第30話 追放侯爵令嬢様と買い物しよう2

 思ったより待つ時間が長かったと思ったのを正直に告白しよう。

 だが俺は待った甲斐があったなとも思った。


 店から出てきたエリカは冒険者の姿だった。

 ズボンにブーツ、動きやすそうな脛当てと膝当て、太ももの内側部分が補強が入っているのか分厚い。


 上半身も皮の胸当てに小手、肩の部分に補強が入っている。

 上下共に白地の生地だがそれも魔物の皮だろう。


 ランク1の冒険者が選ぶには不相応というか金額的には絶対に無理なのが分かるかなり良い装備だがエリカには似合っていた。


「どうです?」


 エリカが尋ねてくる。


「強そうだ」


 少し迷ってからそう答える。


「宜しくてよ」


 似合ってるではなく強そうだで正解だったようだ。


「それにほら」


 そう言って彼女が腕の部分を指さす。

 なんだろう、と指先を追うと白い生地に青いラインが一本走っていた。


「似合いますでしょ?」


 俺は若干顔を逸らしながら頷いた。

 やはり俺は好きな物に対しては気後れしてしまうらしい。



 *



 マキコマルクロー辺境伯の領主であるコムサス・ドートウィルはヘカタイにある自身の屋敷で頭を抱えていた。

 昨夜、冒険者ギルドから上がってきた報告書を読んだからである。


 例の侯爵令嬢が街に着いた、というのは知っていた。

 その護衛か茶番劇の相手かの男も一緒であるというのも聞いていた。


 だがその二人がゴールデンオーガ三体を討伐できるような冒険者だとは聞いていなかった。



 コムサスはオルクラ王国においては重鎮である。

 重鎮ではあるが中央の政治からは遠い立場だった。


 正確には中央の政治にかかずらう暇が無いのだが、本人の気質的には宮中の闘争から離れていられるのはありがたい話だった。

 だが中央から離れているというのが今回は悪い方に出た。


 例の侯爵令嬢に対しての話もあらまし程度は知っていたが、その詳細については報されていなかったし、知ろうという気にもならなかった。

 中央にもう少し近ければ知ろうとしなくてももう少し詳細な話を知れただろうが、残念ながら友人の少なさも相まってコムサスの知識はあらまし程度から進む事はなかった。


 コムサスは小心者で心配性で準備不足や不意打ちというものに滅法めっぽう弱い性格だった。

 その心配性の性格故にコムサスは熱心に魔境から国を守る辺境伯としての仕事に日夜邁進していた。


 対魔物で主力となる冒険者とその冒険者をまとめるギルドとの連携、国王以外で最大の戦力を保有する辺境伯軍の指揮管理。

 今回の報せも冒険者ギルドとの連携の一環である。


 本来なら仲が悪いというか互いに遠慮するというか、絶妙に微妙なのが王国所属の軍や貴族と冒険者やそのギルドなのだが。

 コムサスは現実主義者であったのでそういった事は気にしなかった。


 気にはしなかったが、こういう人をビックリさせるような報告にはもう少し気の利いた文章でこちらを驚かせないような気遣いが欲しいと思った。

 聞けば例の二人はよわい十六歳でランク1の冒険者であるという。


 男の方はファルタールではランク4の冒険者だったらしいが、それにしても二人で三体のゴールデンオーガの討伐は控えめに言って頭がおかしいとしか言い様がない。

 ファルタールの冒険者は数は少ないが化け物揃いというのは良く聞く話だが、元ランク4とまだ学園を卒業してもいない貴族でコレは意味が分からない。


 本来であれば有能な冒険者が増えるのはマキコマルクロー辺境伯としても、ヘカタイの街としても大変喜ばしい話なのだが。

 いかんせんその二人が例の二人である。


 コムサスの認識としては国外追放された貴族の令嬢が静かに自分の街で暮らす程度の認識だったのである。

 それがこんな意味の分からない働きをする冒険者だとは想像だにしていなかったのだ。


 そうなると途端に心配事が出来てくる。

 教会への対応である。

 光の巫女の暗殺を目論んだ人間が、冒険者として活躍しだすのを教会はどう考えるだろうか?


 放っておくだろうか? それとも自分に何か言ってきたりするのだろうか?

 自分の足下にある街で厄介事が起こる予感にコムサスは頭を抱えた。

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