何だか忘れてはいけないどうでもいい話

 水曜日の朝の事であった。

 私が新しいアパートへ越して早くも半年、ゴミ出しに朝の6時に起床してゴミ袋を持ち朝の散歩を兼ねていたら、偶然にも近くの一軒家に住む、中年男性も自らの住処の前のゴミ捨て場にゴミを出している光景を目の当たりにした。

 何でもない光景、しかし私はそのゴミ捨て場に少し思う所があった。

 越してきて半年も経過すると言うのに、そのゴミ捨て場が、一軒家が所有するゴミ捨て場なのか、自治体で指定されたゴミ捨て場なのか、判別が付かない箇所がある。

 更に、私はと言うと実は昨朝のゴミ捨て場がまさかその一軒家のゴミ捨て場とはつゆほどにも考えず、ゴミ捨て場でゴミ出しの日ならそこでもいいかと置いていった憶えもあった。

 偶然目にした何でもない光景──しかし、その中年男性は私の視線に気が付くと苛ついたような感じで、私に嫌味を言い放った。


「何を観ていやがる……何か用でもあるのか?」


 私は黙っていた。

 気になるのは、過去に私はそこにゴミを捨てた事があるから(ゴミ袋には指定のものを使って捨てている)、そこは自治体の指定したゴミ捨て場なのかな……と考えが過ってはいた。

 しかし、中年男性の言う所は、この場所はどうやら一軒家専用のゴミ捨て場らしい。向こうが自然に教えてくれた。多分、私は手にゴミ袋を持っていたからだと思うし、さも捨てそうな顔をしていたのだろう。

 それにしても出会い頭に喧嘩腰とか、余所者には冷たい印象だ。まぁ、私も一軒家の家主の癖に喧嘩腰とかどういう了見だよと考えて、自治体のゴミ捨て場にゴミを捨てていったけど。

 家に帰り、さっさと忘れる事にしたが、夜になり、考える事が多くなると吐き出さないと気が済まなくなった。全く、ベランダ越しのクソ家と言い、ゴミ捨て場の一軒家と言い、持ち家の奴等の馬鹿さ加減に反吐が出る。

 特に私の住む地区は顕著だ。

 真夜中の3時頃には筆をとり執筆しているが、ベランダ越しのクソ家は騒音騒ぎで警察に110番をして通報した、私の住むアパートからたったの2メートルしか離れていないクソ騒音一軒家だ。

 最近になり、多少の一人暮らしの不便を感じる私は訪問ヘルパーさんを頼んで、家の片付けやらを世話して貰っている。

 その方は元リフォームの請け負い社員だった女性で、様々な家のリフォームを手掛けてきたらしい。言葉の端々にそのリフォームの知識が豊富であるのがよく判る。

 嫌味には聞こえない。むしろ今の所は好意的に言葉を捉える事が出来る。

 

 さて、クソ騒音一軒家はゴールデンウィーク明けだが、明かりが一切灯っていないのが気になる。まぁ少しは静かで助かるから(永久に帰ってくるなが本音だけど)別にいいけど。

 でもなぁ。朝の6時には騒がしい通勤の騒音が聞こえるから帰ってきてるね。

 こっちが思い切り寝込んでしまっているなら別に良いんだわ、聞こえないし、聴こえる訳でもないし。

 ムカつくのが「さぁ寝るか」って時に、阿呆みたいな騒音を出すのは勘弁してくれって訳で。

 朝っぱらから机を引きずる音やら、ドアを乱暴に開け締めする音やら、水道が流される音やら聴こえるのは正直、体に悪い。

 何度も怒鳴りに行って殴ってやろうかと思ったけど、殴り付けた所でそれって子供が癇癪起こすのと代わりもないし、馬鹿らしいわ、自分がね。

 だからたまにLINEの友人に隣の家を徹底的にこき下ろしている。「ビフォーアフターもビックリの欠陥住宅じゃね?」って。

 後で元リフォーム会社員のヘルパーさんに聞いてみると確かにオーディオやピアノを弾いている人の家はピアノ防音が当たり前で、そういう趣味を持たない家にとっては騒音対策が取られていない家庭がほとんどだと聞いた。

 だって気にする事も無いし、気にする必要もないからだ、と。

 へぇ……。

 実家の防音がしっかりしていた事に今更な恩恵を感じる。同時に何故、私はこんな地獄耳なのかを少し恨めしく感じた。

 私の耳の良さは皆、驚くレベルらしい。

 そりゃあ、隣の家の机が引きずられる音がするからうざったいとか、乱暴にドアを開け締めしやがってとか、よく聴こえるねぇと驚くだろう。

 しかも、私は奴らの顔とか観たことはないが置いてある自転車と車の台数で大体な家族の人数は推察する。まぁ誤差があるなら女房の体に一人か二人、とか別の家に実は誰かいても、一人か二人くらいじゃない? とテキトーな事を推察する。

 

 それにしても、ゴミ出しの日に、喧嘩腰で睨みつけられるとは思わなかった。

 そんな了見でよく一軒家とか購入出来たよね。

 それともその家も欠陥住宅だったりしてな。

 そうだったら、嗤いに行くわ。

 あ、それをしたら、私、殺されるわ。

 死ぬのは勘弁な、ゴミ捨てに行っただけで死ぬなんて、笑い者でしかないよ。

 もう恐怖しか湧かない事に、真夜中の部屋で戦々恐々としている私であった。

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美琴のぶっちゃけトーク 翔田美琴 @mikoto0079

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