第2章第023話 剣の練習
第2章第023話 剣の練習
・Side:ツキシマ・レイコ
イシンハイ大佐と伯爵達は、ちょっと話があるそうです。客室で待つか?と言われたのですが。一人で待っていてもしょうがないので。私はレッドさんとグラウンドで暇を潰すことにしました。
剣士の訓練場でしょうか。木製の模擬剣が傘立てのようなところに刺してありましたので。試しに素振りをしています。
剣道はやったことがないですし。振ったことがあるのはおもちゃの剣くらいですので。ちょっと新鮮です。
「ん?お客様のお子さんか?」
訓練に来た兵士達でしょう、十名ほど入ってきました。
「…あの子の背中の赤いの。あれって…」
「そう言えば、赤竜神のお子様である小竜様がエイゼルの街に来ているってうわさが…この子がそうか?」
おお、こんなところにも噂は来ているようで。
「さっきの凄い音、外の丘がひとつ吹き飛んだって聞いたけど。それも小竜様か? だったら納得…ってこんなちっこいのに出来るのかね?」
「嬢ちゃんは、小竜様のお世話係かな? 剣を振っているってことは護衛か?」
まぁ、間違ってはいないです。黒髪は珍しいけど皆無ではないと言っていたので。レッドさんのサイズ的にもそういう雰囲気に見えるのかな?
「かわいい護衛だな。剣術に興味あるのか?」
「あ、いえ。まぁ、そのうちある程度練習しておかないと行けないなぁ…と思った程度でして」
「まぁ全く使えないよりは、多少なりとも慣れといた方がいいわな。ちょっと相手してやろうか?」
「おい、ロイド、不味いぞ」
「大丈夫だって。六六で子供に教えた経験はあるんだ」
ロイドさんはロングソード? 私はショートソードです。身長が違うから致し方ないですね。
「よろしくお願いします」
と、ロイドさんが直立不動で言います。
「実戦で挨拶はしないけどな。訓練なら、教わる礼儀も必要だって事だ。」
納得です。
「「よろしくお願いします」」
剣を普通に正面に構えて、相手を見ます。相手の方がリーチが長いのですから、本当なら接近して急所を打つ必要があります。
私はまず、しゃがんで、剣は片手で持って、反対の片手を地面に付いて。クラウチングスタートで…ゴーです! しかし、足が滑って思ったように加速できません。せめてスパイクが欲しいですね。
それでもそこそこな速度は出たので、急接近して太もも当たりを狙います。実戦なら、足を怪我させれば相手の行動力はがた落ちでしょう。
「うわっ!」
ロイドさん、私の速度を予想していなかったのか、持っていた剣で慌てて防ぎます。
私は、接敵した後にぐるーと迂回して再度接近! こんどは脛あたりを狙いたいところですが…足が滑ってドリフトしてしまいますね。普通の地面じゃしょうがないのですが、滑る滑る。…結局これも防がれてしまいましたね。
さらに三度くらい繰り返しましたが。速度を上げれば大回りになって対処する時間を与えるし。速度を落せば簡単に防がれると。うーん、駄目ですねこれは。
これが実戦なら、服を斬られる覚悟とパワーで無理矢理押し通すことも出来ますが。それじゃ剣術ではありません。
「分った分った。やめやめ」
ロイドさんからストップがかかります。
「今のどう思う?」
ロイドさん、同僚の方と審議タイムです。
「うーん。体がここまで小さいななら、あれはむしろ実践的なのか?」
「あんなの、上から斬りつけられればアウトだろ。子供を叩けないから今はやらなかったけど」
「足を狙うのはいいと思うんだけどな」
審議終了。
「嬢ちゃんがすごく素早いのは認めるけど。横切るところが分るのなら上から剣で斬られるし。混戦だと周囲に走り回れるところがあるとは限らないからな。その戦法は無しだな」
実用的ではないと判断されてしまいました。試合で勝てば良い!という話ではありませんからね。
「ということで。今度は正対してもう一本だ」
正面から向き合って、もう一試合のようです。
木刀と言っても鍛錬のための物ですから。厚みがあって結構重たいです。
重たいと言うことは、振ればそれなりに反動もあります。
この体では、やはり思いっきり振り回そうとすると体の方がぶれるわけで、どうしても限度があります。
「うおっ!鋭い振り!…だけどリーチが読み切れていないな」
剣をちょっとぶつけられると、もう剣の軌道が変わってしまいます。棒を振り回すのでは無く、剣を狙ったところに刃を立てて当てるのって、難しいですね。
向こうが上段から攻撃を仕掛けてしましたので。剣で受けてみます。
怪我をしないように手加減されているのは分りますが。
「え?なんでびくともしないの?」
剣で上から押してきますが。摩擦が関係ない勝負なら、こちらの方が得意です。
ロイドさんは、鍔迫り合い状態で剣に体重を預けてきますが。私の剣はびくともしません。
けっこう体重乗ったかな?というところで、剣をずらします。ロイドさんは、体重をかけていたところが急に支えがなくなったので前にずっこけています。その背中を、剣でぽんと叩きました。
「勝負あり。嬢ちゃんの勝ち」
「うーん。鍔迫り合いになるまでは良い感じだったのにな。嬢ちゃん、今のあれマナ術だろ?凄い強度だな」
マナ術というより、マナそのものなのですが。
土埃を払っていたら。そこに、アイズン伯爵達が戻ってきました。
「おまえら!伯爵の客人に何しておる!」
イシンハイ大佐が怒鳴ります。ばっと整列するロイドさん達。
「いえ、私は剣の練習の相手をして貰っていただけなので…」
怒らないで下さい、大佐。
「…本当ですかな? 庇われなくても良いのですぞ?」
とロイドさん達を睨みます。…もちっと信用して上げて…いい人でしたよ。
「いえ、本当に練習ですっ。いろいろ勉強になりましたっ」
「…ならいいのですが。いいかお前ら、見ての通り小竜様の巫女であらせられるレイコ様だ。今後、無礼なことはないように!」
「「はっ!」」
「…よし訓練に戻れ!。あと貴様ら、訓練後に教員室に出頭しろ」
うへぇ…という顔をして、皆さん訓練に戻っていきます。私もそろそろ出発です。
ロイドさん達に手を振ったら、皆が振り返してくれました。…剣の練習は本気で考えた方が良いかも。また来たいですね。
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