第15話




気恥ずかしさを少し抱えながら歩みを進める

スノーは少し目の下が赤くてなんだか艶やかに見えてその…普段の清廉な草原に咲く花のような可憐さから

月夜に濡れる一輪の花のような魅力を感じる

つまり、せ、セクシーというやつだ

口には出せないけど、俺はなんて卑しい奴なんだ


「ヴァルツ…」

「は、はい!」

思わず地面から垂直に真っ直ぐ姿勢を正して敬礼をした

怪訝な顔をされた


「あれ、なんだろ」

「ん、あれは橋だな」


霧の奥に川を跨いだ吊り橋が架けられていた

古そうなわりにしっかりしている

その先はどこへ続くのだろうか


「渡る?」

「闇雲に歩き回るよりいいかもしれない。だけど何があるかわらがないし、警戒して進もう」

二人で確認して進んだ

ギシッミシッと一歩目に不安な音がしたが

そのあとは大丈夫そうだった

静かに反響する川の音が聞こえる




空も見えなくてただまだ昼なのが幸いして灰色の霧の天井に覆われている

方向感覚が狂いそうだ

スノーが聞こえると言う妖精の声を頼りに進む

不安がないとは言えないが

何があってもスノーを守ることには変わりはない

いつでも剣が抜けるように魔力をたぎらせ柄を握る



暫く、てか長過ぎないかこの橋

既に三十分ほど歩いている

スノーなんて馬のアレクに跨っている

少し羨ましかった


「あれ!門じゃない?」

「どれ…ほんとだ」


やっと反対側に着いたと安心する

そこには金属でできた大きい門があった


……これって


「城?」



そうそこにあったのは霧の中の古城だった


……驚いて二人で固まる

こんな場所にこんな立派な城なんて

あったか?

もう一度スノーが持っていた地図を開くが

この地域には城なんかなかったはず…

やはり異界、信憑性が上がってしまった


「入れないかな」

「え?入るのか」


スノーが門をトントンと叩く

以外と、いや好奇心が強い子だったな

「どうだろう。進入はできるけど、なんだか嫌な予感がする。異界の主がいたら危険だ」

「けど結局何も見つからないし、ここが異界でその主がいるならどっちみち出口を教えてもらわないと一生出れなさそう…」

「…」


確かにその通りだ

危険だが死ぬまで霧の森の中を歩くのは嫌だ

情報も少ないし城に入って調べるのも悪くない

「なら俺が中を調べてくる」

「俺も行くよ」

「危険だ。もし何かあれば二人同時にやられてしまうかもしれない。なら外で待機して待っててもらう方が俺としては安心できる」

「そうだけど、ここにいたって襲われない保証はないし、妖精が呼んでいるから声の聞ける俺も着いていった方が良くないかな?」


「うっ、その通りだ」

危険な目に合わせたくない…

でも今は協力して進むのが最善だ…

「…離れないで着いてきてくれるか?」

「もちろん。俺の騎士様にお任せするよ」

ちゃんとサポートするけどねと笑う

確かに二人なら何倍でも強くなれそうだ

俺は笑ってスノーと二人で場内に入ることにした

「どうやって入る?」

「俺が壁を登って中でロープを見つけるからそれを登ってもらうとか」

「…登れるかな」

「無理そうなら俺が縛ったロープでスノーを引っ張り上げるよ」

「うへ、それ恥ずかしい」

「はは、俺しか見てないさ」

「それでも恥ずかしいよ…」

「何で恥ずかしいんだ?旅の仲間だ恥ずかしいことなんて…ないだろ?」

なぜかスイッチが入ってへんな責め方をする

「むっ、…そうだけどさ…それとこれとは、違うと思うし」

「どう違うか教えてくれよ。それとも俺がお姫様抱っこして持ち上げて運ぼうか?」

「ば、馬鹿!からかわないでよ!」

「フフごめんな。つい可愛くて…」

手を握って目を見つめる

視線が絡み合う

スノーの白い肌がわずかに赤く染まる

い、いける気がする!


バンッ!!


「「わっ!」」

互いに飛び跳ねてくっつく

みると黒い扉が激しい音を立てて開いた…

まるで人ん家の前でイチャついてんじゃねーぞというように



「…扉、開いたね」

「うん…」



「とりあえず、入ろうか」

「…うん」


怒られたように気恥ずかしさも相まって

大人しく入城した


入ると石畳に庭園がありなかなか豪華な広場だった

その場を進む

正門を開き中に入る


「光よ 照らせ」

スノーが魔術で壁を照らす

中は古い洋館のようでもあって

余計不気味さを際立たせていた


これは

吊り橋効果というやつが期待できるのでは?

頭の中のロイ先生が笑顔で親指を立てていた


※以下妄想


「どうしたんだいスノー?そんなにくっついて」


「だ、だってこんなに、こ、こわぃ…なんて」


「聞こえないよなんだって?」


「もう!ヴァルツの意地悪!」


「ハハッ、ごめんよつい怖がるスノーが可愛らしくて」


「そ、そんな事ないよ!怖くなんてッ!?わぁ!」

「おっと….」

俺の胸に飛び込むスノー

その体はわずかに震えていた

俺は安心させるように抱きしめ背をさする

「あ、ありがとうヴァルツ」

そのままの体勢で見上げ潤んだ瞳と照れ顔のスノーは官能的で薄い桃色の唇が艶やかだった

「いいよ。怖くならないおまじない、してあげようか?」

「そんなのがあるんだ…。お願い…して?」


「もちろんさ、お姫様…」

「ンッ…」

スノーの柔らかな唇に己の唇を重ねる

そこは少ししっとりとして柔らかくて気持ちよく

全身に甘い感覚が迸る

片手で腰を抱き寄せもう片方で顎を支え

深く口を重ねる

わずかに漏れる吐息や声

流れ落ちる二人の唾液が

白い肌を流れ落ちる前に舐めとる

するとさらにスノーは熱い息を吐くように喘ぐ




「ねぇ!!」

「わぁっ!?」


視界が真っ白になった

な、なんだ敵襲か?よくも邪魔しやがってせっかくいいところだったのに待っててくれスノー直ぐに片付けて続きを…


「寝てるの?それとも霊に憑依でもされた?」

杖に光を収縮している

それは結構痛そうだぞ?

「ま、まって、待ってくれ!まともだから!きっと!」

「…ほんと?」

「ほ、ほんとさ!」

訝しげに見ている

俺は動揺を悟られないように微笑む

あ、危なかった二重の意味で死ぬところだった

盛ってしまった自分に腹が立つ

くそ!よくも邪念を抱かせやがってロイのやつ

あったら仕事倍にしてやる

八つ当たりであった




「みてみてヴァルツ!これ三百年前のロッター地方の特産品の壺だよ!滅多にお目にかからないし高く売れそう。むしろ美術館に寄贈した方がいいくらい」


「そう」


「あっ!これベルマ画家の夢の嘆き…の模倣?もしかしてオリジナルだったら国宝物だよ!すっごいなーここ。美術品コレクターなのなか城主は」


「さぁ」


「聞いてる?」


「うん。聞いてます」


スノーは怖がるところかトレジャーハンター並みにイキイキと進んでいた

魔物も出てこないから平和だけど

どんどん奥に進む


フラグなんて微塵もありませんでした

「持って帰ってもいいかなぁ」

「……お好きにどうぞ」



楽しそうで何よりだった




「ここは…大広間か?」

「うわぁ広い。てかすごいね」


縦に長い黒い扉を開くと

そこは大広間らしかった

俺の住んでいた白いと同等くらいだ

城は国の象徴でもある

いち城主がここまでの規模の城を持てるだろうか

一国の主人でもあるまいし…




中央には吹き抜けのガラス窓から月光が差し込み

正面にはまるで教会のようにそれは大きなステンドガラスがはめ込まれていた


そこは荘厳で

あまりに美しい場所だった


「……すごいね」

「……ああ」


結婚式とかこんな場所でできたらいいななんて考えてしまった

後ろからスノーを見つめる

やはり純白のウェディングドレスがいいか

いやきっと青も似合う…


そんなことを考えているから遅れた

視界の端に

あまりに不似合いな

漆黒の棺桶が置いてあるのに

反応が遅れてしまった


あれは…棺桶

瞳に宿る魔力で可視化する

するとやはり棺桶だった

それが、蓋が開こうと動いていた


「スノー!!離れろ!!」

「え?」


既に闇はスノーの眼前にいた

無音で光を通さず

月光の下ですら姿は見えなかった

スノーは目の前の闇に理解が追いつかないようで

ただ覆うような大きさの闇の前で固まっていた


クソッ!!

剣を抜く



「やっと来てくれたんだね…」

その声は切そうでほっとしたようなと同時に

悲しげな声だった

「……」


「会いたかった……ずっと…我が愛よ」

闇から白い手が伸びてスノーの両手を包むように握る

闇が形を成す

それは

白い髪を後ろに流し、前髪を横に流した

恐ろしく美しい男がいた



「あ、あの」

「…!?スノーから離れろ!!!」

一瞬見惚れてしまった


すぐに強化魔法を体に重ね全速力で斬りかかる

だが当たる前にスノーごと移動した

まるで地面が移動したように

違う、俺だけが飛ばされた?


「…よく顔を見せておくれ。我が愛、我が月、我が姫よ」

チュッとスノーの手の甲にキスをする

すごく様になっていて腹が立った


「スノー!!」

「ハッ!は、離してください!」


「何故だ?なぜ貴方を離さなければならない。やっと会えたのに、やっと会いに来てくれたのに…」

切そうな瞳に吸い込まれそうなほど美しい化け物だった


これが……


「スノーから離れろ!!!」

左手をかざす

「光よ 悪しき者を祓い 聖なる者を守りたまえ!ライトネス!!」

光の剣が男に射出しそれを追うように光のベールが追う


「…塵となれ」

その一言で剣は散った

ベールは目的通りスノーを包み守ってくれて俺のとこまで運ぶ


「大丈夫かスノー!?」

「あ、ありがとう。大丈夫だよ」


「…何者だ。我輩の逢瀬を阻む虫ケラ風情が。串刺しにして鳥に食わせようか」


「クッ…」

すごいプレッシャーだった

まさか、こいつ

「も、もしかして貴様、ヴァンパイアキングか?」


「懐かしい呼び名を。とうに捨てたわ」


やはり

夜の王

ヴァンパイアキングだ


数百年存在し闇に潜む者たちの王

全ての魔に一線を引く超越した化物

ここがこいつの世界、異界だったのか…


王国すら手を出さないSSSレートの化物だ

勝ち目は、ないな

せめてスノーだけでも逃したいが

出口すらわからないのに

八方塞がりだった

スノーを背に庇い考える


「…邪魔な虫よ。去れ。さすれば今宵は生かしてやろう。気分が良いのでな。我が愛とやっと蜜月の時を過ごせるのだから」

嬉しそうに微笑む

それにまた、見惚れてしまう

「スノー奴の目を見るな。あれは魅了だ」

「うん。わかった」


「ほう。同類どもの戦い方の礼儀作法は知っておるようだな。だが甘い」


「ウッ!?」

視界がぐらつく

見てしまう

魔力で防御壁をして防いでいるに

魅了される

「どうした?欲しいのか?身の程を弁えぬ雑種が。よい這いつくばって足置きぐらいにはしてやる」


「…は、はい」

俺は勝手に体が動き

地面に伏せようとした

「ヴァルツ!正気に戻って」

「ウッ…」

神聖魔術で魅了を防いでくれた


「…ありがとう。スノー」

ハァハァと息をし呼吸を整える


「ふん。足掻くな。もう良いだろう姫よ。遊びは終わりにしてこちらに来てくれ。久しぶりに踊ろうじゃないか」


男が手を差し伸べる

目が怪しく光る


「…」

「ダメだ!スノー!」

フラフラと歩き出す

止めたいが体が動かない



「さぁおいで。全てを曝け出し互いに貪りあおうじゃないか」


差し伸べた手に触れそうだ

クソッ…


「導の先に いけ!」

魔法剣が浮かび青白く光って男に迫る

事前に魔術を構築していたから命じるだけで発動する

当たってくれ


「小癪な」

指で摘まれた

それだけで防がれてしまった

こんなに、力量差があるなんて…

守ると誓ったのに…

諦めてたまるか!


「さぁもう一度、美しい顔を見せておくれ」

「…」

その手が触れそうな時だった


「…ッ!?誰だ貴様!」

狼狽したヴァンパイアキングの男はマントをはためかせ一歩下がる


「違いもわかんねーくらい耄碌しちまったのかじいさんよ」

へへっと笑う声が聞こえた

「急急如律令 爆ぜろ」

スノーだったものが青と黄色に炎を放ち男を包む

「ヌッ!?貴様は!」


「おらよ。しっかりしな」

「…!」

体が自由になった

声の方向を向くとスノーの体が俺に降りかかってきた

それを大事に抱き止める


「スノー!」

「無事だよ。気を失っているだけだぜ」

「お前は…スイウン!」


「よっ、またあったなアホ面」

悪人のように笑った男は

スイウンだった



≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫



「なんで「なぜ貴様がここにいる!!許した覚えはないぞ」」

言葉に被せられた怒号


男は激しく怒っていた


「お前の許しなんて知らねーよこの寝坊サボり魔」


「誰がサボり魔だ猿餓鬼が!何しに来た!帰れ!」

「あーうっせぇ。仕事だよ仕事。お前と違ってなぁ」

こけにしたように笑う

既知なのか?

このヴァンパイヤキングと

やはり只者ではない男なのか…



「うっセーって言ってんだろ!帰るよかーえーる。ったく追いかけてきてみりゃ変な気配するしこいつらは入っていっちまうしお前はいるしなんなんだよお前ら、仕事増やすんじゃねーよぶっ殺されてーのかオォン!?」

後半私怨が混ざっている気もするが

ご立腹のようだ


「小間使い程度の存在に興味はない。我が姫を置いて即刻立ち去れ」


「はっ、はははははッ!」

高笑いをするスイウン

状況が読めない


「なぜ笑う小童!事によってはその体の血を吸いきってやるぞ」


「やってみろよ爺さん。もうボロボロのくせに。だからずっとこんなとこで寝てたんだろ?」



「クッ…貴様ぐらいは喰える。そして外に出れば良いのだそれが良い」


「馬鹿だなぁほんと。何年経ってっと思ってんだよ老害。あの頃より俺、ちょーつえーかんな?」

いつのまにか持っていた、確か青龍偃月刀とかいう武器を構えている

あの武器も威圧感を感じる

こいつに勝てるのか?


「わかっておるのだぞ。貴様も疲弊しておろう」

「確かにな、ここまで来る途中わんさかいたテメーの眷属殺すのに時間かかっちまった」


「だがまだ残っておるぞ」


「あいつに任せたから知らねー。時間の問題だろ」

ニヤリと笑う

「どいつもこいつも人の領域に土足で踏み込みよって…」

気配が変わった



「…万死に値する」


「ヴァルツ!離れてろ!」

「!」



咄嗟にスノーを抱えたまま後方に飛び下がる

するとあと一瞬遅れていたら死んでいた


目の前が赤黒い何かで抉られていた


「黒き血の晩餐」


奴のマントが不気味に蠢く

それはヴァンパイア伝説に聞く血の羽衣と言うやつだった


「へ、鈍ってはなさそうだな爺さん!」

背でクルクルと武器を回す


「円転 水月!」

回り円を描いた武器から

水竜のような水が男に迫る


「フンッ」

それを片手で払った


「陽玉 雷虎!」


刃の部分で武器を振った箇所から電撃が生まれ

虎の形を成し襲い掛かる

「子供騙しか?」


「咀嚼する牙」

地面から赤黒い牙が現れ虎を噛み砕く

瞬時に消えた


「それはどうだろーなぁ?」

「ッ!」


男の後ろにいつのまにかいたスイウンが横凪に刃を振り首を落とそうとした

だが男の伸びた爪が防ぐ

素早く互いに連撃する

凄まじい攻防だった

目で追えるだけしかできなかった


「光よ! 悪しき者を縛り罪を濯げ!信心の戒め!」


光の鎖が男を拘束する

「…クッ」

「へ、やるじゃねーか」

空気を裂く音がしてスイウンが男の首を刎ねる


「やったか!」

「まだ見てーだな。まぁそりゃそうか」


スイウンは俺たちの方に下がる

だがまだ男の方を見て身構える

首のない体が揺れる


《惨憺たる揺籠》


音のない声が聞こえた

すると体が動き霧散する

一匹一匹の蝙蝠となった


「チッ。陰昇 翠竜仙!」

下段斬りから放たれた緑色の風が竜となって全ての蝙蝠を撃ち落とす


だが血の霧となってまた集約し

固まって男の姿を現した


「あー持久戦かこれ」

「フンッ。我輩に挑んだのだ。それで済むと思うてか」

互いに笑う


「こっちだってまだまだ手はあんだよ。殺していいか迷ってんだよ」


「随分と舐めた事を言うようになったな小童」

ひらりとマントを動かす


「ほんとに物覚えわりーなあんた。だから見捨てられんだよ」


「何をッ!?愚弄するな餓鬼が!我輩が何を忘れていると言うんだ」

憤慨し牙を剥き出しにして怒鳴る

体からは赤黒いオーラが出ている

金色の目が赤く濁る


「マジかよ。散々心配かけといてそれって…しゃーねー」

武器をクルリと回し刃の反対側を地面に突き刺す



「…死ねよアンタ」

空間にスイウンの殺気が溢れる

重さと緊張で動けなくなる

動けば、殺させる…



「…貴様、何を言っているのかわからないが、本気だな」

「そうだな。お前に価値は無くなった。なら死ね今すぐ死ね」

辛辣に言葉を吐くが殺気はあるのに声は無感情に感じた


「ふん。流石は殺し屋の成れの果てだ。良い顔だ」

そう男は笑った

殺し屋?スイウンがか?

あの飄々として口は悪いがなんだかんだ言って助けてくれて酒を飲めば泣きながら愚痴を言う男が…


俺は驚いていた

短い期間で喧嘩ばかりしたが

内心こいつが嫌いではなかった

友のようにも感じていた



「よい。貴様なら良い供物だ。貴様らを喰って我が月を愛そう」


「ハッ」

「何を笑う」

男が滲み出る殺気を放つ

それはスイウンと引けを取らなかった


「ほんと救えねー。だから耄碌しちまってんだよ」

「…何を言って」

「よく見てみろよ爺さん。あいつはなんだ?」

スイウンが振り返らずスノーを指差す

怪訝な顔をして男はその通りに見つめる



「……………ヌッ」

「わかったか?」

「………こやつは、誰だ?」

コテンと首を傾げた

全く可愛くないと思った



「貴様ら我輩を謀ったな!!!!」

黒と赤のオーラを放ち憤慨する

魔力で周囲が軋む

全てが吹き飛んでしまいそうだった


「ちげーよ!!テメーが一人で勘違いしてんだろうが!!」


クソッ!と悪態を吐くスイウン

もはや言葉は届かなそうだった


「おいヴァルツ」

「なんだ…」

唐突に話しかけられた


「スノーを連れてここから逃げろ」

「お前はどうするんだ!しかも外は出口のない異界だ」

「俺はこいつを片付けてから行く。お前らがいると巻き込むんだよ。だから外で待っとけ」

スイウンは本気のようだった


「………死ぬなよ」

「…ハッ、誰に言ってんだよ」

ブン!と武器を振る

そして構えた

「翠竜飛天 空と共に生きるスイウン様とは俺のこと!」

名乗りを挙げた


「ヴァンパイアキングの一人や二人!俺の愛の前では小鬼と変わんねーのよ!あっはっは!」

笑いながら喋る

だが目は鋭く睨みつけていた


「どいつもこいつも我輩の邪魔ばかり、ここでは月も見えず届かない。もう………はいやだ」


男は静かに項垂れた


「今、逢いに行くよ」

男の後ろから闇が広がる

それはまるで闇の侵攻だった


二人は互いしか見ていない

目の前の敵を



「闇よ 空を墜とせ」

「極転 光芒無天!」


きっと二人の大技が今衝突しそうだ

俺は全魔力を込めて全身に激らせて退避しようとした


だがそれは果たせなかった







《平伏せよ》






その一言にこの場にいる者は

誰一人動くことができなかった




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