第3章第002話 醤油発見!
済みません。2章031話、公開日設定ミスしてました。
------------------------------------------
第3章第002話 醤油発見!
・Side:ツキシマ・レイコ
さて。お昼前にマルタリクの見学は終えて、漁村のアキルに向かいます。
村と言っても、エイゼル市の港がすぐとなりというくらい近いですし。倉庫街の拡張もそばまで迫ってきています。
漁村周辺には、遠浅の浜辺があるから港に取り込まれなかった…とクラウヤート様が教えてくれました。
沖には島が見えます。ボルト島というそうです。
地図で知ってましたが。エイゼル市の港が東西に伸びる海峡のようになっていで。ほぼ一日中、西から東への海流があるそうです。
ボルト島の南側、こちらからみて向こう側ですね、には、遠浅の砂浜が広がっているそうで、そこが塩田になっているそうです。
結構大規模な塩田だそうで、ネイルコード国には必須の産業になっているとか。ユルガルムへ運ばれる塩も、そこで作られているそうです。
また、ボルト島の東半分は山がちな地形ですが、対岸のここからも斜面に家が並んでいるのが見えます。それらは富裕層の夏のリゾートとして使われているそうで、夏には渡し船も賑わうそうで。エイゼル市の中央通りあたりも含めて、ネイルコード国中の貴族が訪れるとか。
ボルト島の西端には、ネイルコード王国の海軍基地と訓練地だそうです。海軍?とは思いましたが。ネイルコード王国籍の商船も、ほとんどが半分軍船のような物で、乗組員の半分は軍人だそうです。交易には国も咬んでいるってことですね。
国内の輸送は陸運で、海運のほとんどが海外との貿易です。自衛戦闘がありうるこの時代の船舶ならではです。
アキルに付くと、村長だという人が出迎えてくれます。ボルガ・ルネースさんと仰るそうです。日に焼けて筋肉バリバリ、見るからに海の男です。
ボルガさんの手配で、既に双胴カヌーみたいな漁船が出ていまして。地引き網を展開してくれているそうです。
浜に帰ってきた船から網を引き継いで。村人と見学者含めて皆で網を引きます。これが昼食のおかずにもなります!。頑張りましょう!
地引き網、やることは綱引きと大差ありませんが。
「ん? あそうか。砂場だからな」
引っ張るのに苦労している私に、エカテリンさんが気がつきます。
はい。グリップが全くありませんね。足が取られて、他の子供と同じ程度しか引けません。ぐぬぬぬ。
クラウヤート様まで参加して引っ張っています。まぁこんな経験は無いでしょうから、楽しいのでしょう。バール君は、網の中で跳ねている魚に興味を持ってかれていますね。
引き上げられた網には、いろんな種類の魚がかかっています。地球と似ているものは多いですが…
うーん。鰯と鯖と鰹と…大きさ以外に外見的特徴言ってみろ!と言われても困りますよね。まぁそんな感じの魚が沢山かかっているということです。はい。
大きい魚は、村の奥さん方がどんどん絞めて血抜きに回しています。魚はすぐに絞めて血抜きする、美味しく食べる方法はここでも周知されているようですね。
鰯くらいの魚は、桶にまとめられています。半分は市場へ、半分は開いて干すんだそうです。大切な保存食ですし。一晩干すだけでも、美味しさが濃くなります。一夜干し、いいですよね。
ああああ。エビ!エビがかかってます! それ捨てないで!
かかった魚を仕分けしている奥さんが、結構な大きさのエビを、海に投げ入れようとしてます!
「ちょ! エビ食べないんですか?!」
と慌てて聞いたところ。全く食べないわけでは無いようですが、可食部が尻尾の部分くらいしか無いし、見た目からして好まれないとか。虫みたいって…それを捨てるなんてとんでもない! まぁ、魚がこれだけ捕れるのなら、わざわざ食べようとは思わないのかもしれませんが。
小さめのエビですら、見事なエビフライになりそうですが、ここにはフライの準備がありません!。桶に海水張って臨時の生け簀。あとでファルリード亭に持って帰りましょう。
あ。イカも取れました。ユルガルムで見たのより一回り小さいですね。こちらは普通にイカ焼きにしましょうか…皆さん引かないでください。ユルガルムで食べた人以外が、そんなもの食べるのかと引いてます。
…蟹もいたけど、ここの蟹は中身がスカスカでした。カニはユルガルムに限ります。
さて、昼食です。荷馬車から押したバーベキューセットを展開し、魚を焼き始めます。
ふむ、子供達も家での炊事の手伝いも疎かにしていないのか、魚を捌く様も板に付いていますね。うまいもんです。
大きめな魚は、三枚に下ろしてソテーか。小さめな魚は、開いて串に刺して塩焼きか。
私は、鉄板でイカを輪切りにしたものを焼いてます。皆が「そんなの食べるのか?」という顔をして触ろうとしなかったので、イカは私が担当です。
うーん。並んで焼かれていく魚たち。これを見ていると、日本人としてはどうしても醤油が欲しくなってきますね。
焼いてから醤油付けていただいても良し。塗って焼くのもよし。…焦げた醤油も香りも懐かしいですね。そうそうこんな香り…
ってっ!!。どこからか焦げた醤油の匂いがします!。
イカ焼きを近くにいた子供に任せて、匂いを追っていきますと。海に浸かった猟師さんが暖を取るために、焚木かくべられております。匂いはそこからしますね…
「ん?嬢ちゃんどうした?」
「あのあの! この匂いはどこから?」
暖を取っていた漁師さんに聞きました。
「ああ、そりゃ多分こいつだな」
黒塩草。そういう植物があるそうです。
塩分の強い土地でしか育たず、その土の塩分を吸い取ってくれるんだそうで。高潮などで塩害を受けた畑に植えることで農地を回復させるのに使ったりするそうですが。基本的には、浜辺近くに自生している"雑草"です。
秋に咲いた花が落ちた後に、赤い実を付けるのですが。塩分が溜まってえらく塩っ辛い実になってしまい、まず食べる者はおらず。しかも時間が経つと黒くなって、それが腐るとものすごい匂いになるんだとか。
どうも焚木に放り込んだ枯れ草に、その黒塩草の実が混じっていたようです。
「あの辺にいくらでも生えとるよ」
と指さす茂みへ行ってみます。
ありました。見た目はベリーみたいな感じですかね。赤から黒へと、いろんな段階の実が成っていました。
ほぼ真っ赤な実を摘まんで、出てきた果汁を舐めてみます。…なるほど、多少醤油の風味はしますが。ほとんどしょっぱいだけの汁ですね。薄味醤油?
黒のは…搾った汁を嗅いでみますが。ああ、典型的なタンパク質が腐敗したような匂い。確かにこれは臭いです。
赤いところをいくつか試してみたところ。紫蘇よりちょっと赤いくらいの色で、塩っぱさと旨みがちょうどいい塩梅の実が見つかりました! これは醤油です!
ああっ! 醤油の実! なんて素晴らしい物があるのでしょう! なんで皆さん、これを使わないのでしょう!
あまりにご都合主義的な醤油の実! 赤井さんが作っておいてくれたのかもしれません! わたしも赤竜神を信仰しようかしら?という気持ちになります! すばらしいっ!
「ザフロ先生…レイコおねーちゃんが変な踊りを踊ってるよ?」
…子供達に心配されました。
ともあれ醤油です!。
黒くなると臭くなる。まぁ醤油も腐りますし、腐ると凄く臭くなるって、お母さんが言ってました。
地球の醤油は、熟成が済んだら熱を加えて麹を殺し、酵素の反応も止めます。これをしないといつまでも発酵してしまいますからね。ともかく丁度良いところを集めて、火を通してみましょう。
子供達に緊急ミッション発令です。これくらいの赤さの黒塩草の実を集めてください! お代は払いますよ!
…十分もしないうちに、桶半分くらい集まりました。
それを桶の中で手のひらで押しつぶしていきます。桶の底が抜けない程度に、レイコパワーをフルに使って潰します。
全体が茶色いドロドロと成ったところで、煮沸消毒した手ぬぐいを使って濾します。黒…いや赤い液体がボタボタと。新鮮な醤油の色です。
村の雑貨屋で調達してきて貰った、釉薬を使っている酒瓶に溜めていきましょう。木の蓋が付いている徳利って感じですかね。とりあえず、四本くらいできあがりました。
醤油の瓶を、四半刻ほど沸騰するお湯で湯煎してから蓋をし、水につけて半時ほど放置してできあがりとします。
もちろん賞味期限はあるでしょうが。これですぐに腐ることは無いでしょう。
醤油作りを待つまでもなく、皆はもう昼食は終えていますが。バーベキューセットをかたづけるのは待ってもらいました。
アイリさんは、また奉納ネタかとわくわくしているようです。多分期待に応えられると思いますよ!
醤油が冷めた頃合いで、瓶一本を開けてちょっと舐めてみます。うんうん、良い感じに醤油ですね。うんうんうん!
早速、焼いた魚にツーっとかけて…戴きます!。
…美味しい…ほんとうに美味しい… ちょっとうるっとしてしまいますね。
イカや魚に塗って焼いてみたりもします。焦げた醤油の香ばしい匂いが広がります!
焼き上がったところで、さっそく皆で摘まみます。
「黒塩草の汁が、こんなに美味しいだなんて…」
「…焼けた匂いも、美味しいと分るとすごく良い匂いに思えてきた」
「レイコおねーちゃん、泣いてるの?」
日本人のソウルフードやで? 泣かいでか!
クラウヤート様もイカを食べています。…結構美形な貴族の嫡男が、串に刺したイカゲソをもにゅもにゅと食べています。…なんかシュールに見えるのは気のせいでしょうか?
あっとクラウヤート様! バール君にイカは駄目です! 犬猫にイカはよろしくありません。
…生でなければOK? 消化に悪いけど大型犬なら問題ない? レッドさんが言ってます。
念のため、細く切ったところをあげましょうか。 …そこらの猫とかにはあげないで下さいね。
私が醤油を作っている間、子供達はアキルの見学を済ませてました。もっと沖合で漁業をする大きめの船も帰ってきたので、陸揚げの手伝いと、船の見学をしていました。
「エイゼル市がでかくなるにつれて、魚はいくらでも売れている! うちも人手不足だからな。成人してうちに来ると言うのなら、歓迎するぜ!」
昔は捨てていた小さめ魚も、笊一杯数ダカムからではあるが、今では庶民の必須の食材になっている。捨てるなんてとんでもない!だそうです。そういう魚の出荷も、手間はかかるが大切な仕事だそうです。
ボルガ村長が、見学会をしめていますが。…醤油の方に興味があるようですね、タロウさんとなにか話しているようです。
この村にも畑はそこそこあります。醤油量産の話なら、大歓迎ですよ!
クラウヤート様は裸足になって、バール君や六六の子供達と砂浜で遊んでいました。丁度同い年くらいなので、気が合うようです。領主の孫だというのに、このへんの垣根の低さは、アイズン伯爵の人望でしょうか? 護衛の人達はヒヤヒヤのようですが。
浜で見つけた貝殻を厳選して、母親のメディナール様のお土産にするんだと張り切っています。
あの孤児院の子達もお待たせしました。ご両親のお墓参りに私も付き添います。せっかくなので、同行した皆さんで参ります。
…大きめ目の石が並んでいるだけの村の一角。ここが村のお墓なんですね。…漁村ですので、石だけでご遺体のないお墓も多いんだそうです。
子供達が、持ってきていたお花をお供えします。花を供えるのは、地球と同じですね。
みなさん、握った右手に左手を被せるようにして祈っていますが。私は、両手を合わせて祈ります。レッドさんも器用に手を合わせています。うん、子供達は街で元気に育っていますよ。
一分くらいで祈りは終わります。
「赤竜神の巫女で在らせられるツキシマ・レイコ様。小竜神レッド様。この度は、この子達の親の墓参りにご同行いただき、誠にありがとうございました。この子達の親も、神の玉座にて喜んでいることでしょう」
ザフロ・リュバン祭司が慇懃な雰囲気で私に頭を下げてきます。いつもなら大げさにしないで…というところですが。私が祈ることに何か意味があるのでしょう。今回はそのまま受け行け、私も頭を下げます。いまはそれでいい感じがしました。
さて。夕暮れ前には六六に帰る必要があります。そろそろ片付けを始めましょう。…って、私が遅くなった原因ですね、ごめんなさい。
…バール君が、海水と砂で凄いことになっています。すみません、帰る前に井戸を貸してください。
…レッドさんも一緒に遊んでましたけど、レッドさんは汚れないんですよね、何故か。便利ですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます