第1章第037話 不夜城

第1章第037話 不夜城


・Side:ツキシマ・レイコ


 「さて。私の六六での用事は終わったわ。レイコちゃん、どんなところを見てみたい?」


 教会の訪問でアイリさんの用事は済みました。ここからエイゼル市観光となりますが。貴族街にはまだ入れませんので、となるとどこを見てみたいかとなりますが。


 「うーん。ここの市場ってどんなところ?」


 そこの土地の生活を見るには、マーケットが最善だろうし。私も利用する場所だから、どんな者が売っているのかは把握しておきたい。


 「ここから一番近いのは南市場かな。港から運んできた魚とか、周囲の農村からの作物が主で。服とか雑貨の店も出ているわね。そういう市場が街の南北と中央にあって、中央市場が一番でかいわね」


 話を聞くに、ショッピングモールかスーパーマーケットという感じですが。どんなところだろ?


 「高級な服とか装飾品は、貴族街から続いている中央通りに多くあるし。武具とか職人なんかが使う工具だと、川向こうのタクマンって職人街かな。輸入品の珍しい食材とかなると、港に面した北市場の方が多いわね」


 六六に来るまでちょっと気になっていたんだけど。私が着ている白いブラウスに紺色のスカートにブレザーって、結構目立ちます。

 アイリさんの服は、麻か木綿のワンピースに、革のチョッキって感じで。ボタンではなく、縫い付けた紐を縛る感じ。色も、地味系。染色した生地なんかはワンポイント使用ですね。


 「もう少し目立たない服を買いたいんだけど。あとお財布とかカバンとか。あとあと、宿屋の収納に付ける鍵みたいな物?」


 「なるほど。んー。ここから近いのは南市場だけど、その辺の品揃えなら中央市場に直行しましょうか。タロウとエカテリンさんは、それでいい?」


 「俺は問題ないぜ」


 「私もね」




 エイゼル市に来たときの関を抜けたところで見えた、北から流れている大きい河、カラスウ河というそうだ。まずはそこに向かいます。

 結構幅がある河ですが。石の橋桁に木で出来た橋がかかっている。馬車くらいは余裕で併走できそうです。橋のそばの両岸の河岸には、河船用の桟橋がいくつもあります。


 この橋を通る街道は、エイゼル市の北を通る輸送の要所なので、運輸組合ギルドの施設もこの通り沿いにあります。港がからの荷物をここで川船で運んできて荷馬車に載せ替えるなんて事もしているようですね。

 今もひっきりなしで馬車が橋の上を行き来していますが。一度に橋の上に乗れる馬車の数は制限しているようで、衛兵なしき人達が交通整理しています。

 ただ、この街道もそろそろキャパオーバーだそうで。ここからもう少し北に別の街道と、もっと頑丈な橋を敷設中だそうで。何年後かにはそちらがメインになるだろうと、タロウさんの説明です。


 「港からもってきた魚をここで揚げて、ほら向こうにある市場、あそこで売るわけ」


 河からちょっと北の方に、壁のないでかい倉庫のような、柱に屋根だけともいうが、そんな建物が並んでいるところが見える。あそこが北市場ですか。


 「私たちは、中央市場に行くから。あそこまで渡し船に乗ります」


 カラスウ河はゆるり曲がっているので、結構遠くまで見わたせます。アイリさんが指を指した市場らしき建物は、南に二キロくらい先かな?。

 水上バス…というほどのものでは無いけど。底が平らで細長い船二隻を左右に繋げて、板を渡したところの上に柵で客席を囲った感じの双胴船。吃水を浅くするためと安定性重視の構造ですね。船部分は密閉されていて、さらに竹も要所に使われています。安全性にも工夫がされている面白い船です。

 船体が揺れにくいので、桟橋からの乗り降りも楽ですね。

 十分くらい船上で待って、他の客で一杯になったら出発。六畳くらいの客席に客は三十人くらいでしょうか。

 船頭さんは、双胴の後ろに一人ずつですが。河は下りなのでさほど漕がなくても進んでいます。


 遠目に、中央市場らしき建物群から城塞まで、建物がぎっしり並んでいるのが見えます。高い建物…といっても、高くて三階建てがせいぜいですが、そういった建物が並んでいるところが、中央通りというところなのでしょう。城塞がある場所は少し高台になっているので、建物の列が道に沿って昇っていきます。

 城塞の中にもさらに高台の部分があって、そこにはここから見てもけっこう豪華な建物が建っています。

 レイコさんに聞いてみると。


 「あれがエイゼル市の中央教会ね。城塞ができたころからあるけっこう古い建物で、王都の教会より古いそうよ。その隣にあるのが、領主館である伯爵邸ね」


 この街で一番高い建物ですね。貴族街の他の建物は城壁に隠れて、天辺がいくつか見える程度。そのうち見学してみたいなぁ。


 左側に、中州になっている高台が見えてきて、そこにも城壁に囲まれた場所が見えてくる。貴族街の城塞とは違って、こじんまりとしているが。なにやら派手な色の旗やら布やら。

 ここにも橋が両岸に向けて架かっています。場所からすると、現役の防御拠点という訳でもなさそうだけど。


 「ああ。あそこは不夜城だな」


 私が見ているのに気がついて、タロウさんが教えてくれる。


 「不夜城?」


 「眠らない城、というより夜が本番の城」


 あ…だいたい分った。アイリさんとエカテリンさんは苦笑している。


 「…言っとくけど、俺は行ったことないからな」


 「説明しておくけど。城みたいになっているのは、中から逃さないというより、外から不審者入れないためだそうよ。まぁ手っ取り早く稼げるので、ああいうところで働いても良いという女性は、けっこういるのよ。ランドゥーク商会でも、あそこむけの服は結構多く商っているのよね」


 六六で働いている人の何倍も稼げて、綺麗な服に美味しいお酒や食べ物。仕事にさえ目を瞑れば、待遇はむしろ良いくらいだそうです。

 橋の入り口には関があって、露骨な不審者や汚い者は、そこではじかれるそうな。また、橋の上を通るときには隠れるところがないから、ああいうところに行くのにやましい人は、行き辛いとか。貴族は馬車が使えますが、まぁ紋章は隠して渡るそうです。


 「あの城のボスは、スラムを全廃したときの伯爵の協力者の一人とかで。どういうやり取りがあったのかは知られていないけど、良くも悪くもこの街と共存している"施設"だな。基本、そういう職業はあそこでしか許可されていないし。もちろん無理矢理あの中で働かせるようなことは犯罪だから。街の治安維持の一助になっているのは確かだな」


 まぁ、でかい街ならああいうところは多少なりとも出来てしまう物なのでしょう。むしろ、まとめてあの城だけに納めている分、よく管理されていると言えると思います。思いましょう。


 「騎士団でも、たまに賭で負けたり罰で、騎士の正装であの橋の上歩かされるやつがいるんだよな…」


 そういう格好で不夜城に行けば、中でどんなおもてなしがされるのか…。モテまくって不夜城にハマってしまった騎士も結構いるとかいないとか…


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