第7章第009話 おうちへ帰ろう
第7章第009話 おうちへ帰ろう
・Side:ターナンシュ・ユルガムル・マッケンハイバー
義父様と主人がエイゼル市向けの書簡を認めているのを待っている間、小竜神様とシュバールは私の横でお遊戯です。小竜神様が尻尾でシュバールをあやしたり、フルーツをおかわりしたり。侍女達も含めて皆がこの光景に癒やされている感じですね。
小半時ほどのんびりした後、義父様と主人が戻ってきました。
「小竜神様、この書簡をレイコ殿とアイズン伯爵にお願いいたします」
「クーッククッ!」
任せておけ…ですね?
書簡の束を小竜神様に渡します。礼文以外にも文官達から依頼されたものも含まれていますね。小竜神様はハーネスのバックに丁寧に仕舞います。これだけでけっこうパンパンになってしまいました。
「けっこうな量ですが、重たくないですか小竜神様?」
「クー」
大丈夫だそうです。
名残惜しいですが、そろそろお別れの時間です。
小竜神様が窓の外を指さします。指した先は…城門の上でしょうか? 門の上は見張り台となっています。
この城は、盆地の真ん中の丘の上を占有するように建っていますので。城門の前に出れば街が一望できるくらいに開けています。
「あそこに連れてって…ですか?」
「クークッ」
また親指を立てます。正解のようですね。
「レイコ殿の書簡では、小竜神様が飛び立つには高いところから飛び降りるのが一番楽だそうだ」
なるほど、それならばあの場所はうってつけです。
小竜神様の見送りです。
護衛騎士の一人が、小竜神様を抱きかかえて門の上に昇ります。階段は無く梯子がついている程度。私も小竜神様が飛び立つところは見たかったのですが、当然私が登ることは止められましたで。皆で門前の広場で待機します。
門の上、胸壁のところに降ろされた小竜神様が小さな手をこちらに振っています。私とシュバールがそれに応えます。
直後、小竜神様はタンッとけっこうな勢いで空中に飛び出しました。
てっきり翼を広げてそこから飛び立つのかと思ったのですが。小竜神様はそのままそこから飛び降ります。
「「ああっ!」」
そのまま落ちるのでは?と皆が少し慌てた声が出ました。落ちる途中で翼をパンっと広げて、城前の坂道に沿うようにツーと空中を滑べる様に進み、そしてポッと翼が青白く光ったと思ったら軽く羽ばたきつつ上昇していきます。
「「おおっ!」」
これまた見ていた者達からどよめきが漏れます。
立ち会った護衛騎士達が、直立して右手を胸に当て見送りの敬礼をしています。
小竜神様は、上昇しつつ城門前の上空を数度旋回した後少しふらふらし、南の方角に飛び去っていきました。…あのふらふらは、敬礼に応えたかのように思いましたね。
「…わずかな時間でしたが。ちょっと寂しいですわね」
「春にはそなたのお母上であるマーディア様がまた来て下さるし、秋にはジジイも来るそうだ。その時の護衛として小竜神様もレイコ殿と来られるだろう。すぐにまたお会いできるさ」
御父様に対する憎まれ口は相変わらずですが。あなたもお爺さまですよ?義父様。
「にしても次は女の子ですか…今から楽しみです。元気で生まれてきてくださいね」
お腹に手を当てます。まだ見ぬ我が子…性別がもう分かってしまったというのは、妙な気分ですが。
シュバールが嫡男、次は女の子。主人もうれしそうです。
「くっ…嫁には出さんぞっ!。姫はずっとユルガルムで暮らすのだっ!」
「父上…まだ生まれてもいないのに話が早すぎです。それでは娘が可哀想ですよ」
「そうですよ義父様。それにどこに嫁ぐかはその子の意思も重要ですよ。私の時と同じように」
私も、王宮の晩餐会で主人と知り合い、エイゼル領からユルガルム領に嫁いできました。
当時はユルガルムが従属したばかりで、私はネイルコードからユルガルムへ人質として出されるのだなんてことも陰で言われたりしましたけど。私と旦那様は普通に恋愛結婚ですよ?
「うむ…失礼した、そうであったな。しかしそれでもっ! …いや…しかし…」
ネイルコードでは、昔ほど利害を重視した結婚は求められなくなりましたけど。本人達の気持ちはもちろんですが、家や領に対して利点や利益があるに越したことはありません。そういった面では、私と旦那様は特に問題なく結婚に至ることが出来ました。…いや、御父様は最後まで反対してましたね。私と簡単に会えなくなるのが我慢ならんと。
「うーむ、そなたを送り出した時のアイズン伯の顔を思い出した。今なら分かるぞあの気持ちが…」
早すぎますよ義父様。
言ってはなんですが、生まれる前から孫馬鹿を発揮しすぎです、義父様。
孫娘の前に目尻がダレダレになった義父様の顔が、今から想像できますね。
…さて。この娘はどんな人生を歩むのでしょうね?
・Side:ツキシマ・レイコ
ユルガルムに向かって飛び立ったレッドさんを見送った後、私はファルリード亭での給仕のお仕事です。
いつも一緒…ってほどべったりでも無いですが、思念が伝わる程度には目の届く範囲にいたレッドさん。なんというか、彼から周囲情報がまったく入らなくなると、視界が狭まったような心細さを感じますね。ダーコラで別行動取ったときにと同じ感じです。
夕方というにはにはまだ早い頃。ファルリード亭では繁忙時間も過ぎて交代でおやつをいただいていると、上空からレッドさんの気配を感じました。
気配というのも胡乱な表現ではありますが。このくらいの距離ならレッドさんのいる方向くらいは分かります。
「レッドさんが帰ってきましたっ!」
皆で外に出ます。
上空に目をこらすと小さい影が、旋回しながら高度を下げてきます。
そして最後は…一旦距離をあけて。高度を速度に変えて。これは私めがけて衝突コースですっ って、おおおっ?
ドスンッ!
普通の人なら吹っ飛ばされていますね。レッドさんミサイルです。いや、ドッチボールの方かな?
ズザザザっと馬留を滑りながら受け止めました。下は砂利なので滑りますが、きちんと後ろを配慮した方向から突っ込んでくるあたりレッドさんも律儀です。にしても、愛情が重たいですよ? レッドさん。
「ごくろうさまでした、レッドさん」
「ククックーッ!」
お顔をわしゃわしゃしてあげます。
頭をスリスリしてくるレッドさんでした。
「おかえりなさいレッドちゃんっ」
「本当にユルガルムから日帰りで帰ってきたよ。すごいねっ」
食堂から出てきた皆が声をかけます。
ほんとご苦労さまでした。お腹空いていないですか?ご飯食べる?とか聞いたところ。え? 先に報告ですか?
レッドさんからイメージが送られてきます。これは…
「エカテリンさんっ! えーと、とりあえずアイズン伯爵かな? ともかくすぐに伯爵とお話ししたいのですがっ!」
ユルガルムに非常事態ですっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます