ランクマッチ-3
ランクマッチ初戦を白星で飾った竜秋は、高レートに勝利した恩恵で一気にレートが七百オーバーも上昇し、一息にランキングトップ二十入りを果たした。
シーズン終了時のランクに応じてエンの支給がある他、
ランクマッチの対戦数に制限はないが、八百長などの行為は厳しく規制されていて、定期的に教員の視察が入る。今回の試合も観覧席に鬼瓦の姿があった。半年に一度のクラス入れ替えのためにも、生徒は一戦たりとも気が抜けない。
試合後、竜秋は簡素なベッドが一つあるだけの、白い壁に囲まれた六畳ほどの板張りの部屋に飛ばされた。《ホーム》と呼ばれる仮想空間で、ロード中の待機場所のようなものだ。
竜秋のホームは初期状態だからこの有様だが、エンを消費して(すべて仮想の幻だが)家具や壁紙を購入したり、間取りを拡張することもできるほか、ここにフレンドを招待する機能もある。現実の談話スペースに上級生がいないのが気になっていたが、どうやら仲間内の
秋の文化祭では校内ナンバーワンのホームを決める『マイホーム-1グランプリ』なんて酔狂な催しまであるとかで、細部までこだわり抜いたホームを校内SNSで公開しているようなやつもいる。恋や小町、ひばりなんかは、稼ぐようになったらけっこうのめり込んでやりそうだ。
さて、マイホームのパイプベッドに腰かけた竜秋は、目の前の虚空をダブルタップしてメニューパネルにアクセスし、先ほどの一戦の
初手で距離を詰めるべきだったかと検討していた竜秋のこめかみに通知音が響いて、
『
先ほどの対戦相手である。戦績確認画面から直近の対戦相手の情報にアクセスすれば、フレンドの申請をすること自体は可能だが、勝ち方に多少の引け目を感じていた竜秋はつい面食らった。
怪しみつつ受諾した瞬間、リリリリリ! とホーム内に大きな受信音が響く。フレンド通話だ。
『あ、もしもーし! さっきは対戦ありがとう! 最後の爆発なんだよ、俺絶対に防御間に合ったと思ったのにー!』
文句を付けるような口調でありながら、その声は楽しそうに弾んでいた。
如意棒のスキル《金剛如意》には、『形状変化』以外に隠し玉がある。それが『性質変化・"起爆"』――インパクトの瞬間に棍棒の物打ち部分が爆裂し、相手をガードごと吹き飛ばす。伊都が去年狩ってきたという
強力な力ほど肉体の消耗が大きい点は、塔伐器のスキルも
「……企業秘密だ」
『えー! ズル! じゃあもう一戦やろ! ランクマッチは仕様的に連戦無理だけど、ルーム戦ならやり放題! 俺部屋作るわ! えーっと……はい、429116ね! 早く早く!』
竜秋は、うっかりルームコードを聞き逃すくらい、胸に去来した名状しがたい感覚に戸惑っていた。
小学一年生から武道を習って、そこから年三回ある武術大会を、一度も負けることなく二十五連覇した。竜秋には戦いの才覚があった。あり過ぎた。一日教わっただけで五年上の門下生を倒してしまうくらいには。同年代しか出ない大会に、竜秋が競えるような相手なんて全国のどこにもいなかった。
竜秋に負けた人間は、決まって異物を見る目で、怯えきった顔で竜秋を見上げたものだった。小学三年生にもなると、トーナメント表が発表された瞬間対戦相手に泣かれるようなこともしばしばだった。神童、天才というラベルで蓋をされて、祭り上げられて、もはや戦神や魔王みたいな扱いで、誰からも戦いを望まれなかった。
つまらなかった。だから、自分が強すぎるせいなのだと、次第に
今、戦いを終えて、改めてリスペクトを深めた相手が、無邪気に再戦を望んでくれている。むず痒いような、妙な気持ちだった。
北空南とは、そうして戦友になった。その日は結局昼までぶっ続けでルームマッチに明け暮れて、話の流れで、現実世界で落ち合って昼食をともにすることになった。並んでラーメンをすすりながら、色んな話をした。
ほとんど自クラスで受ける必修科目ばかりだった一年前期を終え、夏休みに入り、馬城と南を足がかりに、竜秋は少しずつ、他クラスとも交友関係を広げていくことになる。
ランクマッチ参戦から瞬く間に四日が経過した。通算12勝7敗、レート7215。学年ランキングは最高で六位、現状十二位である。序盤は未知の武器如意棒でアドバンテージをとり、無能力の不利を埋めて景気よく連勝を重ねたが、やはりタネが割れてくると簡単に勝たせてもらえなくなった。どいつもこいつも手強い。
夏休み序盤を仮想戦闘漬けで過ごした竜秋は、今日、伊都と校外に出る約束の日を迎えていた。
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