第83話 貧乏子爵家次男は瞳を探す5
*
そう言えばパーティーを組むのって久しぶりだな。
ジョンやエッズ達と同じ馬車で揺られながら俺はそんな事を考えた。
師匠と弟子、という関係性であってもパーティーと呼んで良いのなら組んでいたと言えない事もないが……。
いや、あれを冒険者パーティー等と呼ぶのは暴論が過ぎるな。
隣町までの二日間だけとは言え、共に行動する事なったパーティーメンバーを見て思う。
少なくとも彼らは俺を肩に担ぎながら崖から飛び降りないし、“当然避けると思った”という理由で魔物ごと突き刺そうとしないだろう。ちなみにコレは背後からの話だ。
ちなみにエリカは俺の人生もしくは半身なのでパーティーではない。
自分の右脚にわざわざ特別な仲間意識を持つか?持たないだろ? つまりはそういう事だ。
なお俺の人生はあと一年も経たず終わる模様。
ぐふぅ!
*
「うわあ! シンさんが突然血を吐いた!」
叫んだエッズのせいで集まる視線に、軽く手を振って問題ない事を示す。
反射的に噛み切ってしまった頬の肉を回復させながら飛び散った血を浄化魔法で散らす。
ちなみにシャラはエリカ側の人間なので、俺的にはノーカンである。
突然血を吹きだした仮面の男に気さくに声をかけてくれるのはエッズと、彼の相方であるパルの二人だけである。
他からは警戒、とは微妙に違うが知り合いでもない外様の冒険者だからという事以上の距離を感じる。
仮面の謎の――少なくとも俺は名乗ってない――冒険者に対しての距離感としては上等なのかもしれないが。
これはこの護衛パーティーのリーダーであるジョンが俺を紹介した時の言葉のせいもあるだろう。
ジョンは他の冒険者達に俺をこう紹介したのだ。
「コイツは“親切なバルバラ”の弟子だ」
そう紹介された時の冒険者達の顔は表現しがたく、まだカエルの表情を読めと言われた方が簡単かと思えるような物だった。
冒険者達の反応はともかくとして、ジョンのこの紹介で一つ分かった事がある。
彼がファルタール出身であるという事だ。
俺を知っているという事はつまりそういう事だ。
師匠や妹弟子であるなら他国で勇名を馳せていようと、そういう物かと納得できるが。
残念ながら俺はそんなに華々しい活躍はしていない。
“親切なバルバラ”を師に持ちながらファルタールでランク4だったのだ。
これは学園に通いながらだったから、というのを差し引いても遅いだろう。
比べる相手としては間違っているが、妹弟子の方は
妹弟子の“串刺しエルザ”は天才の部類だが、それでも俺のこの遅さは凡庸さの証明に他ならない。
だから俺としてはジョンが俺の事を知っているというのは不思議な事だった。
いや名乗ってないんだけどね?
俺は正面に座るジョンを見てそんな事を考えた。
*
護衛隊のリーダー、ジョンは追加の護衛を加える気は無かった。
今回は既にエッズとパルという二人の駆け出し冒険者を知り合いから預かってもいたし、何より護衛の数は十分に足りていたからだ。
雇い主からはその程度の裁量は与えられるだけの信頼はされていた。
更には声をかけてきたのは仮面の冒険者なのだ。
確かに顔面を完全に覆い隠すような防具は数多くあるが、わざわざ白面の仮面を街中で着けてすごすような奴はいない。
そんなあからさまに怪しい奴を商隊の護衛に参加させよう等と考える奴は普通はいない。
だがそれでもジョンが仮面の冒険者を護衛に加えたのは、彼がロングダガーだったからに他ならない。
思い出すのは自分がまだファルタールの王都を拠点として活動していた時の事だ。
頭がオカシイ奴らだらけのファルタールで一等頭がオカシイ連中に囲まれていた少年がいた。
他国に比べて強力な魔物が出やすいファルタールで
まだ何になろうとしても十分に時間のあるだろう少年は笑っていたのだ。
どんな仕事に就こうと長続きせず、多少は自信のあった腕力で食っていこうと冒険者になったジョンからすれば、少年は狂っているとしか思えなかった、もしくは度し難い程の阿呆かだ。
少年があの“親切なバルバラ”の弟子だと知った時には、嗚呼なるほど確かに狂っているならあの連中に囲まれて笑っていられるだろう、と妙な納得をしたものだ。
少年が貴族の一員であるという事を知った時には、最早その程度ではと驚かなかったぐらいだ。
少年の名前はシン・ロングダガー。
ランク詐欺だの、ファルタールの冒険者ランクは他の国では2を足せ等と言われるファルタール、その中でも化け物揃いである王都の冒険者ギルドで。
冒険者になって一年ほどしか経っていないにも関わらず、化け物共と肩を並べていた少年。
それが今、目の前にいる仮面の男だ。
護衛に加えるなら、仮面云々は脇に置くとしても実力は保証されている。
「おい、アンタ」
ジョンは突然血を吐いた仮面の男が、後始末をするまで待って声をかけた。
コイツらの奇態にいちいち付き合ってられない。
「アンタは本当に“あの”ロングダガーなのか?」
「……ジン・ゴールデンダガーです」
その解答をジョンは鼻で笑う。
護衛に参加させる際にギルド証の確認をしているのだ。
名前の欄をダガーの部分だけが見えるように指で隠して提示されただけだが、それはもはやシン・ロングダガーであると言っているのと同義である。
“親切なバルバラ”の弟子で“正式な”二つ名持ちの冒険者が正体を隠す理由とは何だろうか? と疑問に思いつつも、疑問は脇に置く。
「隣街までって事だが、何をしに行くんだ? アンタのような冒険者が魔境から離れるってのはどういう理由だい?」
そんな事よりも、そう、正体を隠している事よりも、ジョンにとってはシンがヘカタイの街を離れる事の方が疑問だった。
ジョンからすればシンのようなファルタールで頭のオカシイ連中に囲まれていた冒険者が、ファルタールから離れているのも疑問だったが。
それ自体は魔境が目的であると言われれば、成る程十分にあり得る話だと思う。
だがその魔境の最前線であるヘカタイからも離れるという。
一番最初に思いついたのは、ヘカタイで何か犯罪でもやらかして逃げる為かとも思ったが、それなら馬車など使わないで走って逃げるだろう。
シンのような冒険者なら、自分の足で走った方がずっと早いのだから。
そうじゃないのなら……。
「隣街に何かあるのか?」
ジョンの問いに仮面の男は軽く
その答えを聞いたジョンはやっぱりコイツも頭のオカシイ連中の一人だったなと思った。
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