第7章第004話 産婆さん!

第7章第004話 産婆さん!


・Side:ツキシマ・レイコ


 アーメリア様のお腹の中の赤ちゃんは、女の子だと分かりました。

 懐妊されたアーメリア様には、専門の産婆さんが付くことになりました。

 ノーヴァ・ボサタンゴさんという産婆さんだそうで。この方、普段は王都の下町に居を構え、そこで産婆さんとして活動しているそうで、一部からは王都の聖女と呼ばれているそうです。70歳越えてるそうですけどね。

 王都では王族に並ぶくらいの有名人で、今までで取り上げた赤ん坊は万を超えるそうです。取り上げた赤ちゃんの数では大陸一とも言われているとか。


 王家とは、ローザリンテ殿下のご出産の時からの懇意だそうです。

 最初は一部貴族の反対があったそうです。平民相手の産婆よりうちのお抱えの医者を…という感じでの取り入りですね。

 ただ。出産に貴族と庶民で違いがあるのか? 彼女より経験のある産婆が居るのか? ローザリンテ殿下の鶴の一声で一発論破だったそうです。そりゃ貴族しか相手にしない医師とは、三桁は経験が違うでしょう。


 妊婦さんへは妊娠初期からもいろいろアドバイスをくれるそうで。今日も王宮に来られる予定なので会って欲しいとアーメリア様に頼まれました。


 「ふむっ。今夜あたりに生まれそうなのが居るから、今日は早めに返りたいんだけどね」


 王侯貴族を前にしても媚びないって雰囲気の頑固お婆さんです。とはいえそれでもアーメリア様のところに来てくれるあたりは、悪い人でもないようですね。

 …某有名アニメに出てくる女海賊みたいです。眼力も凄いですよ。


 「相手が誰だかなんてお産の前には関係ないからね。王様だって平民だって、母親のお腹から生まれてくることには変わりないんだ。王宮のお姫様だからって、お産で特別なことなんか何一つありゃしない」


 うーん。良い意味でプロ意識ですね。これは男の人では頭が上がらないでしょうね。


 「ノーヴァ様、こちらが赤竜神の巫女レイコ様ですよ」


 「わたしゃノーヴァというただの産婆だよ。お腹の中の子の性別が分かるってのは…その赤いのかい? まぁ生まれてくる子供の性別なんて二の次三の次だがね」


 「はいまったく仰るとおり、母親と子供が無事なのが一番ですからね。あ、私はツキシマ・レイコです。この子がレッドさんです。」

 

 ん? 私の反応が意外って顔していますね。


 「…まぁ分かっているようだね。わたしゃ赤子が無事生まれてくるように全力を尽くすだけだよ」


 「よろしくお願いします。ノーヴァ様」


 アーメリア様も頭を下げます。


 「やめとくれ。王族に様付けされるような身分じゃないのでね」


 いえ。私よりよほど様付けしていい人ですよ、ノーヴァ様は。

 ローザリンテ殿下だけではなく、カルタスト殿下とクリスティーナ様を取り上げられたのもこのノーヴァ様だとか。

 昔から王族の出産に立ち会ってきたと伺って、


 「…もしかして、夫…カステラード様を取り上げられたのも?」


 「もちろん私だよ。第一王子を取り上げたのはエイゼル市だったが。二人目のときには王宮に呼ばれたので、びっくりしたもんさね。あんときはすんなりと生まれてきてくれたね」


 カステラード殿下が微妙な顔をされています。まぁ、子供のころとか赤ん坊のころを知っている人はいても、取り上げてくれた人に会う機会なんてそうそう無いでしょう。


 「小竜神様だったか。この子の見立てだと、あと170日で女の子で、今のところ異常無しかい…それだけ分かるのなら楽になることはあるさ。アーメリア様だっけ? この時期にしておいてほしいこと、してはいけないこと、食べた方が良い物だめな物。その辺を一通り教えるから、頭に叩き込むんだよ。なによりお腹の子のためだからね」


 「はい。ノーヴァ様」


 「レイコ…様でいいのかい? あなたのことは、ローザリンテ殿下に言い含められている。まだこの国では知られていないような赤竜神様の世界の知識をいろいろ持っているとか」


 急に真剣な顔でこちらに問いかけてきます。


 「私のいた所では常識という範囲の知識ですが。一般人の嗜み程度には…」


 まぁ日本の教育では、こういうのはいろいろ学ぶ機会が設けられているもんです。


 「それでは、アーメリア様への指導にもレイコ様に付き合って欲しい。そして、もしあんたの目から見て間違っている知識があったら指摘して欲しい。今後それで助かる命が増えるのなら、取り入れない理由は無いからね」


 「承知しました、ノーヴァ様」


 「様は止めとくれ。ただの産婆だよ」


 「ではノーヴァさんで。私にも様はいらないですよ」


 「うん、私はそれで十分だけど。仮にも赤竜神の巫女様をどうして皆がレイコ殿と呼んでいるのかと思ったら、そういうことかい」



 医療機器や薬が無い状態では、出来ることには限りはありますが。地球での一般常識範囲でいろいろ口を出しました。

まぁ注意点は太りすぎないことってくらいで。一部では、赤ちゃんの養分と出産の体力のためということで太ることが推奨されていた時期もありますが、これは間違い。適度な運動で適切な体重をキープということで。あと高血圧にも注意、塩は控えめに。

 よくカルシウム取れという話もあったりしましたが。普段の食事でのカルシウム吸収率そのものが高くなるので、特別カルシウムを多く含んだ食べ物を取る必要はありません。ただしこれは普段からカルシウムを不足なく取れていることが前提ですので、意識して取ることは悪くないのですけどね。

 取らない方がいい食べ物…過剰なビタミンAとヨウ素ですが。特定の食材を食べ過ぎなければ問題にはなりません。アルコール、カフェインは止めるべきですね。


 以前アイリさんとエカテリンさんに教えた栄養学あたりの話は、王宮の厨房まで届いているそうです。普段の食事はバランス良く、食材の種類を多めにすれば自然と偏らなくなるものです。気をつけると言ってもこんな所ですか。


 ノーヴァさんの知識がだいぶ正確なのには驚きました。流石に万の赤ん坊を取り上げたベテランです。経験則でここまで昇華できるとは。



 しばらくお話しした後、ノーヴァさんの助手がやって来まして、街の方で世話している妊婦さんが産気づいた様子を伝えてきました。

 ノーヴァさんとそのお仲間に関しては、関や城門での通行許可などいろいろが免除や優先されたりしているそうです。…そう言えば日本の江戸時代でも、産婆は大名行列を横切って良いって話もありましたね、そんな感じです。

 王宮に勤める人で彼女の顔を知らない人はいないくらいです。まぁあの眼光のお婆さんは、そうそう忘れられる物ではないですが。もうVIP扱いですね。


 「私が知っている様なことは、すでにローザリンテ王妃殿下とファーレル妃殿下にもした指導だからね。彼女らの言うことをよく聞くこと。あと不安や疑問があったら、きちんとわしに話すこと。いいね」


 そう言ってノーヴァさんは、王宮で手配した護衛付きの馬車で王都の街に帰っていきました。


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