ランクマッチ-1
翌日、夏休み初日から、竜秋にとっては待ちに待った《ランクマッチ》のファーストシーズン開始がアナウンスされた。
《DIVER》を装着することで可能となる仮想戦闘モードには、対人戦の様式が二種類ある。一つは特定の誰かと自由にルールを決めて対戦する、報酬もペナルティも無しの《ルームマッチ》。馬城と普段やっているのがこれだ。
対して《ランクマッチ》とは、対戦待機している生徒の中から自動でマッチングされて対戦する。レートシステムが採用されており、勝てば勝つほど校内ランキングが上がっていく――平たく言えば、校内最強を決める戦いだ。
本来なら六月から開始されるはずのファーストシーズンが大幅に遅れたのには、やはり校内大会中に起きた事件の影響が大きい。
事件当初はさすがに《DIVER》をかぶることそのものに激しい抵抗を覚える生徒が多かった。フルダイブ中は脳が実体に働きかける信号の全てを《DIVER》が遮断し、
この二ヶ月半で第三の犠牲者は現れず、また桃春恋による全校を上げた尋問によって、例の松組殺しの犯人は少なくとも校内の人間ではないと断定された。
それに各生徒に配布されていた《DIVER》も一度回収され、小型のカメラとセンサーを内蔵――一定以上の音や熱、衝撃、不審者の接近などがあると、ただちに強制ログアウトされる仕組みが施されるなど改良された。
こうして、ようやく生徒たちの《DIVER》への抵抗感も払拭されてきたこのタイミングで、満を持してシーズンが始まったのだった。
ランクマッチは武器アリのルール。量産型の塔伐器ならともかく、竜秋の《如意棒》はフルオーダーメイド品だから、仮想世界に持ち込むためには解析班に数日預けて使用者登録し、忠実に再現してもらう必要があった。
二年生以上になると珍しくないが、一年生がこの時期から自前の塔伐器を担いで使用者登録にやってくるのはかなり異端だったらしく、係の人間も目を白黒させていた。
竜秋がランクマッチデビューしたのは、ようやく如意棒が使用者登録されて返ってきた、ファーストシーズン開始から四日後のことである。
自室のベッドに横たわり、《DIVER》を起動する。目の前に浮かび上がるディスプレイの《ランクマッチ》に視線を合わせて選択すると、《ソロ》《
ソロランク戦を選ぶと、わずか数秒の待機画面の後、マッチングが確定した。途端に竜秋の意識が、深く深く沈んでいく――
『ソロランクマッチ 一年生の部
《
VS
《
仮想世界で目覚めた竜秋は、向かい合った対戦相手をひと目見るや、牙を剥くように笑った。
ありがてぇ――早速"バケモン"とやれる。
竜秋が立っているのは、まさに古代コロッセオを
一万人は収容できそうな威容だが、実際に客席にいるのは数名のアバターだけだ。観戦モードを選んでログインしている連中である。竜秋も昨日まではあそこにいた。
「お、噂の"
竜秋の向かいに立つ、爽やかな空色の髪の少年が、赤と青、左右で異なる色の宝石のような目見張った。
"
優秀な候補生は、学生の頃からたくさんの塔を攻略してこの業界に二つ名を浸透させていくものだ。異能を持たない竜秋のために、管理課の親切な職員が提案してくれたのが"エンプティー"――『空白』を意味するその二つ名は、あらゆる可能性を秘めているみたいで、少し気に入った。
「俺を知ってんのか」
当然、さんざん見取り稽古をしてきた竜秋の方は、彼をよく知っている。北空南――松組がほぼ独占している上位ランキングの中でも、五傑に食い込む実力者である。
「有名じゃん、前例のない無能力者、そのくせけっこう強いって聞くよ。校内大会でも目立ってたし」
「なら今日で、もっと一気に名が売れる」
「ははっ、やってみなよ!」
人懐っこい笑顔を浮かべて、南が好戦的に歯を見せる。『戦闘開始』――アナウンスとともに、両者の間に火花が弾けた。
同時に南が、両腰に差した小型の
切っ先にかけて大胆に湾曲した、
リーチが短く、近接武器なら刀型の《斬鉄》の方が人気だが、持っている
一つ断言できるのは、南の
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