親が決めた婚約者が大好きな歌手だった

Totto/相模かずさ

第1話 日常 

「もうすぐ、卒業式ですね。待ち遠しい」


その人はそんなことを言い、お皿を洗いながら小声で歌ってる。


始まりは切ない別れのメロディ。

そして希望、明るい未来。

綺麗な、素敵な旋律と高く澄んだ声。


 っていうかちょっと待って。


私、その曲を今までに聞いたことないのですが。

もしかして新曲なんですか?

彼の隣で洗い終えたお皿を一枚づつ拭いて片付けながら、私は食い気味に問いただす。


「この曲はー。即興です。今作った」


はぁああっ!? そんな素敵ワンマンステージを見れちゃってる?

えーと、どこに入金すれば良いのでしょうか。


「い、いいんですか? 私だけになんて」


焦る私にこともなげに言い放つ彼。


「奥さんになるんだもん。いいんじゃないでしょうか?」


そう言いながらご機嫌に歌い出した彼の、素晴らしすぎる声を聞きながら、私はここ数ヶ月の怒涛の日々を思い返していた。

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