インスタントフィクション集
不如帰
#1 沈丁花
真夏の日差しが容赦なく照りつける。
サイレンが鳴り響く。
唖然とする者と、呆然とする者。
サイレンが鳴り響く。
最後の審判が下される。
サイレンが鳴り響く。
そして音が何も聞こえなくなる。
時間の流れが段々と遅くなっていく。
ふと帽子を脱いだ。
むれた坊主頭に空気が触れる。
この気持ち良さが、私の煮えた想いをやさしく解放してくれる。
暗褐色に輝く土を握りしめ、この場をあとにする。
容赦なく照りつけていた太陽は、いつの間にかぼやけた光を放っていた。
私は全ての力を出し切った。
しかし私はもうこの戦場には立てない。
だからこそ覚えた、深すぎるほどの感慨。
使い倒された相棒たちが、どことなく格好よく見えた。
傷だらけの自分の掌が、どことなく逞しく見えた。
これまでのこと、これからのこと。
そしてそれらを繋げる、この瞬間のこと。
私は生涯大切にしようと思った。
帰り道。
ふと道端で見つけた枝葉だけの沈丁花が、私に微笑んでいるように見えた。
インスタントフィクション集 不如帰 @merrymerry1024
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。インスタントフィクション集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます