第56話 地図作り開始

 朝の混雑がおさまり、冒険者たちがそれぞれに探索を始めると、俺はすぐに店をたたんだ。

これから地下一階を巡って地図作りに励むのだ。


「ヤハギさん、行きますか?」


 リガールが張り切った声を出している。

地図を作るのだからいっぱいメモを取ることになるだろう。

その間は無防備になってしまうので、リガールに協力を依頼したのだ。


「いざというときは戦闘にも参加してくれよ。自慢じゃないけど自信はないんだ」

「任せてください。実践を経験できるいいチャンスです。存分に働かせてもらいますよ」


 リガールは普段ポーターをしているので、なかなか戦わせてもらえないそうだ。

覚えたてのファイヤーボールを使えるとあって今日は張り切っているらしい。

なんでも二発までは連続で撃てるようになったそうだ。


「三発撃てるようになったらガルムのチームに入れてもらえるんだったよな?」

「はい、もう少しです!」


 頼もしい限りである。

 俺も今日は新しい武器を持ってきた。駄菓子のヤハギの新商品だ。


 商品名:八連発ピストル

 説明 :マジックバレットを発射するピストル。人に向けてはいけません。

 値段 :500リム


 前世で売っていたおもちゃのピストルは、火薬の詰まった八連キャップを銃にセットして遊ぶものだった。

引き金を引くとパンパンと火薬が鳴り、子ども心にそれなりの迫力を感じたものだ。

けっこう大きな音がしたので、都会で遊べる場所はもうなかったと思う。

下手をすれば通報されてしまうからね。


 さて、こちらのピストルだけど、魔法の弾が出る。

威力としてはロケット弾よりは小さい。

ただ、狙いがつけやすく、攻撃までの動作が短くて済む。

さらに八連発で撃てるので複数の敵にも対応できるところが良いのだ。

また、前世の拳銃と違って反動がほとんどないので撃ちやすくもあった。


 デメリットは威力が小さいことと、八発撃ち尽くすとボロボロに崩れて二度と使えなくなってしまうことか。

冒険者たちの評価もあまりよくない。

これに500リムを出すくらいなら、弓矢や剣で闘う方が早いと感じることが多いようだ。

攻撃魔法が使える冒険者なら使う意味はさらになくなってしまう。


「俺としては便利だと思うんだけどなあ」

「ん~、500リムはちょっと高いですよ」


 確かにこれで地下一階のモンスターを倒しても、得られるお金が少なければ意味はないか。

売れない商品なら俺が有効活用しようと、二丁拳銃を構えて地図作りに乗り出した。



 ダンジョン入り口から始めて、俺たちは普段は入ることのない細い路地へとやってきた。


「ここへ来たことはある?」

「はい、僕は何度もありますよ」


 リガールはポーター歴が長いので、その辺のルーキーよりダンジョン内に詳しいのだ。


「この先はどうなっているの?」

「そうですねえ、奥の方は細かく枝分かれしています。強い敵はいませんが、それだけに稼ぎはよくありません」


 そんな会話をしているとモンスター発生の合図となる濃い霧が通路の奥から流れ出してきた。


「ヤハギさん」

「おう、気づいているぞ」


 両手にそれぞれピストルを構え、胸にはモンスターカードも用意した。

本日は攻守ともに能力の高いRストーンゴーレムが入っている。


「来ました、ダンジョンマイマイです!」


 ダンジョンマイマイは殻の直径が五十センチにもなる巨大なカタツムリのモンスターだ。

強酸性の粘液を出して敵を溶かし、捕食することで知られている。

接近されれば厄介な敵だが、幸い動きは緩慢だ。

近づかれる前に攻撃する、先手必勝はどこの世界でも通じる概念であった。


 俺は右手の銃だけを使い、狙いをつけて引き金をしぼる。


 パスッ、パスッ!


 気の抜けた炭酸飲料の蓋を開けるときのような音がして、マジックバレットが二発発射された。

ところが命中したのはダンジョンマイマイの殻の部分で、弾は簡単に跳ね返されてしまう。


「ダメです、ヤハギさん。ダンジョンマイマイの殻はかなり硬いんですよ。狙うのなら頭部にしてください」

「了解」


 俺は二歩前に出て銃を構え直した。

そして近づいてくるダンジョンマイマイに更なるマジックバレットをお見舞いする。

一発、二発、三発、モンスターの頭部が吹き飛び、ダンジョンマイマイはついに倒れた。


 ボウッ!!


 轟音が鳴り響き、リガールの手から大きな火球が飛び出した。

少し離れた場所にいる俺でさえ熱を感じるほど高温だ。

これがファイヤーボールか! 

もう一匹いたダンジョンマイマイに魔法が着弾すると、火はさらに燃え上がる。

いくら殻が硬くてもこの魔法攻撃の前では意味がない。

蒸し焼きになってしまうだろうから。

たいしたものだと感心した。


 二匹のモンスターが消滅すると魔結晶と大銅貨が六枚落ちていた。

使ったマジックバレットは五発、残弾は三発か。

慣れれば一発で仕留められるかもしれないけど、稼ぎとして良くはない。


「これだけの戦いをして600リム+魔結晶か。ルーキーたちも大変だな」

「確かにそうですけど、一日1000リムで雇われるポーターよりはマシですよ」


 今日の稼ぎはリガールと折半するということで話はついている。

儲けはまだ一人につき300リムだ。

もう少し魔物を倒さなければ割に合わないだろう。


「よし、もっと奥まで行ってみよう。今日中にこの辺の地図は作り終えたいからな」

「了解です。この先は足元が湿っていて滑りやすくなっている場所があるので気を付けてくださいね」


 そういう情報も地図に書きこまなければならないな。

俺は歩数を数えながら通路をさらに奥へと進んだ。


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