第57話

 泣いて泣いて泣いて。

 

 

 

 

 

 ごめんねって謝った。

 

 

 七星は離れようとする僕を離さないで、そのまま好きだよって言ってくれた。

 

 

 俺は真澄が好きだよ。そうやって泣く真澄も好きだよって。

 

 

 真澄が俺を好きでいてくれてることもちゃんと知ってる。疑ったりしない。真澄を見ていれば分かる。だから泣いていい。

 

 

 

 

 

 うん。ありがとう。

 

 

 

 

 

 満たされる。ずっとずっと欠けていたもの。欲しかったもの。飢えていたもの。

 

 

 里見とは絶対にあり得なかったものが。七星にはある。七星とはある。

 

 

 

 

 

 だからなのかな。

 

 

 早く一緒に暮らしたい。離れている方が不自然にさえ思う。

 

 

 

 

 

「七星」

「ん?」

「今日は………して」

「………うん」

 

 

 

 

 

 里見を思い出すと、堪らなく抱かれたくなる。七星に。

 

 

 七星が愛しくて。愛しくて堪らなくて。

 

 

 

 

 

「食える?ご飯」

「うん。食べる」

 

 

 

 

 

 ごめんねってもう一度言ったら、七星の唇が額に乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里見を思い出した日の行為は、七星は、いつもじれったいぐらい優しいけど、もっともっと優しくなる。

 

 

 ものすごく時間をかけて、ものすごく愛してくれる。

 

 

 

 

 

 恐れが、ないのか。

 

 

 

 

 

 七星の下で身体を捩りながら、どうしても抑えきれない声を漏らしながら、ふと思った。

 

 

 

 

 

 恐れがない。好意しかない。好き、だけ。

 

 

 

 

 

 七星にこんなにも穏やかな気持ちになれるのは、七星にあるのがそれだけだから。

 

 

 それに僕は安心するんだ。

 

 

 

 

 

 またバレたら。また引き離されたら。また非難されたら。また否定されたら。

 

 

 またバレる。また引き離される。また非難される。また否定される。

 

 

 

 

 

 里見は、それだったから。

 

 

 

 

 

「真澄」

「………ん」

 

 

 

 

 

 僕が違うことを考えていたのが分かったのか、七星が僕を呼んだ。

 

 

 僕へのリズムが緩くなる。

 

 

 閉じていた目を開ければ、笑みを浮かべる七星。

 

 

 七星を見ると、七星が好きって。溢れる。

 

 

 

 

 

「真澄ってまじ俺のこと好きだよな」

「………うん」

 

 

 

 

 

 七星を見る視線だけで分かってくれる。信じてくれる。

 

 

 だから余計に好きになる。

 

 

 

 

 

「七星も、でしょ?」

 

 

 

 

 

 七星も。

 

 

 傷ついた、傷つけた過去はある。忘れられない後悔の恋愛。

 

 

 でも、七星は。今。

 

 

 七星を見れば。七星の、僕を見る目を見れば分かる。伝わってくる。

 

 

 

 

 

「七星も、僕が好き」

「………うん。よく分かってるじゃん」

 

 

 

 

 

 七星の首からぶら下がる、揺れる、僕と同じネックレス。

 

 

 僕はそれに触れた。

 

 

 

 

 

 証。コイビトの。

 

 

 

 

 

「すげぇキレイ」

 

 

 

 

 

 七星が僕に、キスをした。

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