第25話 温泉発見


 教えられた温泉は地下二階にあるので行くのには危険が伴う。

俺は店の商品を使って万全の態勢で臨むことにした。

ミネルバ、メルル、ミラが一緒でも自分の身くらいは自分で守りたい。

みんなの前で無様な格好をみせるのはいやだ。

駄菓子屋さんだってカッコつけたいのだ。


 残っているモンスターカードはCジャイアントクロウ、Rゾンビナイト、SRタートル忍者、Rストーンゴーレムの四枚だ。

比較的強いカードを残しているから、これで対応したい。


 出がけにスクラッチカードも引いた。

四枚目にしてようやくアタリが出る。

絵柄は剣で腕力アップ。

うおっ? 本当に力が湧いてくるぞ。

ダンベル何キロモテるかな? 

それからあんず棒を二本食べて勇気を注入! 

素早さを上げる大玉キャンディーやモロッコグルトもポケットにねじ込んだ。


 ダンジョンの入り口で待っていると間もなくミラとメルルがやってきた。


「おはよう、ユウスケさん。ミネルバさんはまだ?」

「ああ、時間には厳密な奴なんだけど、今日は遅いな」


 待ち合わせをすると大抵は俺より早く来るのがミネルバだ。

それか思いもしない場所で鉢合わせをすることも多い。

そういうときは「奇遇だな」とか「偶然だな」とか言って現れる。

まるで俺が来るのを見越して張り込みをしていたように感じることもあった。


 しかし今日のミネルバは遅い。

昨日はなにやら大切な用事があると言っていたから、忙しくしているのだろうか?

しばらく待っていると、ミネルバはダンジョンの中から現れた。


「待たせてすまない」

「いや、たいしたことはないが、大丈夫なのか? 声が疲れているように感じるが」

「少し寝不足なだけだ。気にするな」


 歩き方さえ元気がないように思えるけど平気だろうか?


「温泉はモンスターも出ないそうだから昼寝をするといいぞ」

「いや、寝てなどいられるか。二人がハレンチな行いをしないように私が見張らないと……」


 まだ言っているよ……。

ミネルバは疲れているようだったけど目だけは爛々と燃えるようだった。


       ◇


 地下二階へ続く階段は何度も見たことがあったけど、実際に下りるのは初めての経験だった。

恐ろしい石像が何体もあって地下一階より不気味な感じが強まっている。


「ポー、ポー、ポー」


 奥に進むと鳥のような鳴き声が聞こえてきた。


「これは何の鳴き声? モンスターが近くにいるのか?」


 俺はジャイアントクロウのカードを握って身構える。

メルルもミラも心配そうな顔で辺りを見回した。


「こんな鳴き声初めてだよ。新種のモンスター?」

「ポーポーポー」

「リズムは花奏虫に似ていますけど、これは鳥の声ですよね……。こんなの初めてです」


 俺たち三人は警戒していたが、さすがにミネルバは落ち着いていた。


「気にすることはない。鳩がダンジョンに迷い込んだだけだ」

「鳩が?」

「鳴き声は複数聞こえるんですけど……」

「群れで迷い込んだんだ! つまらない心配などしていないで行くぞ」


 ミネルバは俺から地図をひったくり、ずんずんと先に進んでいってしまった。



 途中で何度かモンスターに遭遇したけどことごとくミネルバが秒殺していた。

すごいやつだとは聞いていたけど他の冒険者とは段違いのようだ。

メルルもミラも圧倒されどおしだった。


 やがて俺たちは人がようやく一人通れる細い路地を抜けて、少しだけ開けた袋小路へとたどり着いた。


「着いたぞ」


 ミネルバが地図を渡してくる。


「ここでノームに教えてもらった呪文を唱えればいいわけだ」


 俺は片膝をついて、床を拳でコツコツ叩いた。


「聞き逃すな我がノック、開かれよ秘密の扉、温かき泉が湧くその部屋へ我らをいざないたまえ」


 呪文を唱え終わると目の前の壁が横にスライドして、奥に通じる道が現れた。


「モンスターの気配はない。進んでみよう」


 ミネルバの先導で入っていくと、そこは休憩所のような部屋になっており、奥へと通じる扉が見えている。

あの扉の向こうが温泉だろうか?


 思い切って扉を開くともわっとした湯気が入ってきた。

モンスターが出現するときの霧とは違い、お湯の匂いがしているではないか。

湯気が薄くなると目の前に大きくて綺麗なお風呂があった。

有名な温泉地で見た百人風呂よりも広いくらいの浴槽だ。

お湯はこんこんと湧き出ていて、浴槽の端から流れていく。

源泉かけ流しというやつである。


「おお、なんかいい感じだな。風呂の底には玉砂利が敷き詰めてあるぞ」

「お湯が柔らかいです!」


 お風呂に手を入れたミラが喜んでいる。


「よし、さっそく入ろうぜ。先に女の子が入ってよ。俺は向こうの部屋で待っているから」

「それじゃあお先に!」

「楽しみだねえ」


 俺は女の子を残して出ていこうとしたのだが、なぜかミネルバが動かない。

まったく、お約束のボケをかましやがって……。


「こら、シレッと残ろうとするんじゃない!」

「え?」

「おまえは男だろうが!」


 ツッコミを入れてやると、ミネルバは慌てた様子を見せた。


「そ、そうだった。すまん、すまん」

「温泉に行くとそのボケをかますやつがいるんだよな」

「いや、そういうつもりでは……」

「というわけで先に入ってきな」

「はーい」


 俺とミネルバは湯殿の手前にある待合室へ戻ってきた。

がらんとして何もない部屋だけど、モンスターが出ないので安心だ。

屋台を出せば椅子もついてくるので、俺はここで店を出して一休みすることにした。


「開店」


 と、また俺の固有ジョブがレベルアップしたようだ。


「おお……」


 俺は待ちわびたものの出現に心を震わせていた。

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