第73話
七星に愛されて満たされて目が覚めた月曜日の朝。
七星は、僕が朝ご飯の準備のために七星より少し早く起きるとすぐに起きる。
スマホのアラームだって音は鳴らさずにバイブにしてあるのに、僕がそっとベッドから抜け出そうとすると目を覚ます。
どんなにそっと抜け出そうとしてもダメ。
目を覚まして、まだ眠いときはそのまま寝るし、仕事の日は基本そのまま一緒に起きる。
まだもう少し寝ていられるのに。
いい加減俺が起きることは諦めろって言われるけど、いつか七星を起こさず起きられる技を身につけることができるんじゃないかって。
そう言ったら修行か?って笑われたけど。
今日もやっぱりダメで、抜け出そうとしていた腕を、七星の熱い手に引っ張られて、ベッドに戻された。
「おはよ」
「おはよう」
そのままキス。
満たされる。満たされる。満たされて、溢れる。七星の愛情に。愛情で。僕が。
「今日、会うだろ?里見さんと」
「………うん」
「何時?」
「10時に、美浜公園」
「分かった」
全部。
言えるだろうか。僕は。全部、里見に。
全部を言うには、今日1日では足りない気がする。
会えていた時間は少なくても、付き合いが長かっただけに。
「何かあったら、連絡して。仕事中は無理だけど、終わったら絶対こっちから連絡するから」
「………うん」
そしていつも通り七星は仕事に行き。
僕は。
10時。
約束通り、美浜公園で里見を探した。
昔は。
一緒に星空観察をしていた頃は、遊具に乗って待っていた。
里見が先に来ることも、僕が先に来ることもあった。
ブランコやジャングルジムに座って待っていることが多かった。
ただ、それができたのはまだ僕たちが子どもで、遊具に乗ることが許される年頃だったから。
さすがに今それはできないだろう。
平日の午前中に。大の大人の男が遊具、なんて。
それでもざっと遊具の方を見渡した。
やっぱり居なかった。
ぐるりと視線を巡らせれば、砂浜が、海が見える位置にあるベンチに里見は座って、ぼんやりとそれを眺めているようだった。
蓋。
里見と会う、会える日が時間が貴重過ぎて、色んなものに僕は蓋をした。
だって、仕方ない。
もっと会いたい。会えなくて寂しい。どうしていつまでも僕たちはこんな関係なの。他に何かないの。
そう言ったところで、僕たちは男同士で。
悲鳴。
耳を劈く悲鳴が。胸に。
僕たちの胸に。
会えるだけでいい。会えなくなるよりはいい。だから。
そうやって蓋をして。見ないように。ないもののようにして。
あるのに。あったのに。ずっとずっとずっとそこに。ここに。僕に。
「………里見」
僕の足音に気づかないのか、気づいていながらわざとなのか。
僕に背を向けたままの里見を、僕は呼んだ。
振り向いた里見の顔は、頬が痩け、隈が酷くて、顔色が悪かった。
カッコ良かった里見。
成績が良くて、運動神経が良くて、スタイルも良くて。
その里見は。
どこにも居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます