第14話
夕焼けが景色を染める
遠くは赤く 近くは黄金に
風に揺れる稲穂は美しい黄金色で
どこか温かみがあって心が凪いでいる
静かな世界に一人立っている
寂しいのに 満たされている
ここは 誰の世界?
音がした 影が揺れている
ブランコが下がっている木の下で
少年が剣を振っている
その姿は迫力があり一心で
どこか 苦しそうだった
だけど少年は止まらなかった
ひたすら 剣を振るう
光って流れる汗が流星のようで
綺麗だった
夕暮れの中でも
瞳は怖いくらいに 強く輝いていた
「ーーーー」
声を出したのに出なかった
だけど 少年は振り返った
驚いた顔の後
とても嬉しそうに 微笑んでくれた
それが嬉しくて
俺は涙を流した
…………………………
小麦が揺れている
ああ香ばしい香りがする
香ばしい……
?
どちらかと言うと
焦げ臭い?
「……ス」
「えっ?」
「ス…スノー起きてくれ!!」
「な、にごとなの?」
眠気まなこのまま起きて覚醒していない頭で状況を考える
揺れていたのは ヴァルツの髪の毛か 綺麗だなぁ
サワサワと柔らかくもしっかりとした黄金色の髪を撫でる
「ス、スノー。嬉しいけど今じゃない。今じゃないんだ」
「えっ?」
よく見るとヴァルツの顔は青白く、涙目で
頬が煤けていた
何があったの?
「と、とりあえず逃げよう。そうしよう」
返事をする前に俺を抱き上げて走った
「な、なにごと?!」
これしか言えなかった
「な、なんだろう、あはは」
どこか慌てている様子のヴァルツは曖昧な返答をした
「?何を言って……!?」
素早く動くヴァルツの肩越しから燃えた森が見えた
これで焦げ臭かったのか
てことは
「もしかして襲撃?なら俺も戦うよ」
「いや、そうじゃなくて」
「そうじゃなかったらなんなの?自然発火?妖精の悪戯?魔物?」
「それでもなくて………俺の技が火を吹いたと言うか、盛り上がったと言うか、燃え移ったというか、燃えたというか」
?
「意味がわからないよ。とりあえず下ろして。襲撃じゃないなら俺が鎮火するよ」
「あっ、そうかその手があったか」
?
ヴァルツはとても動揺していたようだ
さりげなく尻を撫でていたがきっと動揺のせいだろう
気にしないことにした
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「それで、怖くなって逃げ出したと」
「いや、そうじゃないんだ!いやそうだけど、怖いとかじゃなくて、ちゃんとスノーを一番に抱えて逃げたし」
バンッと木の簡易の机を叩いた
あたりは植物魔法と精霊に手伝ってもらい
一応修復した
ヴァルツはビクビクとして正座しており
涙目で震えている
それはそうだ怒っているんだ俺は
「なんで森に火を放ったんだ。事と次第によっては放火として警備隊に差し出すけど」
「ま、待ってくれそんなことはしていない!!信じてくれ!神に誓う!いや君に誓う!」
大きな尻尾と耳が見えそうなくらい
怒られた犬のようにビクビクしている
クゥ~~ンと今にも鳴きそうだった
「ならはっきり言いなよ。事故なの?ヴァルツがそんなことをしないと俺も思っているけど、事態が事態だしなぁ」
ヘタをすると焼死体になっていたかもしれない
魔物除けはしても火気は気にしてはいなかった
尻尾が少し焦げてお怒りの白馬がさっきからヴァルツの髪を齧っている
大人しく齧られている光景はなんだかこちらがみていて虚しくなる
「それは…やんごとなき事情がありまして、はい…」
正座で少し潤んだ目で話し出した
《早朝》
「ふぁ~あ…」
鳥の小さな囀りで俺は目が覚めた
朝日を浴びた木の葉が透けて黄緑色になり
鮮やかで自然のカーテンが出来ていて美しかった
こんな朝もいいな…
隣で同じ薄い布に包まれていたスノーが
少し眩しそうに身を捩る
ついクスッと笑ってしまい
指の背で眦を撫でる
し、しあわせだっ
自然の中で幸福感を噛み締める
弛んだ顔は誰もみていない
名残惜しく離れる
朝の冷えた空気が気持ち良く眠気が覚めた
…
あの盗賊たちとの出来事があり
気を張って普段のように軽口を挟みながら歩いていたスノーだったがやはり疲れていたのか食事を終えるとすぐに寝てしまった
軽く朝の運動終え白馬のアレクの餌の為連れて歩く
アレクも朝の空気の中での散歩が気持ちいいのか尾を振っている
「おっと…」
木々の合間から獣の姿が見える
こちらには気づいていない様だ…
俺は足音を殺しながら近づき、一撃で仕留める
「ははっ、これは大物だな!」
確かイノブタ?とかいう獣だ
以前野外で団員と狩りに付き添ったらこいつと同種が出て仕留めた記憶がある
見た目の荒々しさと違って臭みがなく味が柔らかくて美味しいんだ
男四人で捌いて焼いて食った
!
これを持っていったらスノーが喜ぶかもしれない
さすがヴァルツ!君は本当にすごいね!なんて言っちゃったりして…なはは!
朝からにやける俺をアレクが草を噛みちぎりながら見ていた
そこから少しの間森を散策し使えそうなのを見つける
道中スノーが図鑑片手に語ってくれたおかげで解毒草や治療のための有名な薬草以外の知識も増え
俺は意気揚々と最終に励んだ
これは…!ユメノボリタケじゃないか!多分そうだ!
先日教えてもらった珍しいキノコで
香りが良く上手くて市場ではなかなかお目にかかれない
ものらしい
これは俺、すごいんじゃないか!
気が高まってアレクの白い尻をパンパンと叩いて
蹴られたが、俺は嬉しくて足速にスノーの元に戻る
…一応簡単な感知魔術の魔道具で警戒はしているが
スノーはスヤスヤと木の幹に寄りかかって寝ていた
寝顔が可愛い…
見惚れている場合じゃない
俺はできる男だと証明しなければ…
急いで作業に取り掛かる
そうれはやるんだ!
料理を作れる男に!
胸の前でガッツポーズをして高らかに宣う
そう俺は何と!優雅な朝食を作るんだ!
ふふん!すごいだろう!
誰もいないのに鼻息を荒くして自分に酔いしれるヴァルツ
「ヴァルツ?もしかしてヴァルツがこんなにすごい朝食を作ってくれたの?嬉しい…」
「まぁね。こんな簡単なものだけどよかったら食べてくれよ。君が喜んでくれる顔を思い浮かべて作ったんだ」
「そんな……,ヴァルツ、好き!!」
「おいおいスノー、こんな昼間から、求め合うなんてらしくないな。食事より俺がいいのかい?仕方ない子だ」
「ご、ごめん嬉しくて我慢、出来なくて、せっかくだし食事食べちゃッ!」
「焚きつけといてそれはないだろうスノー?……まずはメインディッシュから頂くよ」
「ヴ、ヴァルツ……ンアッ…」
な、ななななんてふへへへ
爽やかな朝、邪な思いを滲ませながら
朝食作りに取り掛かった……
「それで、どうして森林火災に発展したんだよ」
「は、はい」
言えないことは伏せて、ありのまま話した
カッコつけてまともに料理もしたこともないのに
捌くことはできるからと舐めていた
調理器具を借りて始めた料理は
大変だった
とりあえずステーキ肉の様にカットした肉をフライパンに乗せ
その下に魔石に魔力を通して焼いた
ジューといい音がしてさらにスノー自作のミックススパイスをかけるとさらに美味そうな香りがした
そして隣でキノコのスープを作ろうと食べれそうな植物と簡単に肉団子を作りスープを作った
そこまではよかった
少しレア気味だから火力を強くしようとしたらフライパンが溶けだし
俺は慌てて魔力の流れを変えてしまい
隣でぐつぐつと煮えていたスープが爆発し空に浮かび俺にかかる
直撃は避けたが熱かった
少し腕にかかる
「ふー…焦ったー。ははっ、料理って爆発するんだなぁー」
額の冷や汗を拭いてなぜか笑えてきてそんなことを言った
グイッ
「んぁ、どうしたアレク。これから作り直さなきゃならないんだ。ああどうしようフライパンが溶けてしまっている。怒られるか。鍋って飛ぶんだな?」
残骸を両手に持って覗いていた
グイッ
「なんだよアレク。お前の餌はさっき食べたろ?食べすぎるとすぐ太る………ぞ……」
俺は少しだけ察していた
チリチリという音と焦げ臭さが消えないことに
「も!」
俺は飛び跳ねて慌てた
「燃えてるー!」
過剰供給された魔力に暴発し火が燃え移ったらしい
鍋の方の魔石も過剰な魔力により火花が炸裂して当たりを火の海にしようとしていた
け、消さないと……
慌てながらも場数を踏んでいる俺はすぐに水魔法で消火をしようとした
そして視界の端に
火に包まれようとしていたスノーが見えた
その瞬間俺は反射的に水生成をキャンセルして身体強化魔術を発動しスノーを抱き抱え走って逃げた
そういう顛末だった
「…」
スノーは腕を組んだまま顔をおさている
や、やってしまった…これでは俺の計画が…
嫌われてしまったのだろうか
じ、時間魔法をいつか習得してやり直したい
王宮の禁書庫にあったはず
忍び込めば読みこともできるだろう
俺は脳内で忍び込む三段を練っていると
はぁというため息をはいて俺は情けなくも座ったまま飛び跳ねる
「怪我は、ないの?」
「えっと、腕にスープが….」
「それを早くいいなよ!」
「はい!」
上着を剥がれ上半身裸になる
ス、スノーって意外と強引なんだな
悪くない……
アホな思考をよそにスノーは真面目な顔をして
俺の体を診察する
「……本当に腕だけだね。軟膏を塗ってくから」
テキパキと鞄から薬を取り出し塗り込んで包帯を巻いてくれた
…申し訳なさを感じる
「ごめんなさい」
「…次は気をつけて。無理はしないこと。ちゃんと安全を確認して、何かあったらちゃんと、俺に言ってよ」
約束だからな
と怒りながらもホッとした顔で
俺は深く頷いた
「…‥下も脱ごうか」
「えっ!?そんな!」
「何を恥ずかしがっているの?他に火傷していたら危ないんだよ。火傷は感染症にかかりやすくなるからね」
それは、確かにそうだが
そんな、破廉恥な…
「さぁ、脱いで」
綺麗な顔をむけてスノーは俺の腰とズボンを握っていう
それは、俺の役目では
俺はそのあと抵抗するもの、哀れにパンツ一丁に脱がされたのであった
女の子の様な悲鳴をあげてしまったのは忘れたい記憶である
だが悪くないなと思う自分がいたことは
誰にもいうまい
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
そのあと少し俺は気恥ずかしさを抱えていたが
スノーは全く気にしていなかったので普通に戻った
俺の獲ってきたものをスノーはテキパキと使って朝食を作ってくれた
キノゴソースがけイノブタソテーときのこと野菜スープ
だった
大変美味しくおかわりまでしてしまった
スノーにも獲ってきていたものは褒められたのでよしとする
鍋とフライパンをダメにしたのは睨まれてしまったが
……すまない弁償します
準備を終え出立した
今日は晴れており清々しかった
…はずだったのだ
一刻ほど歩くと
森林の中が次第に霧に包まれてきた
なんとか前のスノーは見えるが
こんなことは初めてだった
はぐれると危険なのでそばに寄る
スノーも眉根を下げていて
少し不安そうにしていた
俺は自然と背を摩り
大丈夫だと気持ちを込める
そうすると笑みを浮かべてくれた
「しかしすごい霧だな」
「うん。こんなにも見えなくなるなんてね。夜だったら本当に怖かったよ」
笑いながらスノーはそう言う
「確かにな。早めに霧の中から抜け出した方がいい。少し早めに進むけど、大丈夫か?」
「うん。俺もそれがいいと思う。大丈夫だよ」
アレクの背を一撫でして先を急ぐ
あれから三時間ほど経った
だがまだ霧の中だった
「こんなに、霧って続くのかな…」
疲れを滲ませたスノー、途中休憩をしようと提案したが断られた
先を急いだほうがいい、大丈夫だからと
「おかしいかもしれない。俺も初めてだから確かな判断はできないけど、獣すら見ない…」
そう獣がいないのだ
静かすぎる
白い霧に包まれた森は静かすぎて
不気味だった
何かの幻術だろうか
なら何のために?
いつのまにか術中にハマってしまったのか
判断できなかった
「スノー、少し休んでいてくれ。もしかしたら敵の幻術かもしれない。試して解いてみる」
矢継ぎ早に言う
本当に自然現象なのか、故意的に発生させたものなのか
それとも幻術の類なのか
どれでも危険度は大して変わらないが
したの二つなら敵意がある
それは見逃せない理由だった
………
「正しき導よ 今我に示さん 解!」
どの系統の幻術かわからないが、無難に神聖術の一つである解術を使う
………
反応がない
それは幻術にそもそもかかっていないか、俺より上手か
どちらかだった
俺は黙って思案する
どうすればいい……
「…風よ 霧を払って!」
スノーが察して精霊術で風を起こして霧を払おうとした
ブワッという強い風が発生して
周囲十五メートル前後の霧を払った
これならいけるのか?
久しぶりに少しだけ明瞭になった視界でスノーをみて
俺は安心する気持ちになった
「やはりこれは自然なものか誰かの術なのかもしれないな」
「うん。そうかもしれない。あと……」
スノーがなにか引っかかるのかこちらを見ている
「どうかしたのか?」
「えっと、信じてもらえたらいいんだけど、気持ち悪かったらごめんね」
なぜかスノーは困り笑いをした
何でそんな顔をするんだ?俺は不思議だった
「精霊たちが騒いでいるんだ。ここは、異界だって……」
「………異界?異界だって!?」
俺はつい大きな声をあげる
異界だなんてそんな……ありえるのか
異界、それはこの世界で伝承にある様な話だった
この世界には歪みがありそれが扉となって全くの別の世界に繋がっていると
それは夢物語で誰でも知っている噂話だが
誰も信じていない話だった
「本当なのか?」
「そう言ってる。てか気にしないの?」
「何を?ああ異界ってことは気にする。精霊たちが言ったことが事実なら、俺たちは出れないことになる」
そうなのだ
噂話には続きがあって、異界に行ったものは二度帰れないか
数年後から数十年後に現れるとも言われる
それが事実ならなかなか重い現実だ
「それもだけど、俺が精霊と話せること、とかさ」
また不安な顔をしている
俺は不安を取り消せる様に笑みを浮かべてスノーの頭を撫でる
「俺はスノーを信じてる。だからスノーがそうだっていうなら俺はそれを信じる」
真っ直ぐ目を見る
「でも、嘘かもしれないし、不気味じゃないか、知らないの?精霊の言葉を使う人攫いの話」
「あーチェンジリング?だったか。その話は聞いたことあるけど、所詮噂は噂だし、俺は見た事と信じるに値する根拠がなきゃ信じない」
「なら俺だって、何にもないよそんなの…」
「あるよ」
「な、ないよ」
「あるってば」
「ないってば!」
「あるって言ってるだろ」
子供同士の口喧嘩が展開され
俺たちは互いに同時に笑った
笑い終わってスノーは微笑んだ
「ほんとにさ、変なの。何で信じてくれるの?」
「当たり前だ。俺は見て知ったんだ。スノーは信頼できるって。信じるって決めたんだ」
勝手に俺は心に誓ったんだ
くだらない一人の男が恋心を抱いて
惚れた相手を信じれないで何が好きだと言える
もし裏切られたり嘘をつかれたりしたって
それはショックだろうが
信じたことに後悔はない
自分で決めたことだからだ
そんなことをまだ言えない気持ちを隠しながら俺は言った
すまない、まだ君に伝える勇気が俺にはないんだ…
「………」
「な、泣いてるのか!?わ、悪いごめんなスノー!泣かないでくれな、何ですもするから」
俺は慌ててスノーに詰め寄る
スノーは俯いたまま、ポンと俺の胸を叩く
それは言葉にできない気持ちを伝えるための行為に思えた
「……ありがとうヴァルツ」
「こちらこそ。スノー」
どさくさに紛れ
俺はスノーを抱きしめた
スノーは言えない秘密に
胸を痛めながら
ただ抱きしめられていた
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