1-29:目的は
ただ、それだけだった。
教皇様が書いたことだけは分かったけれど、それ以外の情報が全く分からない。
とりあえず、帰ってきたことを報告しよう。
そう思い部屋を見回してみるも、人の気配はない。
よく見れば、あちこちに埃が積もっていて、一定期間掃除されていなかったことが伺える。
タンスを開けてみても、食糧庫を見てみても。生活の痕跡はなくすっからかん。
「……やっぱり、そうなってたのね」
ようやく、念の人が口を開いた。
何が分かったんだろうか、と私たちは彼女の方を向いていた。
「私が王城で捕まっていたのは――教皇の指示だったのよ」
彼女が口にしたのは、想像だにしなかったことだった。
念の人は少しずつ、足跡を辿るようにぽつり、ぽつりと語りだした。
それは出発の日にまで遡り――
「私は、手紙で王城へ向かったの。そこで、パーティーメンバーだったはずの人たちに捕らえられて。それで、連絡を無理やり取らさせられたわ」
「教皇様がやったっていう証拠は……あるの?」
「そうよね、まだ信じ切れてないわよね。けれど、私に指示を出してきたのは教皇だったの。未来がまるで見えているように、筋書きと共に指示を詳細に伝えてきたわ。逆に、それ以外を話そうとすると――殺されるって仕組みね」
「どういうこと?」
「ずっと、首元に剣を突き付けられてたのよ。連絡するときはずっと」
体を抱えて念の人は目を瞑った。
ずっと冷たい感覚を感じて――良く、耐えたと思う。
「最終日、連絡をした後にどこかへ行ったきりだから、様子を見て、丁度皆が王城に来たタイミングに合わせて逃げ出したわ。ここにいないのなら、あの手紙は『教国クラウディアに私は逃げる。悔しければ追ってこい』って言う挑発だと、そう受け取ってるわ」
流石にそんなことは――と、思ったけれど、そうだと否定も出来なかった。
まず私と念の人で、既に教皇様のイメージが違ってしまっている。
なら、結論も変わってしまって当然だろう。
この話が真実であることは、念の人の雰囲気からして間違いないだろう。
「みんなは教国クラウディアを目指すつもり?」
その言葉に、戸惑いながらも皆肯定を返してくる。
表情は、何故当然のことを聞いてくるのか、という雰囲気である。
確かに、今すぐ向かいたい。
けれど、それは何のためだろうか。復讐するのか、それともなんでと問いに行くのか。目的も行動もはっきりしないそれは、私にとってひどく遠回りに見える。
「なら、私は一度休み貰うね」
「……どこに行くの?」
その問いに、全員が耳を傾けた。
「ある村に行こうと思ってる」
「――そう、どれくらいで帰って来る?」
「――距離をまだ聞いてないから分からないけど、半年もあれば帰ってこれると、思う」
その場所に何があるかは分からない。けれど、私はそこに行くべきで。それが盾の人の、残した言葉だから。
杖の人の口ぶりから、私の答え合わせになることが分かっているそっちの方が、魅力的に見えて仕方がなかった。
「帰って来いよ」
「――うん、そっちこそ」
止めることなく、彼女たちは前を向いた。
これから私たちは、別々の場所を目指して旅に出る。
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