第88話 貧乏子爵家次男は瞳を探す10
*
「また……ハズレだと?」
俺は累計二百個目の琥珀色の宝石を手に思わず呟いた。
ジュエルヘッドバニーを五十匹ほど狩れば一つや二つは出るだろうと思っていたが。
二百匹狩ってまさかのゼロである。
俺の
冷静な顔をした俺が脳内で何か言いたげな顔をしているが無視する。
何故なら俺は今は仮面の人だからだ。
何か言いたければ仮面を着けてからにしろ。
小道具入れに突っ込んだ宝石が邪魔に感じてきたので商人の所に戻る。
毎度ありの言葉と共に雑に放り込まれる宝石を見送ると「仮面の人」と声をかけられる。
最初から気が付いていたが振り返った先の光景に溜息が出そうになる。
腕やら足が切り飛ばされた冒険者が止血だけされて転がされ列を作っている。
森の中から引きずり出して治療するよりかは効率的で有難いが、お前らちょっと腕とか足を切り飛ばされるのに慣れすぎだろ。
「いやすまねぇな仮面の人」
「そう思うのなら武器を使え武器を。ジュエルヘッドバニー相手に素手とか頭イカレてんのか」
今や何度目か分からない髭面にそう言うと、髭面のパーティーメンバーが背後で同意するように頷いてる。
アンタはアンタで一度も切り飛ばされてない有能なんだからもうちょっと上手く動けと。
髭面が列の最後だったので一緒に森の方へと戻る。
いやぁ、もうすぐ引けると思うんだけどなぁ。波が来てると思うんだよなぁ、と駄目な感じの事を言う髭面。
これだから運に頼るような奴は駄目なのだ。
お前には
そんな俺達をエッズとパルが微妙な物を見る目で見ていたが気にはならなかった。
何故かって?
その時には俺は既に覚悟を決めていたからだ。
そう、吹っ飛ばされる覚悟だよ。
*
殺意の高い魔力だな、と俺は自分の胸に刺さる魔力の視線に感心する。
ジュエルヘッドバニーの物? まさかなと自分で自分の考えを鼻で笑う。
あのウサギ、何故か俺の理論を裏切ってアタリを出さないあの糞ウサギではこんな
俺は隣を歩く髭面を手で押す。
巻き込まれないようにだ。
髭面がパーティーメンバーを巻き込みながら俺から四足分ほど離れる。
髭面の口から出た文句の声は聞こえなかった。
その時には俺は水平に吹っ飛ばされていたからだ。
空中で身をよじり着地体勢を取る。
よし髭面達は無事だな。
俺は防御に使った重く痺れる両腕を軽く振りながら地面に着地する。
地面を滑る両足に力を込めてブレーキをかける。
このままだと屋台の馬車に突っ込みそうだったからだ。
予想以上に止まらない事に焦りながらも無事に屋台の手前で身体が止まる。
丁度背後で呆然としているエッズとパルに声をかける。
「というわけでエッズにパル、お仕事の時間だ。依頼主を無事に街まで連れて帰れよ」
「いや、アレって、ちょっと待ってください分かってますかシンさんアレが何か分かってるんですか?」
エッズの
仮面の位置を左手で微調整。
右手は剣の柄を握る。
「知ってるさ」
俺はエッズに答える。
あと俺は仮面の人だ。
「ジュエルヘッドドラゴンだろ?」
俺の声に応えるように竜は吠えた。
*
ギルドで漁った資料によると、愚か者の森には主に二種類の魔物が湧く。
ジュエルヘッドバニーとジュエルヘッドドラゴンの二種類だ。
ジュエルヘッドバニーは魔境の森を思わせるような量が湧くらしく、かの魔物が森から出て徘徊するようならノールジュエンの街はもっと別の所に造られていただろう。
大量に湧くが森の外に出ないというのはかなり特殊な事であるが、それ以上に特殊なのがジュエルヘッドドラゴンだ。
ジュエルヘッドドラゴンはかなり特殊な魔物だ。
冒険者ギルドの資料によるとコイツは確定で湧かせる事ができるのだ。
そう、確定で湧く、のではなく。
確定で湧かせる、事が可能なのだ。
方法は簡単で単純。
ジュエルヘッドバニーを狩りまくれば良い。
なんとそれだけで竜種がポンと湧くというのだから、愚者の森の
それでも愚者の森には金に目の眩んだ冒険者が集まりジュエルヘッドバニーを狩る。
愚者の森とは皮肉で付けられた名前だが。
それ以上に、単に事実を元に名付けられたに過ぎない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます