校内大会-1
爽司が医務室から呼んできた養護教諭の処置によって、ヒューと閃は大事に至らず済んだ。
「他クラスとケンカねぇ。若い子は元気があっていいわねぇ〜」
腰まで伸びた赤髪が白衣に映える、涙ボクロのセクシーな美女が、ヒューの折れた足に指先で触れながら他人事のようにうそぶく。学園常勤の養護教諭、
「赤羽先生、巽くんも治してあげてください。竹クラスの生徒に何かされて、いきなり苦しみ始めて……」
幸永に頼まれ、赤羽がだるそうに息を吐く。嫌がる竜秋の腕を雑に掴んで、眉をひそめて一言。
「彼、健康体よ。別にどこも痛めてないわ」
「えっ……?」
「だからいいって言ったろ! 今はホントになんともねぇんだ」
「私は怪我しか治せないからねぇ。精神的な攻撃か、もっと別の何かなのか……まぁなんでもいいけど、死なない程度にやりなさいよね〜」
こんなことは日常茶飯事という様子で、赤羽はさっさと去っていった。
その日は結局、すぐに午後の始業時刻となってしまい、昼食を食いっぱぐれてしまった。ヒューと閃の怪我は完治していたが、大事をとろうと幸永が提案し、この日の放課後は佐倉に挑むのを控えた。夕食のカレーも、もうヒューを一人で走らせてまで手に入れてもらおうとは誰も思わなかった。
「なによそいつ、ムカつくっ!! 透明になれるなんてズルくない!?」
事情を聞いた女子たちも、
「竹クラスにもイヤな人がおるんやなぁ。ウチはな、昨日寮の廊下ですれ違った竹クラスの女の子に、『桜クラスのネクタイ可愛い〜、うらやましい〜』って褒められてなぁ、いい子たちやなぁって思ったんやけどなぁ」
「それ
嬉しそうに報告する小町に恋が食いつく。「か、考えすぎだよ恋ちゃん」とひばりが笑ってたしなめるも、
「女の八割は平気な顔で嘘つくの!」と恋に絶叫されては、あまりに説得力がありすぎて、小町もひばりも苦笑するしかない。
「嘘が分かるのって、便利そうだけど、辛いときも絶対あるよね。力のオンオフを切り替えたりはできないの?」
気遣わしげに尋ねる幸永に見つめられ、恋がわずかに目を見張った。
「……できない、残念ながら。でも、心が読めるわけじゃないから全然マシ。あたしの力はね、感覚的なんだ。嘘をついている人の言葉は、心臓にチクチク刺さるような、不快な感覚がある。全部嘘じゃなくても、別の目的があったりとか、下心があったりとかする人の言葉には、ちょっとだけ不快な感覚が混じるの。不純物ゼロ、まっさらな言葉を聞いたことは、数えるほどしかないかなぁ」
大して悲劇的な素振りも見せず、あっけらかんとそこまで言い切った恋に対して、そっか、と悲しそうに微笑んで、幸永はそれ以上を言わなかった。彼の性格なら、「辛いね」や「僕にできることがあれば」なんて即座に言いそうなものだったが――彼女の前で、たとえそれが"ほとんど"心からであったとしても、リップサービスじみた無責任な言葉を吐くのは、余計に彼女を傷つけるだけだと思ったのかもしれない。
「でも、このクラスの人たちは、そういう裏のある人があんまりいない感じ。特にひばりと小町、あんたらはマジでピュアホワイト。綺麗すぎて心配になるレベル」
「わっ、わたし全然ピュアじゃないよ! 性格悪いもん……」
「ウチ、どっちかっていうと黒いと思うけどなぁ。恋ちゃんの方が白くてキレイやんかぁ」
「肌の話じゃねぇわ!!」
盛大に突っ込む恋は、なんだか最初の頃と随分キャラが変わっていた。もしかしたら、ひばりと小町の前でだけは素の自分でいられるのかもしれない。
竜秋は一足早く談話室を抜けて、夕飯も食べず日課のトレーニングを倍の強度で行った。わけも分からず負けた悔しさが、想像以上に大きかった。佐倉に負けるのとは違う。相手は同年代なのだ。この敗北は、一ミリも楽しくない。
残された数日を、一刻も無駄にすることなく自己の研鑽にあてた。たった三日で、人が大きく成長することがないことを、竜秋はよく知っている。しかし、三日を
レベルアップできたかは分からない。ただしベストは尽くした。竜秋は、校内大会当日を迎えた――
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