あこがれの先輩の前でキスをされてから魔力のためにキスを狙われています
いかそうめん
最悪のファーストキス
一つに束ねられているふわふわの栗色の髪が光に反射して光っている。滴る汗が首元を通るだけでこんなにフェロモンが出るのだろうかと思うほどの色気で見ていると倒れてしまいそうだ。普段はあまり朗らかなのに対して鋭い目つきで相手を威圧しながらラケットを振るい相手を翻弄して点数を着々ととっていく姿に目を奪われる。
彼はテニス部部長の東城来也先輩。
他にもプレイしている選手はたくさんいるのに彼がいるコートの周りだけ人が集まるくらい正真正銘のイケメンである。
本当にかっこいい。団体で見ている子たちのようにキャーキャーと騒いだりはしないが帰宅部の私は彼のことをよく見に来てはその容姿にみとれている。おかげでテニスに関して少し詳しくなっているのだが堅実なプレイスタイルであることが素人の私でもわかる。
先ほどまで同様に東城先輩のプレイを見ていた女子たちがなぜか私のほうを見ている。もしかしたら無意識のうちに声でも出てしまっていたのだろうかと思い返してもおそらく声には出していなかったはずだしなんだか私というよりは後ろのほうを見ているような。
「また兄貴のこと見てんのか」
「郁也。だって本当に東城先輩かっこいいから」
そこにいたのは東城先輩の年子の弟である東城郁也だった。同じ顔をしていて東城先輩が髪をくくっているということで見わけをつけているくらいそっくりでよく双子と間違われるらしいが仲がいいためあまり悪い木はしないとのことだ。
郁也はテニス部には入らず私と同じ帰宅部を満喫している。
「かっこいいって俺も同じ顔してるだろ」
「だって郁也は顔はかっこいいよ」
「顔はってなんだよ、この面食いゴリラ!」
「顔の良さに関して厳しい私がほめているんだから光栄に思いなよくーちゃん」
「その呼び方をすんな!」
面食いゴリラというのは私がイケメンが大好きだということを知っているから面食いと、身体能力を強化する魔法を使うため腕力をかなり強くすることが出来ることからゴリラでそれを組み合わせたものであり非常に腹立たしいことではあるが的確なあだ名である。
また始まったよという雰囲気が流れるほどよく見られる光景。
郁也とは同じクラスで友達が少ない私とすればよく話してくれる友人ではあるがこうしてけんかしている時間のほうが多いのではないかというくらい取っ組み合いをしている。
「くーちゃん、女の子に対してそんな言葉遣いしたらだめだよ」
いつの間にかこちら側に来ていたのか微笑みながら東城先輩が仲裁に入ってくれる。くーちゃんと呼ばれるのを嫌がっているのは東城先輩が呼んでいるあだ名が心底恥ずかしいが何度お願いしても変えてくれないためあきらめているが私が呼ぶといつも怒るのだ。
そんなことよりも東城先輩がこんなに近くに来ている。
フェンス越しではあるが近いし汗をかいているのになんだかいいにおいがする。
「部長の癖にサボってる兄貴に言われたくねえよ」
「休憩時間なんだよ」
そういうと、私のほうを見た。
そしてふわりと微笑んでくれる。その笑顔だけで世界が救えてしまうのではないかと思えてくるほど美の結晶のようだ。三年生の先輩とは学校の棟すらも違うからなかなか会う機会がなくましてこうして部活中に絡むことなんて本当にレアだから今日はツイている。
私のことなんて把握していないだろうけれどこちらが一方的に知っているだけで十分だ。
テニスをしていると怪我もつきものなのかもしれないが、東城先輩は常に怪我をしている。今も足に絆創膏をしていてそこからは血がにじんでおり痛々しい。そんなわんぱくな感じが可愛らしいんだけれど心配になってしまう。
「あ、あの・・・」
「こんにちは」
初めて東城先輩に話しかけることが出来る機会だったのに、誰かに制止される。なんだか周りがざわっとなっていて先輩すら私の後ろを見ているが私は今集中しているの!初めまして、私の名前は濱中瀬良ですよろしくお願いしますって何回も練習しているんだから邪魔しないでほしい。
誰に話しかけているのか知らないけれど後にしてよ。話を続けるにしても何せ話しかけている相手である先輩が目を奪われているからこちらを向いてさえくれていない。
というか、もしかしてそんなに注目されるくらいのイケメンなのだろうか。それなら話は別。勢いよく振り返ると真後ろに青年がいた。
黒髪で赤い目をした、普通くらいの目の大きさに普通くらいのまつげの長さと普通くらいの高さの鼻がついている。つまりはフツメン。はい、別に私に関係なし。というよりもどうして私の真後ろに立っているのだろうか。
見たこともない人だから別に私に話しかけられたわけでもないだろうし急に振り返ってみていると不審に思われるだろうと思って関係なしと判断し先輩のほうを向くがまだ先輩は後ろの彼に目を向けられている。もしかすると先輩に声をかけていたのだろうか。それにしては先輩も反応を返してあげればいいのに何も返す気配がない。
「え、あの・・・濱中先輩」
「私?」
まさかの私への声掛けだった。もう一度振り返って彼のことを見るが本当に見たことがないはずである。というよりネクタイの色を見てみると赤色をつけているため一年生のようだ。私は二年生だから新入生に声を掛けられ、ましてや名前を呼ばれるような覚えはないのだけれど。
首を傾げていると隣にいた郁也も誰だろうという顔をしていると予想していたが、なんだかだれかわからないというよりはどうして私に声をかけているのかがわからないという表情をしていた。意外と有名人なのだろうか。
「おいゴリラ、猫山亮太と知り合いなのかよ」
「申し訳ないんだけれどちょっとわからないかもしれない。どこかで会った覚えはあるんだけど」
一応気を使って会った覚えがあるといっておく。
「そうなんですね。僕はあったことはないと思うんですけど」
気を使う必要がなかったしむしろ恥をかいたんだけど。というよりもどうしてあったことがないのに私の名前を知っているのだろうか。
「初めまして、僕は猫山亮太です。えっと、もしかしてさっき僕のこと無視しました?」
「えっ」
なぜなんとも返しにくい質問をしてくるのだろうか。
「すみません、なんでもないです。今日は生徒会長としてお話があってきました」
ばつが悪そうに強引に話題転換をしてきた。生徒会長としてって一年生なのに生徒会長のわけがないだろうけれど、いたずらだろうか。それに丁寧な口調ではあるが赤いピアスを開けているところからしてちょっと不良が入っているように見える。
「いたずらをしたいなら他に当たってよ」
すると鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。なんとも間抜けな感じであるが当てが外れてしまって残念がっているのだろう。
「さっきの全校集会聞いてなかったのかよ、こいつ本当に生徒会長らしいぜ」
「郁也って全校集会聞くタイプだっけ」
「普段は寝てるんだけどなんだかこいつが壇上に立った瞬間目が覚めたっていうかなんか周りも同じような反応をしていて気味が悪いんだよな」
「くーちゃん、そんなこと言ったらだめだろ」
壇上に立った瞬間視線が奪われるって、今の状況に似ている。イケメン兄弟二人が集まっているという究極のサービスショットなのにそちらに目もくれずこの青年のことだけを周りの人たちは作業を止めてまで見つめている。彼には悪いが確かに少し気味が悪い感じがする。
この異様な視線の集まりは若干心地悪く普段から容姿で見られることが多いであろう二人ですら少し落ち着かない様子だ。それを気にするわけでもなく平然としている態度の彼は確かに生徒会長としての器があるということなのだろうか。
「気にしないで下さい、慣れているので。おそらく魔力のせいだと思います」
「どこかで聞いたことがあるよ。普段は気にすることは少ないけれど大量の魔力には人を魅せる能力があるといわれていると」
勉強もコツコツと努力する博識な先輩が付け加える。
彼もそれを肯定するように首を縦に振る。
「でも兄貴は・・・」
郁也は言いかけてやめた。
「魔力をもたない劣等性であっても、周りが僕に反応していれば魔力を持っている人のように反応することができるでしょう」
しかし、彼は郁也の言いたいことがわかるかのように答える。
先輩は魔力をもっていない。
本当にレアなケースで何年に一度くらいの確率でしか存在しないはずである。魔力を全く持っていないうえに魔法にも全く反応することが出来ずすり抜けていくのだ。これは一見いいように思えるがこの学校はスポーツ関連以外は魔法の強さによって判断されるため、先輩は成績はいいのに魔法関連の試験のテストは毎回ゼロ点で結果的にぎりぎりで進級している。
彼が言いたいことは、先輩は他の人が魔法にかかったと判断して即座に他の人と同じ反応をしたということだ。
「そうそう、用件があったんでしたね」
そういうと近づいてくる。
フツメンの男に近寄られたところで緊張はしないがさすがにこの距離には気まずいものがある。
目をとっさにそむけると顎を強引に掴まれる。
そして、唇に柔らかい感触。
「濱中先輩、あなたのことが好きです」
は?いや、こういうのって先輩とか郁也みたいなイケメンからされるものなんじゃないの。どうしてこんなフツメンからというよりも私ファーストキスだったし・・・それに初対面じゃん!よりにもよって先輩の前でこんなこと。
「一目惚れしました」
ぶん殴ってやろうか。
でも一年生で生徒会長に選ばれるほどの実力がある人物なのだろう。いとも簡単にコテンパンにされることは目に見えている。
「生徒会長に任命された人から最初にキスをされた人物は大量の魔力を得てキスをすることで相手に魔力を与えることが出来るようになる・・・」
ぽつりと先輩がつぶやいた。
それにしても照れてしまっているのかわからないがなんだかほっぺが赤い。というよりも頭がぐるぐると回っているような感覚になる。それにしても体全体が熱くなる。どうしたらいいのかわからないほど真っ白になっていく。
なんだか世界が真っ白になっていくし、気分が悪くなってきた。
「おええええええええええ!!!!」
「ちょっ、ゴリラが吐いた!」
「大丈夫!?えっと、ゴリラちゃん」
視界が歪んでいくなか先輩の中で、私の印象が初対面で目の前でキスをされて吐いたゴリラという認識をされたのだと冷静に判断をしてから意識が途絶えた。
「やっぱり、強すぎる力は身を滅ぼしてしまうんですね」
周囲が混乱している中冷静につぶやいている声は聞こえなかった。
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