第7章第015話 ユルガルムに着きました
第7章第015話 ユルガルムに着きました
・Side:ツキシマ・レイコ
テオーガルでの歓待もそこそこに。今回の旅程は野宿は無しで街と村を最速でたどり、予定通りユルガルム領に到着しました。
ユルガルムクレーターの中に広がる街の中を馬車で通りがかると。なんか妙な物を被った子供達が棒きれでチャンバラをしているのを見かけました。
「ああ、あれは蟻の殻じゃな」
なんだろう?と目を凝らしていると、伯爵が教えてくれました。
「丁度良いサイズの蟻の頭から切りだすと、それだけで簡単な兜になるんだそうな。子供の玩具にはちょうどいいんじゃろう、ユルガルムでは流行っているようじゃな」
「…その蟻の兜、ターナおばさまから僕宛に送られてきたんですよ。もう一四歳になるというのに…」
クラウヤート様が苦笑しています。前回会ったときは子供だったでしょ…という認識がされているのかも。
兜の形状は、ロードバイク用の耳より上だけのヘルメットという感じでしょうか。顎紐も付けていますね。
目やら触覚やらの凸凹がそのままですが。ロードバイク用のヘルメットも穴やら凸凹したデザインが多かったですから、そう考えればさほど異様には見えません。
子供達の被っている兜には、目や触覚がまだ残っているものもあります。顎まで残している兜もありますね。どうもわざと取らずに残しているようです。
…まぁ、結果として男の子が喜びそうなデザインになっていますが。さすがにあれを被った人と夜中にでも出くわしたら、大声出す自信ありますよ?。
良く見ると、蟻の背甲らしきものを盾にしている子もいます。あ、あっちの子は足を振り回している…
「なにせ木よりは堅くて軽いからの。兵士には物足りなくても、作業場での怪我防止に使えないかいろいろ試してるんだそうじゃ。夏頃にはエイゼル市でも見られるかもしれん。もっとも、あそこまで虫だと分かる形は残さないようだがな」
衝撃を吸収するためのヘルメットなら、ある程度割れやすい物の方が良いと聞いたことがあります。あれに内張りしてクッション付けたら、十分使えそうですね。
「蟻の殻は、切ったり削ったりも容易いし、蒸気を当てると多少柔らかくなるようだから、それで丁度良い形に整えると言っておったぞ。あと布で覆ったり色を塗ったりじゃな。」
「なるほど。素材に使えるってのは、そういうことなんですね」
眼鏡のフレームに蟻が使えるという話は届いています。甲殻類的な殻だから、私はケミカルウッドみたいな発泡材を想像していたのですが。むしろ鼈甲に近いようです。木目が無い分、竹より扱いやすいと言ってましたね。
蟻から捕れるマナ塊は、脊椎動物系の魔獣の首からとれるものよりだいぶ小ぶりだそうですが、なにより数が違います。とはいえその数が驚異ですので、単純に波をボーナスタイムの様に喜ぶ事も出来ませんが。
ユルガルムには、マナが含まれる地層が石炭層に重なるように存在していて、採掘もされています。前回はそこの廃鉱山に蟻が住み着いたのが始まりでした。
マナを得るのに、掘るのと狩るのとどちらが楽なのか。流石に鉱山で蟻を飼うなんてことは言わないと思いますが、継続的な資源は必需です。この辺の判断は今回の防衛戦次第ですね。
街中を越えて中央丘への坂を登ると、アイズン伯爵とカステラード殿下の先発隊、ユルガルム城に到着です。
城門を潜った屋敷の前にはユルガルムの騎士達が整列しています。…最初にユルガルムに来たときのことを思い出しました。
まぁ前回の時に仰々しい挨拶は断ってますので。今回は王子たるカステラード殿下のお出迎えでしょうね、当然でしょう。
「ふむ。さすが赤竜神の巫女の御幸ともなると、出迎えも大層なものだな」
隣に来たカステラード殿下がなんかすごいことを宣います。
「え? ネイルコード国の王子である殿下が来られたからでは?」
「何を言う。レイコ殿の方が王子より格上だろう? 自覚が無いのか?」
「ありませんよっ!そんなものっ!」
仰々しい挨拶は断ったじゃないですか! 辺境候様!
騎士達に続き、ユルガルム領主一家が勢揃いで出迎えてくれました。
ナインケル辺境候が、私に、膝をつこうとしましたが。ここは王子バリヤーですっ! カステラード殿下の後ろに隠れますっ。
苦笑しながら仕方なさそうに普通の礼に戻す辺境候でした。…わざとやってませんか?
「お父様っ! お母様っ!」
久しぶりの再会となるターナンシュ様が、実母たるメディナール様に駆け寄りますが。
「これターナ。大事に体なのに無闇に走ってはいけません」
「あっ… はい、申し訳ありませんお母様」
シュンとするターナンシュ様。母親の前では少女の只住まいに戻ります。
「まったく… 二人目だというのに落ち着かない娘ですね」
「だって、こんなに早く来ていただけるなんて。不謹慎ですが、ちょっと北の魔獣に感謝しそうになりました」
アイズン伯爵は、さっそくメイドさんに抱えられているシュバール様のところへ向かいます。
「おお、ちょっと見ぬ間に一段と大きくなったのシュバールや。おじいちゃんだぞ、覚えておるか?」
「あー。あう?」
流石に覚えていないと思いますよ、伯爵。前回来たときはほんと乳児だったのですから。
「はっはっは。"我が"孫の成長はわしが毎日見守っておる! 心配には及ばないぞ南の"ジジイ"ちゃんっ!」
高笑いするマッケンハイバー辺境候がアイズン伯爵を煽ります。
「ふんっ!わしが南のおじいちゃんなら、貴様は北のジジイだなっ!」
「わっはっはっはっ! 分かっておらぬなアイズン卿。私はここでは、東西南北関係なく唯一無二の"じーじ"じゃっ!」
「くぅっ…このっ…」
「じーじっ!きゃっきゃっ」
幼子の前で怒鳴り合うわけにはいかないので、笑顔は崩さずに視線でバチバチとやり合う孫馬鹿sですが。当のシュバール様はなんか喜んでいますね。
「…陛下も、兄上の所にカルタストとクリスティーナが生まれたときには、義姉様の父君とあんな感じだったなぁ」
「いやいや、孫というのは本当に可愛いものですぞ殿下。…くぅ…生まれてくる姫におじいちゃんと呼ばれることを想像するだけでなんか涙が出てきますなっ! はっはっはっ!」
「ふんっ! 我が娘ターナの子なのだから。かわいくてあたりまえじゃ!」
はい、カステラード殿下と女性陣とクラウヤート様で、そんな孫馬鹿達を生暖かい目で眺めております。
「殿下殿下っ! 殿下も今年には姫を授かるはず。…想像してみてください殿下、美しく成長した娘を余所の男に取られる様を… 私の気持ちが分かるでしょう? 殿下っ!」
普段のニヒルな感じから一転したアイズン伯爵ぅ… 想像してしまったらしいカステラード殿下が固まってしまいましたよ? あ、「余所の男」のウードゥル様も固まってる。
「…おほんっ。 まぁまぁ孫談義はその辺にして、休憩の前に最新の情報の擦り合わせだけをしておこう。さっそく会議室をお借りしたいのだが、ナインケル・ユルガムル・マッケンハイバー辺境候殿?」
「これは失礼しました、カステラード・バルト・ネイルコード殿下。さぁ屋敷の中へ。ムラード砦に詰めている以外の騎士団幹部はすでに揃っております」
軍人さん達は大変ですね。では私はクラウヤート様とバール君を連れてシュバール様とちょっと癒やされに。 …と思ったら、私も会議の場に呼ばれました。
ちくしょーっ!
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