第53話

 七星の年末年始連続勤務の9日目。

 

 

 ネット注文したネックレスの配送メールが来た。

 

 

 届け先は七星もうちにしたから、2個とも明日うちに来る。

 

 

 

 

 

 つけたいな。七星に。

 

 

 つけてもらいたいな。七星に。

 

 

 

 

 

 どうする?ってラインをしたら、明日行くよって返事。

 

 

 

 

 

 七星の体調が心配だった。

 

 

 

 

 

 長くサッカーをやっていたから、体力はある。まだ20代だから多少の無理もきく。

 

 

 でも、寒いこの時期にバイクでの配達。雨の日もあった。年始に向けて忙しい上に忙しいから休みがない。そして七星は食生活がひどい。

 

 

 

 

 

 明日来てもらったら………。

 

 

 

 

 

 ご飯食べて行ってねって、とりあえずそれだけ送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 届いたふたつの箱をリビングのテーブルに置いて、今から行くってラインが来てからの時間を見て、そろそろかなって玄関まで迎えに行った。

 

 

 クリスマスに鍵を渡したから入って来れるのに、少しでも早くおかえりって、お疲れさまって言いたくて。

 

 

 

 

 

 ちょうど鍵を開けているところだった。

 

 

 ガチャガチャって音。そして開いて。

 

 

 

 

 

「おかえり。お疲れさま」

「………ただいま」

 

 

 

 

 

 七星の顔に、疲れが出始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お腹すいたけど、先にネックレスが見たいって、七星は七星が注文者になっている箱を開けた。

 

 

 僕も開ける。

 

 

 開けて、中身を出して。

 

 

 

 

 

 七星が、つけてくれた。

 

 

 

 

 

 七星の手は大きい。そしてそんなに器用な方ではない。

 

 

 だからなかなかつけられなくて、笑った。

 

 

 少しの格闘の後、やっとついた。

 

 

 

 

 

 小さいのに重い、重厚感のあるペンダントトップを、僕はそっと握った。

 

 

 

 

 

「似合う」

 

 

 

 

 

 七星が小さく言って、キス。

 

 

 

 

 

 僕も七星につけた。

 

 

 結構ずっしり感あるなって、ペンダントトップを握った。

 

 

 僕も七星に、キスをした。

 

 

 

 

 

 お互いへの、初めての、クリスマスは過ぎたけど、クリスマスプレゼント。

 

 

 お揃いのネックレス。

 

 

 

 

 

 ………コイビトの、証。

 

 

 

 

 

「………今日は泊まってって」

 

 

 

 

 

 七星は何て答えるだろう。

 

 

 ご飯食べたら帰るって言う?

 

 

 

 

 

 身体を離して七星を見上げた。

 

 

 

 

 

「………今日はそのつもりで来た」

「………うん」

 

 

 

 

 

 また僕、変な顔をしてたのかな。

 

 

 

 

 

 七星は眉毛を下げて、困ったように笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ねぇ」

「ん?」

「今日から次の休みまでうちに居ない?クマできてるよ?」

 

 

 

 

 

 ご飯を食べて、食べ終わって、居間でコーヒーを飲んでいるときに、僕は七星に切り出した。

 

 

 

 

 

 今日は泊まっていってって、昨日の電話のときには言おうと思っていた。

 

 

 でも、今日だけじゃなくて。

 

 

 

 

 

 七星を見ていれば見ているほどに、七星が心配になってきて。

 

 

 

 

 

 だって、目の下のクマだけじゃない。少し痩せた気がする。だから心配で。

 

 

 

 

 

「ああ、これな。俺、疲れすぎると眠れなくなるんだ」

「………うちに来ても眠れないのは変わらないかもしれないけど………。七星、自分のとこだと朝食べないし、お昼もちゃんと食べてないでしょ?夜も今は毎日コンビニ弁当じゃない?うちに来てくれれば僕作るし、家事だって………。全部僕のついでにできることだよ?お風呂だってそう。シャワーだけじゃあったまれないし疲れも取れない」

「………真澄」

「連続勤務が終わって、休みが終わるまででいい。そのままなし崩し的に一緒に住もうとか思ってるんじゃないよ。忙しくて、無理しすぎて七星が倒れちゃうんじゃないかって」

「それはないよ。大丈夫」

「………心配なんだよ」

 

 

 

 

 

 次の休みまでまだあと5日もある。年末年始は臨時の配達要員が居るからと言っても、忙しいのにはかわりない。

 

 

 日毎に疲れた顔になっていく七星を、見ているだけ、は、僕は。

 

 

 

 

 

 聞こえる右側に座る七星を見た。見つめた。

 

 

 目の下のクマに触れた。

 

 

 少し痩せた気がする頬も。

 

 

 

 

 

 仕事だから、仕方ない。やらなくちゃいけない。

 

 

 なら、せめて。

 

 

 僕ができる何かをやりたい。七星に。

 

 

 

 

 

「お願い。そうして。そうさせて」

「………いいの?真澄だって仕事あるだろ?俺邪魔にならない?」

「ならないよ。全然。昼間にやればいいだけだし、七星の心配してる方が効率悪い」

 

 

 

 

 

 七星が僕に凭れかかった。

 

 

 しばらく考えるみたいに黙っていた。そして。

 

 

 

 

 

「本当に、いいの?」

「いいよ。っていうか、『僕のために』そうして欲しい」

「………分かった。じゃあ、お願いします」

「………うん」

 

 

 

 

 

 何かを。

 

 

 七星のために僕ができる何かを。

 

 

 

 

 

 僕が里見にできることは、できたことは、本当は嫌だったけど、黙って待つこと、だけだったから。

 

 

 

 

 

「俺ってすげぇ真澄に愛されてるんだな」

「そうだよ。知らなかったの?」

「………いや、知ってた」

「でしょ?」

「………やばい」

「ん?」

「疲れすぎてるのと嬉しいのとで、すげぇやりたい」

「え?」

 

 

 

 

 

 七星が急に僕から身体を起こして真面目な顔でそんなことを言うから、僕は笑った。

 

 

 七星も笑う。照れ臭そうに。

 

 

 

 

 

「………いいよ。じゃあお風呂入ろう」

 

 

 

 

 

 抱き寄せられた先のネックレス。

 

 

 僕は、七星のペンダントトップに触れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る