。

『これは…ダメなやつだ…』

そう思った時にはもう遅かった。

「祐飛お兄ちゃん」

僕を呼んでいる声が聞こえた。

「うっうん?なに?」

「なんで,お兄ちゃんがこんなところにいるの?」

「ここってどこ?」

「ここは,あの世とこの世の間に位置してるところだよ」

「そうなんだ…僕は死ぬのかな…?」

「死なないよ。お兄ちゃんは」

「そうなの。気休めでも嬉しいよ。やり残したことがあるから。ところで君は?」

「お兄ちゃん。私は,お兄ちゃんの妹だよ」

僕はそれを聞いて,不思議に思った。僕には妹なんていなかったからである。

「僕には,妹なんていなかったけど…ほんとうに?」

「そうだよ。お兄ちゃんはきっと覚えてないよ。でも,私は覚えている」

「そっか,僕は忘れていたのか…じゃあ,君の名前は?」

「私の名前…それは言えないかな…ちゃんとある訳じゃないから」

「どういうこと?」

「そんなことより,お兄ちゃんは明日を楽しんでいる?こんな機会じゃないと聞けないから」

「そうだな…まぁね」

僕は少し悩んだが,そう答えた。

「じゃあ,よかった…」

「ただ…なんて言えばいいのかわからないんだけど…」

「なんかあったの?」

「ある人がいなくなったんだ。君に言ってもわからないかもしれないけど…その人は僕にとって大切な人だったんだと思う」

「そうなんだ。それでお兄ちゃんの探している人はどんな人なの?」

「結菜っていう名前の子なんだけど…僕にあることを残して消えた子だよ。だから僕は,その子ともう一度だけ話してみたいんだ」

「なにを残して消えたの?」

「なんて言えばいいんだろう?……不思議かな」

「ふしぎ?」

「そう,不思議。明日っていう不思議。僕にその子は言ったんだ。『明日,世界が変わったらどうする』って僕はそれを聞いて明日は変わらないって答えたんだけど,その子は『明日は少しずつでも変わっていく』って言ったんだ。その日から僕は明日を描くことにした。なんとなくその子が楽しそうだったから。それでもね,その時にはその子は僕の前から消えていた。そして,その子の本当に意味する明日ってなんだったんだろうと僕は思っているんだ。だから,不思議なんだよ」

「そうだね。ふしぎだ」

「ところで君の思う明日ってなに?」

「私の思う明日は…わからないけど,私もその人と同じで明日は小さなことから変わっていくと思う。それに,明日は変わっていくからいつまでも続くことがないと思うよ。だから,私は一瞬一瞬を大切にするべきなんだと思う」

「そっか,君も結菜みたいなこと言うんだね」

「そっそんなことないよ…お兄ちゃんはずっと結菜ちゃんのこと覚えているんだね。でも,お兄ちゃん本当はもう答え出ているんじゃないかな?」

「それは…気づいていたの?」

「なんとなく…」

「そうだね。結菜は僕に明日を生きて欲しかったんだ。結菜が,自分がいなくなる前に…」

「お兄ちゃん。もう迎えが来たみたいだよ」

僕はその子のみている方を見た。するとそのには僕をこの世に送り届けるための馬車があった。

「じゃあ最後に1つ聞いていいかな?」

「なに。お兄ちゃん」

「君は,結菜なのかな?」

「どう思う?お兄ちゃんは」

「僕は…」

これ以上喋ろうとした時に,僕は意識を取り戻していた。

「よかった…心配したんだからね」

僕の顔を覗き込んできた,母が言った。

「大丈夫だよ。それより,聞きたいことがあるんだけど…」

「そんなのいいから祐飛は寝てなさい」

「わかった」

それから少しして,僕は体調が良くなって退院した。

その帰りの車の中で,結菜の話をした。

「なぁ,母さん」

「なに?」

「結菜って誰だか知ってる?」

「なんで…あなたからその名前が出るのよ。まぁいっか。いつか言おうと思っていたことだし。結菜っていうのはあなたの双子の妹よ。祐飛が生まれて,結菜が生まれたんだけど,結菜は体が弱くてすぐにNICUに入ったの。私たちはすぐに良くなるって思っていたから,名前とか考えていたんだけど,急に悪くなっちゃってそこからはあっという間だったわ。それで,あなたには言わないでおこうとお父さんと話したの。まぁ今言っちゃったけどね」

「そっか…ごめん。そんなこと知らなかったから…」

「いいのよ。いつかいうつもりだったのは本当のことだから。ところで,どうして知っていたの?」

「なんか,ずっと長い間一緒にいたような気がしてたからかな」

「双子だから,そんなこともあるかもしれないわね」

僕は,明日のことはわからない。けれど,君の生きれなかった明日を僕は生きることができる。僕は,君のくれた明日を楽しく生きることにするよ。

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