第11話 スクラッチカード(ガム付き)


 数日が経過してまたもやレベルが上がった。

レベルアップには売り上げが関係しているようなのだが、帳簿ちょうぼというものを一切つけていないので詳しいことはよくわからない。

だけどたくさん売り上げるほどグレードアップされるようだ。

とにもかくにも補充がなされ、新商品が追加された。

新商品の代表格がスクラッチカードだ。


 商品名:スクラッチカード

 説明 :同じ絵柄がそろうとステータスボーナス(半日持続) 絵柄によって腕力、素早さ・魔力などが上がる。200リムの金券が当たる場合も。累積は効かない。ガムつき

値段:30リム


 俺が初めてギャンブルに触れたのは駄菓子屋だった。

考えてみれば駄菓子屋には射幸性しゃこうせいが高いものがそろっている。

子どもの頃に通った駄菓子屋にあったのは台紙に張られた金券シートで、最高当選額は200円だった。

ハズレが多いのだけど、お金に余裕があるときは挑戦したものだ。


 ステータスアップの効果が半日しか持続しないのなら、これは朝に売るべき商品だろう。

夜のダンジョンへ行く人はゼロではないけど少ない。

メルルが熱くなり過ぎないように気を付けてやらないと。

最近のメルルは鎮静効果のあるミニミニコーラを手放せない。


「チーっス!」

「おはよう、ガルム」


 今日最初のお客さんはかつてカレーせんべいを仲間に宣伝してくれた若い冒険者だった。

うちの店ではメルルとミラに続く最初期の常連さんである。


「あれ、新しいものがあるね」


 さっそくスクラッチくじの説明をしてやる。


「へぇ、面白そうだな。30リムなら運試しに引いてみるか」

「好きなのを一つはがしてくれ」


 ガルムは台紙からカードをはがした。


「それで、どうするんだ?」

「銀色の丸をコインで擦って削るんだよ」


 ガルムはポケットから10リム銅貨を取り出した。


「どれどれ……お、下から絵が現れたぞ」


 出てきた絵柄は剣のマークだ。


「その絵が三つ揃うと腕力のステータスがアップするんだ」

「よーし……」


 ガルムは期待に満ちた目で二個目を削る。

彼は戦士なので腕力のステータスアップは役に立つだろう。

出てきた絵柄は……。


「よっしゃ! 二個目がそろった」


 剣のマークが二つ並んだ。

だけど、ここまではよくあることだ。

問題は最後の一つがどうなるか……。

ガルムは舌を噛みながら最後の一つを削っていく。

その間に彼の仲間もやってきて肩越しにカードを見守っていた。


「お……おお!」


 出てきた絵柄は同じ剣だった。

絵柄が三つ揃った瞬間にカードがまばゆく発光し、赤い光がガルムの胸に吸い込まれていく。


「うおおお、何だこりゃ!? 力が湧いてくるぞ」


 さっそくカードの効果が現れたらしい。


「その効果は半日しかもたないから気を付けろよ。まあダンジョンに潜っている間くらいは継続するだろう」

「お、俺にもスクラッチをくれ!」

「俺も! それからコーラのキャンディーもなっ!」


 駄菓子のヤハギは今日も繁盛だ。

これなら欲しかった生活必需品がいろいろと買えるだろう。

鞄とか櫛とか、必要なものはいっぱいある。


「なにこれ! なんだか楽しそうな商品が増えてる!」


 やってきたのはメルルとミラだ。


「新商品のスクラッチくじだよ」

「へぇ、30リムか。それではさっそく……」

「ちょっと待て。メルルはやる前にミニミニコーラを一粒食べなさい」

「うっ……。わかったわよ。これでいい?」


 常に持ち歩いているボトルからメルルは硬い粒を口に入れた。


「言っておくけどハズレも多いぞ。その場合は何の効果もないガムしかないからな」

「その方が腕が鳴るってもんよ……」


 メルルはゆっくりと時間をかけて1枚を選び、わざわざ1000リム銀貨を取り出して削りだした。


「銀貨で削ってラックがアップ!」


 何の根拠もないギャンブルオカルトだ。


 銀紙が削れて、最初の絵柄は杖だった。

これがそろえば魔力がアップする。

ところが二つ目にして夢は砕けた。

出てきた絵柄はブーツ、素早さの象徴だ。


「クッ……殺せ……」


 使い方を間違っているぞ。

さすがはメルルと言うべきか、出てきた絵柄は剣、杖、王冠とすべて違っていた。

大抵、二つくらいはそろうのにね。


「王冠がそろっていればすべての能力が上がったのにな」

「も、もう一枚……」


 モグモグと外れのガムを噛みながらメルルが新しいスクラッチカードに手を伸ばす。


「それくらいにしておけって」

「でもさ、ここ数日魔女は低階層にいるって噂じゃない。少しでも能力アップをしておきたいのよね」


 魔女が低階層に?


「魔女ってダンジョンの地下深くに住んでいるんじゃなかったっけ?」

「それがさ、昨日は地下三階での目撃情報があったんだ。トップチームが毒矢を当てたんだけど、結局逃げられちゃったみたい」

「ふーん。ところで魔女ってどんな顔をしているんだ? みんな知っているみたいだけど手配書みたいなものはあるのかな?」

「王宮前の広場に張り出してあったよ。あとさ、魔女は王様に呪いをかけた反動で花奏虫かそうちゅうに好かれる体になっちゃったの」

「花奏虫って?」

「ダンジョンに生息する虫。普段は鳴かないのに魔女が近くにいるときだけ高い声でリーリー鳴くんだ」


 スズムシみたいだな。


「私たちみたいな低ランクの冒険者は花奏虫が鳴きだしたら逃げるようにしているの」

「ふーん、だったら俺にも花奏虫を取ってきてくれよ」

「どうして?」

「花奏虫がいれば魔女が近くにいるかどうかわかるだろう。鳴きだしたら逃げるからさ」

「臆病だなあ。魔女はダンジョンの外へは出てこないって話だよ」


 本当だろうか? 

魔女だってご飯やおやつを調達する必要があるだろうに。


「それに花奏虫はダンジョンの奥じゃないと生きられないんだよ」

「そうなのか?」

「うん。じっさいに花奏虫がいるのは地下二階より下だもん」


 考えてみれば魔女が駄菓子屋を襲うことなんてないかもしれない。

魔女が恨んでいるのは王様一人だ。

いや、みんなが追い掛け回すから人類全体に敵意を向けてしまった可能性も無きにしもあらずか……。

朝の商売が終わったら散歩ついでに手配書を見物するとしよう。




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