第3章第005話 ダイエット
第3章第005話 ダイエット
・Side:ツキシマ・レイコ
さっそくですが、冤罪です。
「レイコちゃんが悪いのよ!」
というところで。私は悪くありません。食べ過ぎたアイリさんが悪いのです。
…アイリさん、どれも喜んで食べてましたよね? 試食から参加してましたよね? 天高く馬肥ゆる秋。
「で、体重、どんだけになったんだ?」
今日は非番だそうなエカテリンさんに、躊躇いながらもアイリさんが耳打ちする。
「なんだ、俺と同じくらいじゃんか」
私は、アイリさんとエカテリンさんを見比べてみます。
身長は同じくらい。…アイリさんの胸の分、エカテリンさんの筋肉の重さ?
筋肉の方が脂肪より重たいとはよく聞きますが。うーん、プロポーションが崩れたという程でもないように、私は思いますけどね。
「タロウさん、アイリさん太ったように見える?」
「え…うーんまぁちょっとふくよかになったかなとは思うけど」
「ちょっとタロウ、なに胸見てんのよ!」
…なんかお約束ですね。タロウさん、真っ赤です。うぶですね。うぶ紳士。
「…ミオンさんとかモーラちゃんも、カヤンさんのご飯食べているのに。太らないんですね」
アイリさんが、ファルリード亭の面々にまで恨み言を言い始めましたよ。
ミオンさんは、アイリさんとエカテリンさんを足した感じでナイスボディーですもんね。
「…私は、いくら食べても太らないんだよね」
うーん。世の中の女性を敵に回すセリフの上位に位置するそのセリフ。
「わたしも…」
とモーラちゃん。ってあなたまだ子供ですので、成長はして貰わないと。でも、ミオンさんの血は引き継いでいるようです。将来が楽しみですね。
「裏切り者~」
…乙女共通のお悩みとか言ったけど、ここではアイリさんだけでした。
もちろん、私も食べ物では太らない。
「レイコちゃん~。地球の技でなんとか成らないの?」
「減量は、地球でも乙女の永遠の課題だったけど。結局、運動するのが一番じゃ無いかな」
運動すると、もちろんカロリーを消費するが。筋肉が付けば、普段の代謝も増えて太りにくくなります。
エカテリンさんやミオンさんたちが太らないのも、これだろうな。
「…カロリー。そういう考え方があるのね」
カロリーについて説明したけど。エネルギーとかカロリーとかの概念の説明は、簡単そうでちょっと難しい。燃やしたときどれだけの熱を出すか?あたりから説明したけど。
「あと、食べるものに気をつけるとか。えーと、栄養にもいろいろあって。脂肪…というか脂が一番の大敵で。時点は炭水化物…ってなんて言えば良いんだろ?穀物?麦と芋とかね。タンパク質…ってお肉自体は減らさない方が良いと思う。脂身は大敵だけどね」
後は。カロリー関係ないけど、繊維質やビタミンにミネラル。用は野菜を食べろと。
これらの栄養についての話に意外と食いついてきたのはエカテリンさん。
「食い物をそういうふうにばらして考えるってのは、面白いな」
なんとなく、肉や穀物が力になって。他のものは、美味しいか沢山食べられるかくらいしか気にしないんだそうだ。
「脂は、長く動くための源だね。普段生きていたり、寒さに耐えたりとか、重要な栄養素ですね。ただ重要だからこそ、普段から余裕があれば体はこれを溜めようとします」
「…それが太ることなのね。」
余裕があれば…ですから。対策は明白ではあるのですが。
「穀物は、最も簡単に力に変えられる栄養ね。筋肉の中にも普段から溜められていて、すぐに使えるけど、すぐに無くなるものだと」
「なるほど…最初は機敏に動けるのに、疲れるとだらだらになるって、そういうことだったのか。途中で燃料が脂に切り変わるんだな?」
エカテリンさん、理解が早いです。
「あと、頭が考えるときに使う栄養は、この穀物しか使えません。頭が疲れたときには、甘い物が最適です」
静かに過ごしている状態でも、接種したカロリーの二割以上を脳だけで消費しますしね。
「タンパク質…肉は、体を作る材料ですが。それ自体、動くための力にも使えますし。脂が力に変わるのを助けたりします。だから、減量のために節制するとしても、肉は減らしたくはないですね。魚は理想的ですよ」
脂はできるだけ減らして。糖分は取りすぎないように。残りのカロリーは肉で…が理想ですが。食費的にはちょっと難しいメニューになるかな?
「塩って人に必須だと言われているけど。何に使われてるんだ?」
「うーん、簡単に説明するのは難しいですね…」
浸透圧とか、ナトリウムイオンによる刺激の伝搬とか。あと塩素は胃酸とかに使われるけど。
「食べたものの消化吸収とか、筋肉に動けという命令を伝えるのに使われたりとか。そんなところに使われていますね」
あと簡単にビタミンの話もしておきましょう。これも重要です。
「長期間航海に出る船員とかが、歯茎から血が出るような病気になる…なんて話はありませんか?」
こちらでも壊血病があるのか、タロウさんに聞いてみました。
もしかしたらだけど、この世界の人間に同じ栄養学が通じるのか、ちょっと不安になったので。
「あるある、船乗り病だな。この国の交易船でも、東方諸島からの船の船員にも、よく聞くよその病気。え?対処方法ってあるの?」
ビタミンCなる物質が含まれる食品を取ること。ビタミンCは壊れやすいので、乾燥させたり加熱した食べ物では効果が減ること等を伝える。例外はジャガイモの類いかな?デンプンでビタミンCが保護されます。ただ、この世界の芋で代用できるのかは、要検証ですね。酸化にも弱いので、ドライフルーツも駄目です。あとはキャベツの漬物かな。ビタミンcは、けっこう長期保存が難しい栄養素なのです。
芋も漬物もビタミンCがすごく豊富と言うほどでは無いのですかの、そこは量で補います。ジャガイモを主食にするだけでけっこう違うと思います。
船乗り病による船員の消耗率はかなり深刻で。それに対処できるのなら、それは画期的なことだと言われました。。
「保存に適した野菜や果物…芋とか漬物か。 あー、また祖父に話さないと行けないことが…」
ドライフルーツがだめとなると、やっぱ漬物が一番簡単ですか。
柑橘類の砂糖漬けや蜂蜜も有効ですが、砂糖や蜂蜜が高価です。
「私も、今の話をダンテ隊長に話しても言いかい? レイコちゃんに聞いたこういうことは、一通り報告しろってダンテ隊長に言われてんだよ。もちろん、友達としてのおしゃべりは別だけどな。ただ、レイコちゃんの話は、どこにどんな英知がはいっているかわからないもんな。油断ならないぜ」
いままで盲目的に食べていた食べ物。それぞれに役割があり、食べ方によっては害もでるなんて、そういう考え方はいままで無かったそうです。
うん。その辺を意識したメニューにするだけでも、兵士達には有益だと思いますし。いずれ一般常識として広めたいですね。
「で結局、私の減量はどうすればいいの?」
「運動して筋肉を付けること。運動は、キツサより時間を優先すること。油控えめ、穀物も少なめで、肉はしっかり食べて野菜も沢山取ること。こんな感じかな」
「…やっぱ楽には痩せられないのね」
「…管を皮膚の下に突き刺して脂を吸い出す…なんて荒技もあったけど? こちらでは無理だと思う」
聞いていたみんなに、なにその拷問?…って顔をされました。まぁ、この国でやったら普通に死にます。
「そういう目的の運動には、水泳が良いって言われてたけど。」
エイゼル市を流れるカラスウ河。そこそこ水量が多いので、一見綺麗ですが、街の排水も流れ込んでいるので、泳ぐ人はいないとか エイゼル市沖のボルト島のリゾートでは、砂浜で海水浴を楽しむ娯楽があるそうですが。海軍以外で水泳訓練を受けたことのある人の方が珍しいそうで、泳ぐと言うよりは海辺で遊ぶ程度だそうです。まぁどのみち、今の季節に水泳はないよね。風邪引きます。
ちなみに、エイゼル市の生活用の水は、別の河の上流からの水道が町中に整備されている。ローマというよりは、江戸の街の水道整備って感じかな。下水や排水は、上水道と交わらないようにうまく配置されているそうで。エイゼル市自慢のシステムだとか。
下水の浄水所みたいな施設もあるそうで。肥料生産の原料供給もしているそうです。沈殿物を組み上げて、枯れ葉やら生ゴミと一緒に穴に埋めて数年寝かせる…という方法だそうです。
「アイリ、あたしと一緒に騎士の訓練にでも参加するか? 良い運動になるぞ」
「…考えておくわ」
騎士の訓練の効果の程は、エカテリンさんのボディーが証明してくれています。
「男の人的には、痩せているより多少ぽっちゃりの方が良い…って話も聞いたけど」
モデル体型は、あまり受けがよろしくないという話はよく聞きましたが。
ここにいる中での男性代表タロウさんに視線が集まります。
「なんでこっち見るんだよ!」
…まぁ、そのへんは男友達で議論して下さい。
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