第72話
そのままいつも通りの日曜日を過ごした。
静かでゆったりで穏やかな日曜日の夜を。
でも、明日は。明日からは。
里見がずっと、僕を想ってくれていたことには、救われた。
やっぱりそう。僕を嫌いになったわけじゃなかった。ずっと想ってくれていた。
それが分かって、七星と出会う前までの僕が少し救われた。
もし何かが違ったら、もしかしたらこの家で一緒に暮らしていたのは里見かもしれない。
思って。
………ううん。違う。
否定。
もし何かが違っても、僕と里見は。
逃げているものがある限り、辿り着く結果は同じな気がする。
僕と七星が『成立』しているのは、七星が逃げない人だから。
僕にその大切さを教えてくれる人だから。
真澄も頑張れって、背中を押して、そして背中をそっと支えてくれる人だから。
もう日付が変わる時間で、おやすみってふたりでベッドに入って、でも眠れなくてそんなことを考えていた。
猛烈な愛しさが込み上げる。
七星に。
僕はすぐ隣の七星にすり寄った。腕に顔を埋めた。
まだ半袖を着る季節ではないのに、一緒に寝ると暑いって、七星はもう半袖で、その腕に。熱い、僕よりも逞しい腕に。
「ん?」
まだ寝ていない七星が、布団の中で僕を抱き締めてくれる。
「七星が好き」
「え?」
「って、思ってただろ」
くすって笑いながら、七星は言った。
「どうして分かったの?」
「真澄が俺にすりすりしてくるときってそうだよ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
自信たっぷりに言われたのがちょっと悔しくて、違うよって言いたくて、いつもどういうタイミングでしてるんだろうって思い出そうとした。
けど、思い出せるはずもなく。
「真澄ってほんっと俺のこと大好きだよな」
「七星だってそうじゃん。僕のこと大好きでしょ」
抱き締められる。抱き締められている。
僕は七星がしているお揃いのネックレスのペンダントトップを探して、七星の首の前に持ってきて、触れた。
証。
コイビトの。
だからリング。ペンダントトップは。指輪に見立てて、の。
「ごめん、何かちょっとムラっとした」
「え?」
「真澄が悪いんだぞ、煽るから」
「煽ってないよ⁉︎ちょ、七星っ………」
抵抗も虚しく、僕はあっさりと七星に組み敷かれて、そして………。
七星は僕を穿ちながら、ゆっくりとゆっくりと穿ちながら言った。
全部言って来いって。
全部全部、真澄が思ってること、思ってたこと、飲み込んだ言葉、全部。
そう、言った。
もう何も言うことがなくなるぐらい、全部里見さんに言って来い。全部聞いてもらえ。ド派手な喧嘩して来いって。それぐらいぶつけて来い。
僕は穿たれながらそれを聞いた。
鼻先が触れそうなぐらいすぐ間近の七星を見つめながら聞いた。
全部。
全部。全部。
「今さらとか思わなくていい。蓋をした感情は、蓋をしてるから何年経ってもそのまま残ってる。それを無くすためには、蓋を開けてそのまま感じて、ぶつければいいんだよ」
下肢が結合されている。上肢はぴったりと重なっている。大きな手が僕の頬を包んでいる。唇が重なる。
真澄。
七星。
真澄。
七星。
呼ぶ声が愛撫になる。
七星への気持ちは白。
里見への気持ちは………黒。
そうかって、思った。七星に抱かれながら思った。
蓋をした感情。だから里見への気持ちは。
だからこんなにも。
淀んでいる。
七星。七星、七星。
それ以上は、考えることができなかった。
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