第8章第036話 アライさんの決断
第8章第036話 アライさんの決断
・Side:ツキシマ・レイコ
とりあえず。アライさんの現在の処遇と、セレブロさんにはハーティーとやらのような危険は無いということに、ラクーン達は納得してくれたようです。
私たちは、迎賓館というか通商館というか事務所というか、そういう建物に招かれています。
『キュルックル。あなたのいたネイルコードでは、レイコ殿のような黒髪黒目の"人"はよくいる物なのですが。この船に乗ってきた"人"には、他に見当たらないのですが』
『色の濃い"人"は多少居ましたけど。レイコさんほど真っ黒なのは見かけませんでした』
なんか私の容姿について、アライさんとカララクルさんで話していますね。
カララクルさんが、人の言葉で説明してくれます。
「我々ロトリーは見ての通り、毛の模様で人相を区別することか多いてす。コクウェンらて分ったと思いますか、濡れたたけて顔形が変わってしまいますからね。たたその逆に、我々は人の顔の区別が難しいのてす。何度も来られているセイホウ王国の役人とかなら、辛うして分りますか」
毛皮は体格や顔形を隠してしまいますし、濡れたロトリー達は一回り細くなっていましたからね。識別には模様が必須なのでしょう。実際ここにはいろんな模様のラクーン達が居て、私たちにもアライさんは容易に区別できます。
「たからレイコ殿の髪の毛の色は、一番区別しやすいてすね。やはりめったに無い色なのてしょう」
まぁネイルコードでも、ゴルゲッドより髪の毛の色で"赤竜神の巫女だ!"ってなってましたしね。目立つのは確かなのです。
「さきほと、海面を爆発させていましたけと。あれはレイコ殿の能力てすよね? 火筒のような武器てはなく」
「脅しに使って申し訳なかったですけど。はい、私の能力です」
海面にはなった最小出力のレイコバスター。場を落ち着かせるには仕方なかった…と言ってくれるカララクルさんです。
「あれか出来ると言うことは… レイコ殿は、黒の女神…あなた方の呼び方て東の帝国の魔女のこ血縁なのてしょうか?」
これは逆に言えば、ラクーンは東の帝国の魔女にもレイコバスターを使えることを知っていると言うことです。まぁ、昔正教国に現われた聖女も同一人物または関係者で、レイコバスターが使えたのかもとは推測していましたが。
なんかこの話に、マーリアちゃんとネタリア外相も注視していますね。
「わたしがネイルコードに来たのは五年ほど前で。行ったことがあるのは二つ隣の国に出かけたくらいです。それ以前は…寝ていたというより存在していなかったようなものなので、他の大陸にも知り合いはいないのですが。話を聞くに、その東の帝国の魔女さんが私の同類の可能性は高いと思います」
まだメンターまで至っておらず、人の世界に送り込まれた存在ということで。赤井さんよりは私に近い存在、役割なんじゃないかな?とは思いますが。
「カララクルさんは、その黒い女神という方に会ったことはあるんですか?」
「普段は眠りにつかれている方なので。会ったことのあるロトリーは多くはないのてすが。私も拝謁の誉れに浴したことはあります。会話することはなく、最後尾てお見かけした程度で。女性たろうということと、御髪とまなこが黒い以外、レイコ殿との共通点はないのてすか… 身長はそちらのマーリア様てしたか、そちらのかたより頭半分ほど高い感してすか。お歳については、そこまて"人"の容姿から取れることは、わたしには出来ないのて…」
うーん。髪と目の色が黒の成人女性の容姿…という事以外、ラクーン達には判断が付かないってことですか。日本人顔かどうかくらいは知りたかったところですが。
まぁ、私たちから見ても、ラクーン達の性別年齢をその姿から正確に読み取ることは難しいので、この辺はお互い様ですが。
私もその黒の女神さんに会ってみたいところですが。今はアライさん優先です。
アライさんを東の大陸に返すにしても、その処遇の保証が欲しいところ。どうしたもんだと考えてますと。
「マーリア様っ、レイコ殿っ。セレブロさんがですね…」
セレブロさんは建物の外で待ってもらっています。彼女だけでは心配…絡んでくるラクーン達の方がですが。船員さんから見張りを数人立ててもらっていますが。
「ラクーンの子供達がやってきて…」
話を聞くに。ラクーンの子供達がやってきて、セレブロさん相手に粋がっている…らしいとのこと。船員さん達には、ラクーン達の言葉は分からないですからね。
まぁ人の子供なら追っ払うところですが、ラクーン相手ではどうしたものかということで、知らせに来てくれたようです。
マーリアちゃんと表に出たところ。子供達の代表らしいラクーンの子が、セレブロさんに登っているところでした。ラクーンの表情ですが、ドヤっているのは分かります。他の子達は、ビビった感じで遠巻きにしていますね。
寝そべっているセレブロさんは意に介さずと言う感じで、やってきたマーリアちゃんに目配せしただけです。
「ああ… セレブロが、そちらでなんとかしてくれだって」
マーリアちゃんが代弁してくれます。子供に手は出さないということで、とりあえずじっとしていることにしたようです。 まぁ子供が多少お痛したところで、セレブロさんにはダメージは入らないですしね。なんか、ハーネス掴みながらお馬さんごっこモードになってます。
とりあえず降ろそうかなと思っていたところ。
『コークル~っ! 貴様~っ!』
どたどたとやってきたのは、桟橋で私が海に放り投げたでかいラクーンです。
セレブロさんに登っているラクーンの子をばっと取り上げ、私たちの前で土下座します。 ラクーンにも土下座があるんですね。コークル君とやらの頭も押さえています。…が、土下座の先はセレブロさんです。
『ネイルコードのお客人、息子が失礼したっ! 私めが責任を取りますので、何卒子供達はご容赦を!』
このクマみたいなラクーンは、トクスラーさんと言うそうです。最初にあったときには険悪でしたが、誤解は払拭されているようで。なんかものすごく低姿勢になっています。
本来なら、他国の要人に手を出そうとしたということで、国際問題ものですけど。
桟橋での件ですが。これで腰に下げていた剣で斬りかかってきたのなら、容赦しなかったところですが。裏拳…彼らは、虎や熊ほどではないにしろそこそこ爪がありますからね。普通の人にひっかくつもりでやったら大怪我物ですが。あの裏拳には、とりあえず私を退かす程度で済ます…という意思は感じられました。
アライさんの件で憤慨していたのもありますし、司令のコクウェンさんの命令下でもありましたからね。今回は処分は軽くで済ますことをお願いしています。訓告と減俸あたりになったそうですが。
それでも。父親が叱責受けたというのが気に入らなかったのがこの子供。人で言えば六歳くらいかな? パパの敵を討つぞとばかりにやってきたようです。
『落ち着いてください。子供は遊んでいるだけですよ』
『いや…しかし』
『ハーティーがどんな生き物なのか知らないですけど、セレブロさんも本気になったら強いですよ。それがおとなしく背中に乗せてあげていたのですから、察してください』
『は…はぁ…』
遊んでいただけ…というのは、納得してくれたようです。
最初は叩いたり毛を引っ張ったりしてたそうですが。背中に乗ったところを立ち上がり。あとはもうキャッキャッってなもんです。
一緒について来た子供達…この子の子分かな? セレブロさんが安全だと理解したようで、いつの間にやらまとめてセレブロさんに絡まりに行ってます。
アライさんとレッドさんも混ざりますか?
さて。カララクルさんとの話を中座してしまいましたが。
『私としては、キュルックルがネイルコードに戻りたいのなら異論は無いけど。ご両親も巣兄弟も健在よ。次にいつ戻れるか分らない以上、一度会っておくべきだと思うわ』
身内の話をされて、考え込むアライさんです。
『カララクルさん。このままキュルックルさんを東の大陸まで戻したとして、再度セイホウ王国まで来られると思います?』
『外交部門の許可は必要になるでしょうけどね。ただ、この子はそれなりに血筋は良い娘ですから、まぁいろいろ引き留められるでしょう。私としては、本土で身を固めるのも十分有りだと思ってます』
確かに。アライさんを連れて帰ることに固持することが、アライさんに良いこととは限りません。家族が居るのなら、尚更です。
「アライさんはどうしたい? ネイルコードに帰ってきてもらいたいとは思っているけど。ラクーン一人で"人"の社会で暮らし続けるってのも酷だと思うし。それに今帰っても、今後二度と会えないってこともないと思うけど。私も会えるように努力するわよ」
「…レイコさん…いろいろ考えたんてすけと。ファルリーと亭ての生活は楽しいものてしたし。ハルカちゃん達とも名残惜しいてす。それても、遭難したまま身内に何の説明もせすに別れるのは不義理たと思うのてす。私は一度帰りたいとおもいます。こめんなさい」
「アライさん…」
アライさんの決断に、マーリアちゃんが抱きしめます。
エイゼル港を出航してからも、事ある毎にどうしようかという話はしてきたのですが。他のラクーン達と会えたことで、心が決まったようです。
「謝る事なんて無いわ。当然の決断よ。それに、アライさんが東の大陸に留まることにしたとしても、絶対航路を拓いて互いに会いに来られるようにするわ!」
ネイルコード国、セイホウ王国、ロトリー国の定期航路。造船と交易のために投資を回しますよ。会社作りますよ。
いったんお別れを決意したところで、アライさんが渡航するためのロトリー国からの定期船待ちということになりました。
ここでカララクルさんから提案がされます。
「レイコ殿も一緒にロトリーに来て、黒の女神に会ってみませんか?」
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