第64話 今はこの宝石を君たちに


 リガールやメルルとミラの協力を得て、ついに地下三階の地図作りに乗り出した。

ここは地下二階までとは別世界である。

なんといってもモンスターの数が多く、一体一体が並外れて強力なのだ。


「うお!? いきなり三体も湧いた」


 二階から降りてくる階段付近で、いきなりダンジョントカゲの洗礼を受けてしまった。

コモドオオトカゲのような奴が高速でこちらへ迫ってきたのだ。

俺だって指を咥えて見ていただけじゃない。

八連ピストルを連射して対応したのだけど、一発も当たらなかった。

動く標的に当てるというのは、こんなに難しいものなのか!?


「ユウスケさんは後ろに下がって!」


 突進してくるダンジョントカゲをメルルが盾で受け止めてくれた。

そう思う間にリガールがファイヤーボールで左側の敵を仕留め、ミラがアイスニードルで右側を倒してくれる。


「クソッ!」


 メルルが動きを止めてくれたトカゲを狙い、ようやく二発を頭部に命中させた。

外さないように至近距離まで寄るのは怖かったけど、なんと初戦を勝ち抜くことはできたようだ。


「ユウスケさんって、いざとなると度胸が据わりますよね。ダンジョン三階が初めてだなんて思えませんよ」


 ミラが褒めてくれたけど、思いは複雑だ。

咄嗟とっさのことで体が動かなかったという自覚はある。


 それにしてもダンジョントカゲは強力だった。

地下二階までのモンスターとは動きがまるで違うのだ。

ピストルよりもモンスターカードの方が有効だとは思うが、手持ちは四枚しかない。モンスターカードチップスは最近よく売れるからだ。

ルーキーたちが地下三階へはなかなか行けない理由がよくわかった。


 そして、もう一つわかったことがある。

チームの人数についてだ。

俺はこれまで単純にチームのメンバー数が多ければ、それだけリスクが減らせるのにと思っていた。

だが、ダンジョントカゲを倒して得られた報酬は2100リムだ。

命を懸けて戦ったというのに一人600リムにもなっていない。


 もし、10人のパーティーなら、一人頭の報酬は210リムになってしまう。

そういったことから、ダンジョンに潜るパーティーは六人くらいまでになっているようだった。


「もっとパーッと儲かればいいんだけどね。スライムが金貨をドロップしないかなあ」


 メルルがそうぼやくのも仕方がない気がする。

ミラも小さなため息をついて愚痴をこぼす。


「せめて宝箱が見つかればいいのですが」

「宝箱だって?」

「ええ、たまーに出現するんですよ。三カ月に一回くらいですけど」


 宝箱は迷宮の地下三階より下で現れる現象のようだ。


「それを見つけたら一生遊んで暮らせるとか?」

「ないない」


 メルルは手を振って苦笑する。


「宝箱は深い階層へ行くほど大きくなるの。その分だけ得られるお宝も高額になるわ。でも地下三階くらいの宝箱じゃこれくらいよ」


 メルルは両手で箱の形を作って見せる。

大きさは手乗りサイズだ。


「そんなに小さいのか?」

「うん。中身も銀貨十枚に宝石一個とかだよ。それでも10万リムは魅力的だけどね」

「ふーん……、ちょっと待っててくれ」


 俺は壁の方を向いて千里眼を使ってみた。

検索ワードを「宝箱」に、検索場所は地下三階に設定する。


「ユウスケさん、まさかトイレですか?」


 背後でミラの声がしたけど、今は否定することもできない。

まだ使い慣れていないせいか、術の途中で喋ったりすると魔法がキャンセルされてしまうのだ。


 検索はすぐに終わり、瞬時に切り替わった視点から、俺は地面に置かれた宝箱を見ていた。

メルルによると地下三階の宝箱は小さいという話だったが、これは結構でかい。

ミカンの入っている段ボールくらいの大きさはある。


 辺りは真っ暗で、モンスターの気配もしない。

千里眼のおかげで暗闇の中でも見ることができているけど、ここは閉ざされた空間だ。

四方の壁には剥き出しの岩がごつごつとしていた。


 出入口はないのだろうか? 

俺は壁をすり抜けて周りの様子を探っていく。

するとダンジョンの通路が見えてきた。

辺りはジメジメしていて、苔むした小さなゴブリンの石像が百体以上並んでいる。

その中でひときわ大きな石像の裏にこの部屋への入口が隠されていた。


 入口の様子を確かめると俺は隠し部屋に入った。

そろそろ戻らないと、また体調が悪くなってしまいそうだ。

でもその前に箱の中身を確認しておこう。

千里眼を使えば簡単なことである。


「どうしたんですか、ユウスケさん?」


 リガールが俺の肩をつつく。


「何でもない。ちょっと考え事をしていただけさ」


 俺は平静を装って見せた。

だけどメルルは疑わし気に俺を見ている。


「なんだかハアハアしていない?」

「そ、そんなことはないぞ」


 千里眼を使うとこれだから困る。


「最近、ぼーっとしていることが多いよね。そんなときは息遣いも荒いし……」


 メルルは俺を心配してくれているのか……。


「私を見てエッチな妄想をしていた?」

「ダンジョンでそんな余裕はないわっ!」


 そんな風に思われていたなんて心外だぞ。


「ところでさ、ちっこいゴブリン像がたくさん並んでいる場所って知ってる?」

「それは百鬼像ですね。かなり奥地なので行ったことはありませんが」

「あそこは何にもない場所だよ。モンスターもほとんど出現しないし」

「そうなんだ。まあ、地図作りのためにはいかなくてはならないけどな」


 地下三階の地図作りを終えたら、三人にはあの宝箱をプレゼントするとしよう。


「宝箱は気長に待とうぜ。近いうちに手に入るかもしれないしな」

「どういうことですか、それは?」


 首をかしげるリガールにお菓子を手渡す。


「今はこの宝石で我慢してくれ」


 商品名:ジュエルキャンディー

 説明 :宝石のような色と形をしたアメ。

     ルビー・サファイヤ・エメラルドの三種類がある。

     それぞれイチゴ・ブルーハワイ・マスカットの高級な味。

     食べると気力が回復し、ポジティブになれる。

 値段 :30リム


 迷宮の灯りに色とりどりのキャンディーが煌めいた。


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