インスタントフィクション集

不如帰

#1 沈丁花

真夏の日差しが容赦なく照りつける。

サイレンが鳴り響く。

唖然とする者と、呆然とする者。

サイレンが鳴り響く。

最後の審判が下される。

サイレンが鳴り響く。


そして音が何も聞こえなくなる。

時間の流れが段々と遅くなっていく。



ふと帽子を脱いだ。

むれた坊主頭に空気が触れる。

この気持ち良さが、私の煮えた想いをやさしく解放してくれる。


暗褐色に輝く土を握りしめ、この場をあとにする。

容赦なく照りつけていた太陽は、いつの間にかぼやけた光を放っていた。


私は全ての力を出し切った。

しかし私はもうこの戦場には立てない。

だからこそ覚えた、深すぎるほどの感慨。


使い倒された相棒たちが、どことなく格好よく見えた。

傷だらけの自分の掌が、どことなく逞しく見えた。


これまでのこと、これからのこと。

そしてそれらを繋げる、この瞬間のこと。

私は生涯大切にしようと思った。



帰り道。

ふと道端で見つけた枝葉だけの沈丁花が、私に微笑んでいるように見えた。

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