第52話
クリスマスがもう目前で、七星の休みももう年明けまでないからと、やっと決まったクリスマスプレゼントは、七星の仕事の邪魔にならないようにとネックレスにした。
色々とどれがいいかと調べたついでに、お店に行く時間がないからと、ネットで買うことになった。
同じネックレス。でもお互いのネックレスをお互いで買った。せっかくだからって、少し奮発して有名ブランドのものを。
時期が時期だけに、クリスマス当日には間に合わなかった。でも、それでも良かった。
クリスマス当日は、七星と一緒に何にしようか考えたメニューをたっぷり時間をかけて作った。
いつもの時間に外に出て、本当はダメなのに、郵便物がなくても寄ってくれる七星に、今からケーキを取りに行ってくるねって報告をした。
「すげぇ楽しみ」
「うん。僕も」
それだけの会話。
ほんの数分。
門の上で、手を握る。
それだけ。
「気をつけてね」
「ん」
坂道をくだる七星が見えなくなるまで見送った。
幸せ、以外に、何て言っていいのか分からない。それしかない。今にあてはまる言葉が。
クリスマスにコイビトと。七星と居る。それだけだけど。それがすごく。
夜、郵便局を出るときに今から出るって連絡をもらった。
部屋も料理も準備万端で、僕は寒いのに玄関で待った。
うちの合鍵を、今日渡そうってポケットに用意していた。
静かなこの辺りに聞こえる、近づいてくる原付の音。
止まって、門を開ける音。
少しの間。
そして。
玄関の向こう側に感じた人の気配に、インターホンより先に、ドアを開けた。
「うおっ」
「おかえり」
「びびった。………ただいま」
今日は静かなクリスマスを流した。
電気の明るさをいつもより落として、ツリーの電飾のスイッチをオンにした。
作った料理を一緒にお皿によそって運んだ。
ふたりで選んだシャンパンをあけて、メリークリスマスってグラスを合わせた。
美味しいねって食べて、いかにもなクリスマスケーキも美味しいねって、食べた。食べさせあった。
食べた後、並んでソファーに座ってまた少し飲んだ。
今日ぐらいおしゃれなのにしようよって、ワインを。
ふたりだけ。
クリスマスっていう特別な夜に、ふたりだけ。
僕は七星の肩に頭を乗せて、七星はそんな僕の肩を抱いてくれていた。
「そうだ、これ」
渡すタイミングを逃しに逃して、まだポケットに入れたままになっていた家の鍵。
ゴソゴソと出して、七星にはいって渡した。
キーケースは僕とお揃い。
同じものを僕も新調した。
「うちの鍵。七星にあげる」
「………」
七星はびっくりしたみたいに目を大きくして、大きな手に乗せたキーケースと鍵をじっと見ていた。
そして、ぎゅって。握って。
僕もぎゅって、抱き締められた。
「………こんなのもらったら、もっと入り浸りになっちまうだろ」
「それ狙いだからいいよ」
「………すげぇ嬉しい」
「キーケースは僕も一緒だからね」
「まじ?」
「まじ」
「………ありがと。大事にする。まじ大事にする」
大事に、は、キーケースを。
でも、大事に、は。
七星。
僕を、だね。
僕は、僕よりも大きな七星にすっぽり抱き締められて。
そんな七星の背中に腕を絡めて。
今日何度感じたか分からない幸せを、目を閉じてまた、感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます