1-15:訓練と朝市
「それじゃ、おやすみ!」
その声を最後に、皆一斉に部屋に戻る。
あれから、中立国家首都に戻り、案内されるがままに割り当てられた部屋に移動した。
来客用の部屋、というものがあるらしく、出来る限り豪華に取り繕っているのが分かる。
それでも、外の様子を見ればそれが仮面だということがすぐに分かってしまうのだが……まぁそれは、体裁なんだろう。
「そういえば、帰ってきたときはあの目線がなかったですね」
「あぁ、行くときにあったやつ、なかった……というより、そもそも人がいなかったよねー」
到着したころに会った、あの敵対的な視線の数々を向けていた人たちは、私たちが帰ってくる頃にはいなくなっていた。
それもあって、私たちは案内されるままに部屋の中へと移動したんだけど。
正直、分からないことだらけ。
最初は、私たちを邪魔者というか、敵という感じに見ていたのに。
今となってはとりあえず害がない、みたいな認識をされているような気がする。最初から害なんてないし、
単にそんな余裕がなかったからか、それとも……。
「まぁ、いなかったなら良いじゃん」
「それも、そうですね」
弓の人がベッドに腰を下ろした。
部屋は男と女で分けられている。二人部屋だし、一応前衛と後衛で分かれているので、襲われてもなんとかなる。
まぁ、向こうはそこまで考えてはいないだろうけど。
「弓の人ってさ、どうして戦うの?」
「私、ですか……」
答えは未だ。
どうしたら良いのか、何が正しいのか。そんなことも考えすぎて、分からなくなった。
「私がここに来たのは、お金のためですね」
「意外と現実的なんだね」
「私たちの集落が連続の不作で大変だったんですよ。だから、人口を減らして、なおかつお金を送れる。タイミングが良すぎて罠と疑ったくらいですよ」
「そうだったんだね」
どこにある集落とか、そんなことを聞いてもきっと分からない。
でも、私はそこまで切羽詰まった事情のものを抱えているわけではない。
「他の二人も、そんな感じなのかな」
「あぁ、マルスさん……盾の人も、そんな感じだとは聞き及んでいます」
「へぇ……杖の人は?」
「詳しくは覚えていませんが……切羽詰まった様子はなかったですね」
「ま、それ以上は本人に聞いたほうが良いのかもね」
私はぐっと背伸びをして、ベッドに寝転んだ。
「明日も早いですし、ここらへんで寝ますか」
「そうだね。おやすみ」
「おやすみなさい、勇者様」
私は布団をかぶる。
結局分からなくて、もやっとしたままで。
すぐに寝付けそうにはなかった。
「おはようございます、勇者様」
「あ、おはよう」
天気は良好、体調も良好。
今日は戦闘なんてないはずだけど、体調が良くて困ることはない。
「それにしても勇者様、朝早いんですね」
「あぁ、これくらいに起きて戦闘訓練みたいなことがぽつぽつあってね。それで早起きも慣れちゃった」
闇の人が起きている時間帯に、と思うと、結構な早起きをしないといけない。朝日が上がったころにはもう元気がなくなっていて訓練どころじゃないから、それまでに準備を完了させないといけない。
面倒だったけど、まぁそれが生きたとも言える。
「それより、朝市に行かないといけないんだよね!」
「えぇ、そこで食料を、と思っています」
そこで二週間分を買い占めるのもどうか、とも思ってしまうけど、私たちも命令だから仕方ない。
敵国の街で食料を買い占める、というのも難しそうだ。
「それじゃ、早く行こうよ」
「そうですね」
二人が部屋を出たとき、そこにはちょうど部屋に戻ろうとしている男二人がいた。
「あ、盾の人と杖の人。おはよう」
「あぁ、勇者様、おはようございます」
「……おはよう」
杖の人と盾の人は全身に装備を着こんでいた。
その服には少しの土がついていた。どうやら運動の後のようだ。
「戦闘訓練でもしてたの?」
「えぇ、体が鈍ってはいけませんから」
「一瞬の躊躇いが、生死を分けてしまうからな」
二人がそれぞれに答える。
確かにその通り。そういえば、最近訓練出来ていないな。
「ねぇ、この後時間あったら一緒に訓練しない?」
「勇者様、これから二週間あるんですし、早めに朝市に行ってしまいましょう」
「あ、そうだったね。ごめんね、私から誘っておいて!」
立ち止まってなんていられないなんて思っていたけど、そういえば用事があるんだった。
弓の人にずるずると引っ張られ、私は建物の外へと連れていかれる。
盾の人と杖の人の表情は、決して良いものではなかった。
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