第67話

 美夜さん一家と一緒に、七星と豆太が七星の実家に帰った。

 

 

 真澄くんは行かないの?って理奈ちゃんに聞かれて、ごめんね、今日は行けないんだって謝った。

 

 

 僕の後ろに立つ里見を不思議そうに見ていた。

 

 

 また今度行くねって約束した。

 

 

 

 

 

 

 里見とふたり。残された美浜公園。

 

 

 

 

 

 夕方のそこは、まだ遊んでいる家族連れ、デートをするカップル、犬の散歩をしている人なんかがあちこちに居た。

 

 

 

 

 

 気まずくて、ぎこちなくて、黙る。

 

 

 

 

 

 時間を、機会をもらったけど、どうしたら。何をしたら。

 

 

 

 

 

「………何が、したい?」

 

 

 

 

 

 思いつかないから聞いた。里見に。

 

 

 僕よりも、里見の方が色々とあるのかもしれないと思って。

 

 

 

 

 

 里見は僕を見た。泣きそうな顔で、僕を。

 

 

 

 

 

 その顔の意味は、一体。

 

 

 

 

 

 目が合って。そらされる。

 

 

 

 

 

 里見は一度うつむいてから、空を見上げた。

 

 

 

 

 

「星」

「………」

「金曜日まで、星空観察がしたい。ここで、夏目と」

 

 

 

 

 

 ずっと。

 

 

 小学四年生のときに宿題から始まった星空観察。宿題が終わっても、ずっとふたりでしていた星空観察。

 

 

 もう見返すことはないけれど、まだ残っている。

 

 

 ふたりで半分ずつお金を出し合って紙を買って、書いていた観察記録が。

 

 

 里見が居なくなってからは、ずっとひとりで書いていたそれが。

 

 

 

 

 

「じゃあ、今から紙、買いに行こう」

「いいの?」

「いいよ。そのための時間でしょ?いつも買いに行ってた100均、まだあるよ。行こう」

「まだ、あるんだ」

「うん、ある。………お金、半分出して」

 

 

 

 

 

 当時使っていたものがそのままあるとは思わないし、似たようなものを全部買ったところで数百円。出してもらうほどの値段ではない。

 

 

 でも、あの頃のように。同じように。

 

 

 

 

 

「もちろん、出すよ」

「車、あっちにとめてあるから。行こう」

 

 

 

 

 

 笑う里見。

 

 

 あの頃を思い出して、懐かしそうに。

 

 

 

 

 

 変わらない。

 

 

 笑っても、どこか寂しそうな、何かを諦めているような笑い方。

 

 

 

 

 

 初めてキスをしたときから里見は、ううん、里見だけじゃなく僕も。笑っていても、心から笑えなくなっていた。

 

 

 楽しくても、面白くても。

 

 

 

 

 

 僕が今、ときに涙が出るほどに、お腹が痛くなるほどに笑っているのは、七星が居るから。

 

 

 七星が居て、豆太が居て、七星の家族が。

 

 

 

 

 

 里見。

 

 

 お前は僕と別れてから、結婚してから、どんな毎日を送ってきたの。

 

 

 僕にとっての七星のような誰かは、本当に居なかったの。

 

 

 

 

 

「夏目」

「ん?」

「………ありがとう」

 

 

 

 

 

 行こうとした背中を呼び止められて振り向いたら里見が。

 

 

 里見がまた、頭を下げていた。

 

 

 

 

 

 その姿に何故か。

 

 

 

 

 

 ………苛立った。

 

 

 

 

 

 時間を機会をもらったけど、僕は里見に優しくできないんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 これは、何の苛立ち?何、への。

 

 

 

 

 

「里見のためじゃない」

「………」

「里見とこうすることを選んだのは、僕自身のためで、七星のためだ」

「………分かってる。でも、ありがとう」

 

 

 

 

 

 里見は、泣いてるみたいに、笑った。

 

 

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