1-7:まだ、私は、私たちは。
「それでは、勇者様方、今日の予定を説明させていただきます」
教会の人が前に立っている。
そしていつもとは違い、私たちは横一列に並んでいる。
説明、とは言うけれど、私たちと同じくらいの人数が横に並んでいる。
正直、こんなに人数がいるのか、という疑問が付いて回るものの、口に出しはしなかった。
昨日の報告からほいほいと話は進み、流れるように今日が訪れた。
まるで本人の意思さえあればいつでもできた、と言わんばかりの速度。正直、違和感だらけだ。
と、そこで一度頭を振った。
違和感を抱くということは、教皇様を、家族を疑うことと同じ。神に背くことと同じ。そんなことはしてはいけない。
そう己を律する。
横をちらり、と見る。
朝だというのに、珍しく闇の人が起きている。というか、多分寝ていないんだろう。うとうとと、体が左右に揺れている。
「今日はパーティーメンバーと顔合わせなどをしてもらった後、昼食休憩を間に挟み、パレードとして王都を一周する馬車に乗ってもらいます」
外の世界を、一度言葉に変換したものしか知らない私たちからすれば、王都というものがどんなものなのか、どんな世界なのかは想像できなかった。確かに、火の人が夢見るのは間違っていない世界かもしれない、と少し思いながらも、わくわくしない自分がいた。
「それでは、さっそくパーティーメンバーとの顔合わせをしていきましょう」
その瞬間、ドアが大きな音と共に開かれた。
最初に入ってきたのは弓を持った人達。きょろきょろとしながらも、教会の人の後ろに並んだ。
次に杖を持った、輝く服で身を包んだ人たちが入ってくる。その表情は自信、その足幅は傲慢を表しているようだった。
そして最後に、重そうな鎧で身を包んだ人たちが入ってくる。何故最後だろう、と思ったが、すぐにその理由が分かった。
重装備に身を包んでいるせいで、歩きがとても遅い。それに歩幅もとても小さい。とてもじゃないけれど、最初に入ってくるには遅すぎる。
が、まぁ頼りになるだろう。体格が他と比べても大きく、さらに体よりも大きい盾を背負っている。
「それでは、移動を」
その瞬間、役職ごとに並んでいた人たちが、一斉に私たちの方へと歩いてくる。
そしてやがて、一役職一人が私の前にならんだ。
「私はユーリ。よろしく、勇者様」
「儂はフロイド。よろしく」
「俺は……マルスだ」
弓のユーリ、杖のフロイド、盾のマルス。
弓の人というより索敵の人みたいな感じだったり、杖の人が珍しく傲慢じゃなかったり、盾の人は……安心する何かがある。
「よろしく、みんな」
ちらりと隣を見れば、ほかの人達も同じようにパーティーに均等に分かれたようだ。
がやがや、とまだ話したいことを話している印象がある。これからどうなるか、私には不安しかないが……
「それでは、パレードで王都を一周してもらいます。皆さま、ご準備を」
声が聞こえた。
右手を喉に当てているあたり、拡声するために魔法を使ったらしい。それでも少し聞き取りにくかったのは、周りがうるさかったためだろう。まぁ、うるさいのは私たちじゃなくて、今入ってきた、武器を持った人達の方だったけれど。
全く、幸先が思いやられる、と誰かが言った。
意味はあるのかな、と誰かは呟いた。
意味なんてないさ、と誰かは返した。
私にとって、意味はあるのだろうか。
ふらり、と寝不足な誰かさんが倒れ、ぼおっと眺めていた私は我に返った。
「それではパレードを開始します。王都を回っていただくだけ。手を振っているだけで良いです。攻撃には反撃をしてもらえれば」
そう、淡々と説明された。
パレードが王都の人達にとってどんな意味を成すのか。やっぱり分からない。さっさと行って、さっさと魔王を倒してしまえば。こんな形式的なことをしている暇があるのか、と、どんどんと疑問は積もってゆく。
それに、さらっと反撃を、と言ったあたり、攻撃もされる前提くらいの考えでいるようだ。
尚更、面倒で大変で、命の危機があることをする理由が分からなかった。
理由を考えながらも、先ほど顔合わせをしたパーティーメンバーと共に馬車に乗り込んだ。
初めて、私たちは外の世界を目の当たりにした。
そこにあったのは、立ち並ぶ石造りの家を隠すほどの人の数。
初めての人数。人はこれだけ集まっても生きていけるのか、と驚愕を隠せないでいた。
でも、同時に。
それは守る人の多さでもある。
もし、ここまで敵が攻めてきたら、守るべきは何人だろうか。そんな次元じゃないことはこの光景から明らか。
なら、守れるのは何人だろうか。
――私だけなら、きっと片手の指で数えられるくらいしか。
「魔王を倒したら、平和になるのかな」
つぶやきが漏れた。
攻め込んでしまえば、ここにいる人は確かに死なない。
「世界がそれだけ単純だったら、みんな幸せだっただろう」
盾の人から言葉が返ってくる。
他の人達はそれをそわそわとしながら見ていた。
言動が教会に立てつくようなものだったからだろう。下手をすれば異端者とされて尋問され最後には処刑される。
私たちのいない時の教会では平然と行われている会話。
「確かにその通りだった。ありがとう……盾の人」
「……マルスだ」
「ごめんね、名前にまだ慣れてなくて」
慣れる感触もないけれど、とは言わなかった。
ハハ、と乾いた笑いを飛ばしている間にも、馬車はゆっくりと、街を回っていく。
そしてやがて、王都を囲う防壁の少し手前を走りだす。
私は、ただ上を見上げた。
馬車の外は、教会の外は。
自由だと思っていた外の世界は、まだ高い石の壁に囲まれたままだった。
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