第8章第038話 再度、渡航準備です
第8章第038話 再度、渡航準備です
・Side:ツキシマ・レイコ
はい。帝国の魔女、ラクーン改めロトリーの呼称での黒の女神、彼女に会いに東の大陸まで行くことに決まりました。いえ、決めました。
まぁ、ネイルコードを出航したときには、東の大陸に行く可能性は半々くらいかな?とは思っていました。
障害があるとすれば、まずは渡航手段です。行くとなったらセイホウ王国かロトリーの船でとか考えていましたしね。
でも今回は、ネイルコードの船団を借りれることになりました。…最初から許可を知らせてくれなかったのは、私が行ったっきりになる可能性を少しでも減らしたかったからでしょうかね?
ロトリー側で渡航を拒絶されてもダメです。過去に"人"の帝国があったとしても、今は既に彼らの国土です。入国を拒絶されたのなら、無理を押すことは出来ません。
ネタリア外相としても、交流する可能性がある国といきなり対立は歓迎しないでしょう。ただ、アライさんがきちんと保護されるかどうか分からないところに放り出すなんてことも到底受け入れられません。最悪、このまま連れ戻すことも考えてました。この辺は、アライさんの親戚のカララクルさんが信用できそうなのですが。
租借地の最上位に付いてる彼女の渡航許可が出たということで、この辺のハードルもとりあえずクリアーです。
カララクルさん曰く。件の黒の女神さん、寝ている時間が長いそうで。定期的に秋頃に起き、冬至の頃まで起きているそうです。地球で言えば、九月に目覚めて十二月に寝る感じですか。
赤井さんも三千万年ずっと起きていたわけでは無いと行ってましたね。彼の場合、意図的に意識の方は落として自動処理で過ごしていた期間が長いとか言っていました。メンターにも三千万年はやはり長いとの事ですね。黒の女神さんも似たような感じでしょうか。
ネイルコード船団の蒸気船なら、ロトリーやセイホウ王国の帆船の半分くらいの時間で東の大陸に渡れます。目覚めるまでに適度な準備期間はありそうですね。暫定的に、半月後に出航となりました。
この間。アライさんは、カララクルさんのところで過ごすことになりました。
私たちは、セイホウ王国の首都テルローグの方に一旦戻って、セイホウ王国への報告と、再度渡航準備をすることにしました。セイホウ王国側の同乗者の選定やら、向こうの租借地への補給や人員交代も強力する必要があります。
途中の港で待機していた船団と合流して、セイホウ王国首都テルローグに戻ります。
寄港して次の日早々、御館での打ち合わせです。
セイホウ王国側は、ウェルタパリア陛下とノゲラス宰相、カラサーム大使ほか、外務の職員数名。
カラサーム大使が、ネールソビン島での顛末を説明します。
当然、最初の襲撃についても説明されて、ウェルタパリア陛下が眉をひそめてます。
「まぁ無事でなによりでした。誤解も解けて良かったのですが…」
「私としては、ロトリーから攻撃を受けたことを軽くは見たくないのですが…レイコ殿は不問でよろしいので?」
ウェルタパリア陛下とノゲラス宰相が、今回の"事件"について懸念を表明します。
まぁ狙撃されたのは事実ですから。本来なら何かしら国家間の取引とかすべきことなのかも知れませんが。
「挑発されたとは言え、私が向こうの護衛を投げ飛ばした方が先でしたし。悪意では無く純粋にアライさんを心配しての行動でしたからね。事を大きくするとアライさんへの非難に繋がりそうなので、ほどほどでお願いします」
ノゲラス宰相は、ちょっと不満のようですね。
「ロトリーが火筒なる武器を持っているのはセイホウ王国でも把握していましたが。レイコ殿、その火筒については原理はご存じなのですね?」
セイホウ王国には、根本の技術である火薬の製法はバレていないようです。鉄の筒の本体だけではなんの役にも立たないですからね。
火縄銃。小銃に拳銃。大砲やら地雷やら。爆弾ミサイル。まぁ、火薬にも色々進歩の歴史はありますが、近代戦争の根幹です。
「今ネイルコードに帰っても、少数生産ならすぐに作れると思います。火薬…あの武器の原動力部分ですが、その素材を大量に確保するには、いろいろ調べる必要がありますけど」
硝石は、西の大陸の西岸近く、乾燥した土地で採れるそうです。硫黄は火山で採れます。炭素はまぁ石炭でも。ユルガルムの石炭は隕石由来っぽいので、石炭由来の硫黄は少ないのですが。
鉄の加工技術も、ユルガルムの工房は世界レベルを一つ二つ抜きん出ていますからね。火筒程度なら簡単。これで雷酸水銀あたりが作れるようになったら、単発小銃やリボルバーくらいならすぐ作れるでしょう。
「セイホウ王国としては、やはりあの武器は心配ですか?」
「今は比較的平穏ですけども。レイコ殿達も肌で感じたと思いますが、ロトリーは"人"を根本的なところでは信用していません。ならばこちらとしても警戒を緩めることは出来ないのです。とは言え、あの武器に対しては、せいぜい盾の改良くらいしか出来ることは無いのですが」
まぁ隣の国が軍備を持っているのに、自国の軍備を蔑ろにしろなんて言えませんよね。
…アライさんを通じてなんとか友好な関係を築きたいものですが。
「あくまで想定の話ですが。もし今ロトリー国と戦闘になったとして、ネイルコードの船団で対処出来ますか?」
ノゲラス宰相の質問に船団のオレク司令が回答します。
「通常の歩兵戦なら、人数通りの戦力として行動できると思いますが。火筒についてはレイコ殿からだいたいの話は伺っておりますが、あれを百本並べられたらどうにも対抗は出来ないでしょうね。ただ、船体を貫いたり機関を破壊するところまでは行かないと思いますので。逃げ出すだけなら問題ないと思います」
あそこで見たサイズの火筒しかない…と思い込むのは危険ですが。発砲時の反動とか考えると、そうそうでかく出来るものでもありませんし。あの火筒の材質を考えると、大砲はまだ難しいかな?とも
船団の方では、戻った早々に甲板より上の設備の防御のための木材の調達に走ってましたしね。セイホウ王国で鉄板を調達するのは難しいので、木材で妥協です。
さすがに全鉄鋼製の船ともなると、ネイルコードの鉄生産能力ではまだ難しいですね。今は鉄道最優先です。
「ふむ…では、今できる対応としてはそんなところですかな…」
ちょっと残念そうなノゲラス宰相ですけど。
…やはりここで釘刺しておいた方がいいかな?
「…ノゲラス宰相。アライさんの顛末についてロトリーの言葉で書かれた報告書、私も見せてもらったのですが。確かに嘘は書いていませんでしたけど。アライさんの扱いについて、ロトリー達が"人"に敵愾心を持つような書き方、わざとしていませんでした?」
ウェルタパリア陛下がぎょっとしてノゲラス宰相を見ます。
いや、ネイルコード組もビックリしていますね。
互いの遭難者についての情報は、生死変わらず報告の義務があります。ロトリー語の文章が拙かっただけ…という可能性もありますし、ノゲラス宰相が直接書いたものではないでしょうが。印章は付いてましたしね。私がロトリーの言葉は読めないと思っていたかな?
「ノゲラス宰相は、もしかしてネールソビン島でネイルコードとロトリー国が対立することを期待していませんでした?」
新型武器を準備し、"人"に好意を持っているわけでは無いロトリーの国。国交はあってもそりゃ警戒するでしょう。
ノゲラスさんは、この対立構造にネイルコードを加えようとしてした…と私は見ています。
「…アライ殿だけを見ていれば愛らしい種族だと思うのかも知れませんが、彼らは見た目で侮ることは出来ません。兵は精強ですし、大洋を渡る船も建造できますし、火筒のような武器も作れます」
…マーリアちゃんも、トクスラーさんの体躯見てビックリしてましたたし。アライさんが遭難したと言うことは、要は渡海できる船を作れると言うことでもありますしね。今回のネールソビン島への訪問では、ロトリーの渡海用の船は見なかったですが。
「もしもの話ではありますが。彼らに対抗するために、ネイルコードの助力を…通商条約と共に軍事同盟の締結、技術供与をお願いしたい…というのが本音ですな。そのためには、ロトリーを知っていただく必要がある…とまでは考えました」
「…私が対処しなかったら、人死に出ていたかもしれないんですよ。ノゲラス宰相」
「レイコ殿と、マーリア様と銀狼がおられるのなら、せいぜい敵愾心を見せる程度で、そこまで大事にはならないと踏んでいたのです。まさかいきなり火筒で撃ってくるとは… これについては誠に申し訳なく謝罪いたします。ただ、彼らが"人"をどう思っているかはご理解していただけたのではと思います」
ノゲラスさんは、ラクーン達の天敵であるハーティーの存在までは、把握していなかったようですね。
状況として。ラクーンが人を嫌っているというより、人の方からラクーン達を挑発していないか?という感じもしますが。うーん、仕方ないで済ませたくは無いですが。ちと歯がゆいですね。
「もし。ロトリー国がセイホウ王国や西の大陸に侵攻しようとしたのなら、私は阻止する方に手を貸すと思います。ただもし、彼らを徴発したのが"人"側だとしたら。侵攻を止めはしますが、それを行った人や国にも、相応の責任は取ってもらいますよ」
…まぁ国に対して制裁してしも、苦しむのは民ですから。責任者のあぶり出しと処分ということになるとは思いますけど。
「それに、今も東の大陸に居る帝国の魔女…黒の女神がどう動くのか。彼女が完全にロトリー側に加担したとしたらどうなるのか。最悪戦闘となった場合、私で対処出来るのか。その辺は全くの未知数です。さすがにレイコバスターの応酬とはならないでしょうけど」
ウェルタパリア陛下とノゲラス宰相の表情が引きつりました。聖女としても行動したことのある黒の女神が、"人"の敵に回るなんてことは無いとでも思っていましたか?
レイコバスターの応酬と聞いて、ネタリア外相もビックリしています。あれの威力はよく知っていますからね。私が街にあれを放つことは無いとは思ってくれているでしょうが、向こうがそうだとは限りません。東の帝国がどうして滅んだのかはまだ不明ですが。原因が彼女なら、当然警戒すべき事です。
「…巻き込んだのですから。最悪くらいは想定しておいてくださいね」
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